武器より食料です。
「母集団の変更だ」
……?
ぼしゅーだん?
「…確率の話だよ」
「…数学、嫌い」
「……」
沈黙。
「…例えばだけど、学校で鬼ごっこをするのと、町中で鬼ごっこをするのはどちらが捕まりにくい?」
「町中」
「そういうこと」
なるほど……。
……いや、分からないよ。
「武器はいらないの?」
「武器より食料だ」
「ゾンビをどうやって倒すの?」
「………これだからゲーム脳は…」
お前もそのゲーム脳だろう!というツッコミを飲み込む。
「ゾンビを倒す必要はまだないよ。とりあえず学校という狭い範囲で感染爆発が起きる前に、逃げ出したかった。それだけ」
「ようするに、逃げづらくなる前に逃げたかったってこと?」
「おう」
ふーむ。
感染爆発。
実感を伴わない。
「これからどうするの?」
「情報を集めるよ」
言うが早く、純平はスマホをいじっていた。
「…大規模な通信障害は無い、となると…」
ぶつくさ呟きながら、世話しなく人差し指を動かしている。
純平からの指示待ち。
虚空を眺めて時間を潰す。
……僕は相変わらず純平に頼りきりだな。
***
……純平とは幼稚園からの付き合いだ。
彼は大人しく、何を考えているのか分からない子供だったが、いつの間にか僕と一緒に遊ぶようになり、仲良くなった。
性格が合っていたとは思わない。
きっと見る人が見たら、正反対だろう。
落ち着きが無い、という自覚のある僕と冷静な純平。
僕は困ったことがある度に彼を頼り、 助けて貰う。
それが普通になっていた。
今回も同じ。
ゾンビの話も聞きようによってはただの悪ふざけだ。
しかし、その悪ふざけに付き合ってくれるのは純平の優しさであり、日常茶飯事だからだろう。
ありがたい腐れ縁だ。
***
「学校で手に入るような武器は、大抵どこにでもあるよ」
ひとしきりスマホをいじって何度か頷き、純平はゆっくりと語り始めた。
「ゲームでゾンビに対抗できる武器は何がある?」
「……えぇと、金属バットとか…、ショットガンとか…」
「金属バットはともかく、ショットガンは学校にあるか?」
「ロッカーの中とかに…」
「それはホラゲーの世界な」
ホラゲーでも中々レアな部類だよ。
強いんだよなぁ…。
「身近にショットガンは無い。あったとしても使えない。使い方が分からない」
うんうん。
実銃は持ったことすらない。
「だから…、メインウェポンは自然とどうなる?」
「金属バットとか…、バールのようなもの?」
「バールでいいよ。バールのようなものは大抵バールだよ」
丁寧にツッコんでくれるなぁ。
ありがたい。
心の中で思わず感謝。
「…となると、どこにでもあるだろ?」
「まぁ……うん、そうだね」
別に珍しい物ではない。
金属バットならお隣さんの202号室前に立て掛けてある。
確か息子さんが野球やってたんだっけ?
「それよりも、しばらく食べ物に困らないように、食料を手に入れといたってわけだ」
「ゾンビだらけのショッピングモールに、食料調達に行くのもホラゲーの醍醐味じゃない?」
「命が懸かっていないなら、な。それにホラゲーでは食料調達はほとんど無い」
「分かってるぅ~」
「ホラゲー教えたの俺だぞ」
軽口で互いに笑いあう。
緊張感はゼロ。
休日みたいなテンションだ。
ゾンビを見たときの切迫感はとうに失せていた。
あれは純平とサボる口実を作るための幻影だったのではないかと、そんなことを考えてしまう。
不意にピピピピピ…と純平のスマホがなる。
いつの間に設定してたんだ?
「……っと、そろそろ行くか」
「どこに?」
「山」