サバイバル道具を持っていきましょう。
彦根山。
ここいらでは一番標高がある山で、登山道も整備されている。
「山を登るの?」
「そうしたいのはやまやまだけどね」
ドヤ顔をする純平をスルーして、チャリを漕ぐ。
いよいよ目の前に彦根山が迫ってくる。
間近で見るとでかいなぁ。
「こっちこっち」
「…………えっと………、え?」
純平がハンドルをきった先は、ただの茂みと山の急斜面があった。
「チャリをそこら辺の茂みに隠して、ついてきて」
「ここただの山の斜面だよ。登山道から行こうよ、登山道」
「ついてこいって」
「えぇ~~……」
はぁ…。
……まぁ、しゃあないか。
チャリをそこら辺の茂みに隠して、純平の後を追う。
「うわっ、きつっ」
思ったよりも急な斜面だ。
いやだからさ、ここに来るまでといい、運動不足にはしんどいって……。
何かよく分からない虫が飛んでるし…。
何でコイツはこんなに躊躇なくガンガン進めるんだ??
僕と同じインドア派のくせに…。
***
「まだ登るのー?」
「あと少し」
いや、もうほとんど真っ暗なんだけど…。
彦根山に到着した時点で大分薄暗くなっていた。
そこからさらに山を登り始めたため、もう辺りは足元を確認するのもおぼつかない。
「暗くて見えないよ…」
「よし、着いた」
「……、お、おう」
つ、ついたんだ。
さて、ここはどこかな……?
純平が懐中電灯で辺りを照らす。
…懐中電灯?
そんなもの持ってきていたのか。
次第に全容が明らかになっていく。
って……、
「ここ、ただの林じゃね?」
「あぁ」
「今日はここに泊まろう」
……。
「何でこんな林の中なのさ?寝るにしてももっと何かいい場所が…」
「いや、無いよ」
断言しやがった。
「多分、今現在最も安全なのは自然の中だ」
「……その心は?」
「……後で話すよ」
ふぅ…。
***
五月とはいえ、夜はまだ肌寒い。
先ほど純平が起こした焚き火が、パチパチと心地のよい音をたてている。
純平のバックパックの中身は、そのほとんどがサバイバル道具だった。
『数日ここで過ごすの?』と聞いたら
『よく分かったな』とあっさり頷いた。
………マジで?