身を隠すなら山が一番最適です。
「山って……、ここおもっくそコンクリートジャングルなんですけど」
「チャリで走っていれば、いずれ山に着くよ」
「そうだけどさ…」
ここは一応れっきとした地方中枢都市であるため、ある程度の距離走らなきゃ山には到着しない。
「時間がない。さっさと行こう」
「ちょっ、分かったから…」
急いでエナメルにさっき買った食料を詰め、家を出る。
鍵をかけて…っと。
「和樹ー、早くー」
「今行くから!」
もう純平は既にチャリにまたがっている。
あいつ早いな…。
階段を降り、僕もチャリにまたがる。
うん?
気のせいだろうか。
首筋がチリチリする。
しかし、周りを見てみると、ついさっきと何ら変わっていない。
野良猫に、井戸端会議に興じる主婦逹、コンビニ帰りと思われるニートのおじさん。
うん。やっぱりいつも通りだ。
「和樹ー!」
「分かってる!今行くって!」
ふぅ…、本当に山に行くのか…。
***
『ちょっと家に寄るよ』
物を取りに行きたいと言うので、純平の家に寄った。
5分足らずで家から出てきたが、その背中には外国人が背負ってそうなバックパックを装備していた。
それからコンクリートジャングルを抜け、何本もの橋を越えて、次第に低くなって行く太陽を眺めながら、チャリを走らせた。
足はパンパン。
明日は筋肉痛だろう。
ようやく山の稜線が見える頃には、辺りは薄暗くなっていた。