とりあえず落ち着きましょう。
「……は?」
「だから!ゾンビが出たんだって!」
誰も居ない男子トイレ。
職員室から出てきた純平をそのまま引っ張って駆け込んだ。
「…そっかー、俺まだ仕事あるからー」
「目をそらすなっ!」
純平の両手はパンパンのゴミ袋で塞がっている。
そんなことしてる場合じゃないんだって!
「本当にゾンビだよ!浅黒い肌!白目!ヨダレ!」
「…色黒のオッサンがゴミ置き場で変顔の練習をしていたんじゃないか?」
「ねーよ!オッサンかどうかも分かんないよ!」
「……いいからちょっと落ち着けよ」
「落ち着いていられるかっ!」
どうしようどうしようどうしよう!
武器とか探さなきゃ。
「はぁ~…」
ため息をつきたいのはこっちの方だ!
「いい加減に信じ…げふっ」
不意に腹部に強烈な痛みがはしる。
理由は簡単。純平が見事なボディーブローをきめたからだ。
「何…すんの…?」
「…こうでもしないと落ち着かないだろ。とりあえず何を見たのか、話せよ」
「……」
先ほどのことを伝える。
喋っていると次第に落ち着いてきた。
だが、あれがゾンビだという疑念は晴れない。
体が無意識に警鐘を鳴らす感覚。
本能に訴えかけてくる恐怖。
改めて確信に変わる。
「…ゾンビだと決めるには早計じゃないか?」
「あれは絶対にゾンビだよ」
断言する。
「………」
呆れたような面持ち。
もう後は信じてもらうしかない。
「……本当なんだな?」
「本当」
「………、はぁ…。悪ふざけに付き合うのはこれっきりな」
そう言いゴミ袋を捨てる純平。
「逃げるぞ」