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油断すると危険かもしれません。

 

 通路内は水を打ったように、ひどく静かだった。


「ゾンビは…、いないみたいだね」


「気を抜くなよ。いつどこで出てくるか分からない」


 一歩一歩。

 足音をたてないように慎重に歩みを進める。

 商品搬入の出入り口からつながる通路は入り組んでいるようで、結構シンプルな構造をしていた。

 これならゾンビに追われたところで、道に迷うようなことはないだろう。


「っと……、休憩室かな……?」


 突き当たりのかどを曲がった先に、扉が見える。

 まぁ、テンプレだとああいう所からたくさんのゾンビが出てくるんだけど。


「中にゾンビいるかな?」


「……扉を開けてみないことには分からないな」


 少しずつ扉に近づき、聞き耳をたててみる。


 ……音は無い。


 純平とアイコンタクトをとり、ゆっくりとドアノブを回す。


 わずかな隙間から中の様子をうかがうと、いくつかのロッカーとテーブルが見えた。


「……大丈夫そ」


 言葉がそこで遮られた。

 大丈夫そうだね、とそう言いたかった。

 しかし、最後まで伝えることができなかった。



 なぜなら。



 扉が()()()()から勢いよく開けられたからだ。



「っっっっ!!!!!??」


「和樹!!!」


 大丈夫。

 我ながら一瞬の判断でとっさに後ろに後ずさり、間合いをとった。


 …と言えば聞こえはいいが、実際は腰を抜かして後ろに倒れ込んだだけ。


 かすかなうめき声が聞こえ、その声の主が扉の向こう側から姿を現す。



 予想通りの姿形。

 男性で、皮膚は浅黒く、体の至る所から出血している。


 ただアパレル関係の人間だったのか、洋服に穴など開いているものの、小綺麗な格好をしていた。


「くっそ!!」


 力任せに思いっきりバットを振り抜く。

 ゾンビのあばら骨に当たり、鈍い感触がバットを通じて伝わる。


 ――――――――いける。

 確信にも似た感情。


 僕でもコイツらを倒せる。

 純平の役にたてる。


 そんな思いを抱きながら、ゾンビの頭めがけてバットを振り下ろした。

 そのまま、垂直な軌道を描きながら、バットは脳天に直撃する―――――――――はずだった。


 一瞬。

 本当に一瞬の間。


 ゾンビの姿が()()()


 …消えた?


 そんなはずはない。



 そんな馬鹿なことが…。



 瞬転。


 体を衝撃が襲う。


 横殴りに吹き飛ばされ、壁面に叩きつけられた。


「ごほっ………」


 体内の空気が丸ごと外へ吐き出され、激痛が体内を駆け抜ける。


 一体何が。

 ぼやける視界の中に先ほどのゾンビが映し出される。


 何なんだ。

 何なんだよ、コイツら。


 徐々に距離を縮めにかかるゾンビ。


 その手が僕の頭に触れんとする間際。



 ゾンビの頭部が赤い血しぶきと共に、飛び散った。



「大丈夫か!?和樹!!!」



 純平か……。

 返り血を浴びながらも気にすることなく、こちらへ一心に駆け寄ってくる。


「ありがとう……、本当に助かったよ…」


 純平の助けを借り、何とか起き上がる。


「何なんだ…!?あれがゾンビの動きかよ!!?」


「純平は何が起こったのか、分かったの…?」


「いや、お前がバット振り下ろしたら真横に瞬間移動して、そんでお前が吹っ飛んで……!」


 珍しく純平が取り乱している。

 僕の視線に気付いたのか、咳払い一つ。


「……とにかく、ゾンビを倒すときは頭に一発入れて、即殺が基本になるな」


 恥ずかしさ故か、少しだけ顔が赤くなっている。


「……そうだね」


 あえて何もいうまい。




 ―――――――不意に。


 つんざくような悲鳴が響き渡る。



 通路の向こう。



 つまりそれはモールの主だった売り場の方。



 そちらは純平曰く、数多くのゾンビが闊歩している方で。



「純平」



「行こう」


 気付けばそんなことを口走っていた。

 状況をよく吟味すれば、そんな場合ではないというのに。


「あぁ」


 そしていつも同意してくれるんだ。


 この男は。



 痛む足を必死に動かし、バットを携えて、悲鳴の方へ。



 リアルに死ぬかもしれないという中、こうして自ら危険を冒そうという精神性。

 改めて狂っている、と。

 自分のことながら情けなく思った。

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