散策してみましょう。
無事進路を決めることができ、新生活にも慣れてきたので、小説投稿を再開します。
拙い文章ですが、これまで通り生暖かい目で見ていただけたら幸いです。
異臭が漂っている。
「純平…」
「あぁ…」
街に着き、僕たちの目に飛び込んできたものは…、まぁ、結果から言えば酷い有り様だった。
たった二日でここまで日常は崩壊しうるものなのか?
大通り。
人影はなく、やけに静か。周りの建物も急に古びてしまったような印象を受ける。
ただそれらの建物に突っ込んで横転している乗用車や、おびただしい量の血痕、まだポツポツと存在する火の手が、ここいら一帯で起こった惨劇を物語っている。
「ゲームの中の世界みたいだね」
確か最後にやったネトゲも世界観的にはこんな感じだったはずだ。
「ゲームと違うのは、常に残機ゼロの状態だってことだな」
純平はここまでの被害を予測していたのだろうか、そんなに驚いていないように思える。
「誰もいないね…」
「和樹、ゾンビは案外引きこもりかもしれないぞ」
「…?どういうこと?」
「ここに着いてから結構進んでいるのに、人影はおろかゾンビも出てこない」
「うん」
「それにこんな惨状になっているくらいだから、そこそこの数のゾンビは存在する」
「うん」
「それを踏まえてなお、屋外にいないってことは…」
「屋内にいるのかな」
「多分ね、日光を嫌う性質でもあるのかもしれない」
もう一度周りを見回し、改めて気配の無さを実感する。
「これからどうしよう」
ゾンビがいないのは嬉しいけど、それじゃ本来の「ゾンビの情報を集める」という目的から外れてしまう。
「ちゃんと目で見て情報を集めたいから、ある程度屋内に行く必要もあると思う」
それが普通であるかのように、そう言いきった。
…相変わらず、すごいな。純平は。
自ら危険を冒すなんて、俺にはできない。
情報収集なんてしなくてもいい。
ゾンビのことなんて別に知らなくてもいい。
もう会いたくないんだ。ゾンビに。
遭遇するたびに背筋を駆け抜ける、本能が警鐘を鳴らすあの感覚。
思い出すたびに、気持ちが悪い。
――――――本当はあの山にこもっていたかった。
ただ、自分を騙しながらもここまで来たのは、ひとえに言って純平の存在があったからだ。
腐れ縁をここまで言うのもこっぱずかしいけど、これまで純平の言うとおりにしてきて何とかなってきた。
だから。
純平を信じてさえいれば、俺は死なない、生きていられる。…多分。きっと。
「和樹」
「うん?」
「悪いな。前言撤回だ」
「…?何のこと?」
「前にショッピングモールになんか行かない、みたいなことを言ったけどさ。行くことになるかもしれないわ」
「…なんでまた?」
「もしかしたら、近隣のゾンビがほぼほぼ皆、モールに集まってるかもしれないんだ」
「………」
「あくまでも予想の範囲なんだけどさ、立てこもることができる施設っていったら、やっぱり限られてくるんだよ。学校もいけなくはないけど、食糧不足とか色々制限されるから」
…まあ、確かに学校に立てこもるとなると、少し心もとないかもしれないけど。
「その点、モールとかの大型商業施設はその心配がない。食料もちゃんとあるし、逃げるための通路も多い。当然ながら人が集まってくるわけ」
「その人間を求めて、ゾンビも集まってくるんだね」
「多分な」
だとしたら、モールには相当な数のゾンビがいるんじゃ…。
「ただ本格的にモールの中に入っていくわけじゃない。モールの近くにいけばゾンビもいるだろうから、軽く見に行く感じだ」
純平は俺の不安げな表情に気付いたらしく、笑いながらそう付け加えた。
「ただやっぱり危険は伴うから、なにか武器になるものがいるかもしれないな」
「う~んと…、それじゃ、それも探しながら向かおう」
当面の計画が固まり、和樹と純平は死臭のする道を歩き、モールへと向かう。
そこで二人はこの行動を著しく後悔することになることを、二人はまだ知らない―――――。




