精神論でなんとかなることもあります。
通路の向こう。
近づいてくる嬌声を聞きながら、バットを強く構える。
「生存者かな…?」
「だろうな」
走りながらなるべく短い言葉で言葉を交わし合う。
「ただ、俺らと同じような感じじゃないか?」
「どういうっ…、ことっ…?」
息が切れて苦しい。
それなのに、純平は何でこんなに平気なんだ…?
「きっと食料を確保しに来たとか、そんな感じだと思う」
「あぁ……、なるほどね……」
だとしても、もっと安全な、それこそ近場のスーパーにでも行けばいいものを……。
通路の出口が見えてくる。
その向こうにはゾンビとおぼしきシルエットも。
「助けるときも頭を狙って一発で倒せよ。時間をかければかけるほどゾンビは集まってくるから」
「っ……、分かった…!」
出口を開け放ち、声の方へ走る。
―――――――――っ!!!!
まず最初に視界に入ったのは、モール内を闊歩する多くのゾンビの姿。
目で捉えられる範囲でだが、軽く100体以上は間違いなくいる。
「和樹っ、あっちだ……!」
純平の指さす先。
おそらくイベント会場として使っていたであろう広場。
そこで女の子が二人、数体のゾンビに囲まれている。
って、あれ俺らと同じ学校の制服じゃないか!!
「純平…!」
純平は首肯し、そのまま広場めがけて走り出す。
途中にゾンビがいたが、間を縫うように静かに走り抜ける。
襲ってくるかと思い身構えるが、不思議にもゾンビどもは僕たちに関心を寄せることはなかった。
「来ないて!!来ないでよ!!!!」
女の子の一人は大声を上げて、ラケットのようなものを振り回している。
反対にもう一人は頭を抱えて泣きじゃくっているように見えた。
六体。
女の子達は六体のゾンビに囲まれている。
倒しきれるか。
いや。
「倒すしかないよな…」
ゾンビの一体がラケットを掴んだ。
「間に合え……!」
あと少し……!!!!!!!
距離にしておよそ20メートル。
ラケットが折られるのが見える。
「ぅおいしょぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!」
思い切りバットを振りかぶり。
そして。
バットがゾンビの脳天を捉えた。
激しく血しぶきをまき散らし、ゾンビの頭部が大きく変形する。
「次ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!!!」
隣にいるゾンビの頭部を側面からフルスイングする。
同様に血液を滴らせ、頭部をへこませながら、大きく後方に吹っ飛んだ。
「ナイス!!和樹!!」
ふと、純平の方に視線を送ると、純平は純平で、四体ものゾンビを鮮血に染め上げていた。
――――――――コイツ……、すごいな……。
なんてことはない。
ただの作業だというように、軽くゾンビを片付けている。
「こっちだ!」
純平が声を張り上げる。
しかし、腰が抜けてしまっているのか、二人の足取りは少し心もとない。
仕方ない。
片方の女の子を僕、もう片方を純平が。
それぞれ肩で支えて歩く。
「ご…ごめんなさい……」
「大丈夫だから。今は逃げよう…!」
心なしかゾンビの数が増えてきているような気がする。
それはただの予感だった。
しかし、ある瞬間から確信へと変わる。
「何だよ……あれ…」
広場の向こう側には多くの店が軒を連ねている。
通常であれば、きっと目を見張るほどの量の人間が行き来しているだろう。
あくまでも通常であれば。
もしもその目を見張るほどの量の人間が、すべてゾンビだったら?
想像したくない。
でも現実にそれが起こってしまったら。
今の状況がまさにそれじゃないだろうか。
向こうから、道を埋め尽さんとするほどのゾンビが、やってきていた。
「一体何でっ…!」
「多分、出入り口にたまっていた奴らだ……!!」
歩いてくるスピードはたいしたものではないが、こちらは人を支えながら、ましてや女の子だ。
恐ろしい思いもしたのだろう、手や足がひどく震えている。
「いいか、和樹。絶対に声を出すなよ」
「………?」
その真意は分からない。が、とりあえず頷いておく。
方向転換し、僕たちが出てきた通路へと急ぐ。
「はっ…はっ…はっ…」
先ほどのダメージが響いているのか、あまり上手く前に進めない。
それでも必死に、歯を食いしばり、足を前に出す。
脂汗が背中を伝うのが分かる。
――――――――もしかしたら、僕、今までの人生で一番頑張っているかもしれないな……。
ゲームではなく、この現実で。
生きるために全力で。
「もうこんな近くにっ!!」
女の子の声で、ゾンビとの距離がそこまでないことを知る。
「くっ………!!」
気配がすぐそこまで迫っている。
近づくうめき声。不規則な足音。
と、不意に。
何かが割れる音が、辺りに響いた。
次第に離れてゆく気配。
……一体何が…?
まぁ、そんなことより!!
「今のうちに……!」
前を歩く純平に視線をやると、純平の手に握られているはずのバットがなかった。
先に通路に飛び込む純平達を横目に、再び近づく気配を感じる。
「和樹!!早く!!!」
「言われなくても…!」
力を振り絞り、精一杯走る。
女の子も少しずつではあるが、走れるようになってきている。
「あと少し!!」
通路に入ったら、そのまま外へ!
外までならきっと追ってこないはずっ!!
脳内で通路内の構造を思い出し、そして、シミュレーションの意味がないことを知る。
―――――――そうだった。
ほとんど一本道だった…!
「あと少しだから!」
通路内に飛び込み、そのまま走り抜ける。
気配はそのまま僕らを追ってくる。
本当にどこまでしつこいんだよ…!!
振り払うように駆ける。
体力は正直、限界だった。
でも、それでも――――――――。
「踏ん張れ!!」
出口の向こう。
純平の声が聞こえる。
だから。
あと少しだけ、ほんのあと少しだけ。
頑張ろうと思った。
「ふんぎいいいいいいいああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
ラストスパート!!!!
出口の向こうは眩しくて、目を開けていられない。
そして。
僕たちは思いっきり、光の中へと飛び込んだ――――――――――。




