逃げ遅れたら隠れましょう。
「ぁぁあぁぁぁあぁ!!」
耳をつんざく悲鳴。
と、ほとんど同時に放送がかかる。
『校内で暴力事件発生!繰り返す!校内で暴力事件発生!生徒は至急校庭に避難しなさい!!繰り返す!校庭に避難だ!』
『何かヤバそうだね…』
『おい、早く行こーぜ』
『さっきの悲鳴何だよ…』
皆もただ事ではないと感じているのか、そそくさと校庭に向かい始めていた。
「ウチたちも行かない?」
「うん、そうしよっか…」
階段を降りれば、1階。
そしてすぐ側に校庭へのドアがある。
早く外へ…。
『ちょっ、おい、なにすんっ、ぁあぁあぁぁぁあぁ!!?』
すぐ近くで叫び声が聞こえた。
思わず香織と教室を飛び出す。
私たちの他にも叫び声を聞いて飛び出して来たのか、かなりの生徒が廊下にいた。
一番始めに感じたのは血の匂いだった。
鼻をツンとつくような生臭さ。
そしてグチャグチャという不快な音。
次第に全容が明らかになる。
床にぶちまけられている大量の血液。
男子生徒の首筋を噛み、咀嚼している女生徒。
その女生徒の目に光はない。
なにもかにもが現実離れしてて、そして、理解出来なくて、そして、
『いやぁぁぁああぁあぁ!!!』
誰かが叫ぶ。
瞬間、音が戻ってくる。
『何だよこれぇぇぇぇ!!』
『早く行けよ!』
『どけ!オラァ!!』
1階への階段はパニックになる。
私たちも逃げなきゃ……。
「香織……、私たちも逃げよ……」
「…………どおしよぉ、可奈子ぉ……」
香織は隣で涙を流しながら床にへたりこんでいる。
「力入んないよぉ………」
…………………。
『痛いよぉ!痛いってばぁぁ!!』
『こいつ!噛むんじゃねぇ!!』
『許してっ!お願いします!!許してぇぇええぇえぁぁあぁあ!!!!!』
1階から聞こえてくる悲鳴。
きっと、1階に行き、校庭に出ても無駄だ。
根拠はないが、そう思う。
いや、絶対そうだ。
だったら……。
「香織、こっち!」
香織の手を引き、急いでクラスの掃除ロッカーに隠れる。
こんな。
こんな状況なのに、何で私はこんなに落ち着いているんだろう?
「うっ、えぐっ…、ぐすっ」
嗚咽を漏らす香織を撫でながら、そんなことを考えた。




