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魔王なお兄ちゃんの慰め方



「……お兄が部屋に引きこもっちゃったわけだけど、誰が踊る?」


「天の岩戸じゃありません…ただ、兄様が怒るのも無理はないかもしれません」



お兄ちゃんが何かをして、部屋の壁がひび割れて私たちも倒れてしまった。まあ、その後できちんとお兄ちゃんが介抱してくれたみたいだし構わないんだけど、お兄ちゃんはすっかり気落ちしてしまったのか、「しばらく休んで無かったから寝る」とだけ言って自分の部屋に引きこもっちゃった。わざわざ結界までしてるし…



「トウマくんは…きっと怖いんだと思う。藤島燈真として見られるのも、アレクとして見られるのも、レトラやカインとして見られるのも」


「………どうして俺たちが好きになったのかが不安なんじゃないかと思うんだ。外見や中身は確かに先輩そのものだけどさ、違和感だって確かにあった。こういう事を先輩は言ったか、したかって…」



だから、嫌われるかもしれないと思っている。シュウちゃんが言った事は私たちも理解出来た。


私たちは藤島燈真という最期まで優しかった人を目標に……そして、お兄ちゃんという免罪符で酷い事をして勇者とか英雄とか言われた。きっと、お兄ちゃんが全てを知れば嫌われる程の事をしていた。


お兄ちゃんだって同じなんだろう。優しいお兄ちゃんがアレクとして魔物を生きる為に殺した…のは割り切れたかもしれない。だけど、アレクが生きる糧以外で初めて殺したのは人間、それもリーシャちゃんのおじいさんだ。


私たち…勿論、全員ではないけれど、天使という種族を、人を殺した時に悩んだし苦しかった。後悔だってしたけど割り切らなきゃ殺されていた。お兄ちゃんはそれを繰り返した…誰かの為だと、勇者なのだからと。


まるで、ゲームをしているような感覚だったんじゃないかって思う。私たちはまだ私たちとして生きて考え行動した。でも、お兄ちゃんはアレクになった。別人の中に存在した…同じ事をした私にはもどかしい気持ちは分かる。どう足掻いても私とは違う部分があって、それに理由を押し付けた。違和感を消し去れないまま…



「…兄貴も壊れちゃってたんじゃないかな。アレクとして守ってきたものを全部壊されて、藤島燈真としての全てを否定されたみたいで…」


「……前の前のウチたちが原因、なんですかね。アレクに理想を押し付けて、勇者でいさせようとした。なのに、守ってきたものを全部奪われて、信じていたもの全部に裏切られて……」


「ユートだった俺は羨ましかった。アレクの苦しみも何も分かってなくて…今だってそうかもしれない。勝手に浮かれてさ…」



ウィンディアちゃんの言葉をきっかけに、誰からともなく浮かれていたと口にし出す…そうなんだ。お兄ちゃんの気持ちを二の次にしていた。お兄ちゃんの好意にずっと甘えていた。


お兄ちゃんは変わったんだ。藤島燈真という理想、アレクという希望を粉々に打ち砕かれたお兄ちゃんはレトラになった。人間よりも自分の気持ちを優先しようとした…私たちの知るお兄ちゃんの姿からは想像も出来ない。だから、リーシャちゃんはお兄ちゃんを討とうとした。私たちが向かいかけていたのはそこではないだろうか。


この中でイリーナちゃんだけが知ってるお兄ちゃんが居る。でも、本質は変わらないと思っていた。だけど、そうでは無かった…



「確かに兄様はわたしたちには優しかった。でも、確かに魔王だった。前の魔王みたいに遊び感覚じゃなく、本気で人間を皆殺しにしようと思ってた。勿論、1人を除いて…その1人がしでかしたんだけど」


「うっ…」


「まあまあ…でも、もししでかしたのがリーシャちゃんじゃなかったらお兄はどうなってたんだろうって思う時はあるよ。家族まで奪われて…お兄はリーシャちゃんにでさえ世界を壊そうとした。リーシャちゃんだけを残して生きる苦しみを与えようとした。あの時、お兄は死を望んでいた……藤島燈真として経験していたのに、分かった上で死のうとした。もし、ここでお兄を拒絶しても間違えた方法を取っても居なくなる気がする」


「かなちゃん……」



そうかもしれない。そう思えてならない…全員が暗く沈んでいく中で、1人だけ違う言葉を発した人が居た。



「我輩には難しい事は分からんにゃん。ただ、小夏なんて前世も藤島燈真とかアレクとかレトラとかなんて知らんにゃん。我輩が子作りしたいのはトウマ・アレクトラだにゃん…ご主人様と認めるのは今のあいつにゃん。本性隠してようが、本当は悪い奴だろうが関係ないにゃん。少なくとも我輩の耳を撫でている時のご主人様は優しかったにゃん。それだけで十分にゃん。それだけで我輩は一生を決められるにゃん」


「猫耳族は安易で良いよね…」



タマちゃんもそんなだったと思う。けど、それが答えかもしれない…考え過ぎなんだ。お兄ちゃんも私たちも。私たちはお互いまだ何も見ていなかったと思えてきた。









カインの末路…というか、アホ魔王の末路を俺も辿るところだったかもしれないと思う程の振動だったらしいとシュウゾウから聞いた。破壊神とかになりかけた…とかでは済まされない。大罪系で抑制してきた反動が怖い今日この頃…過剰反応したアクセサリーの所為で誰も俺に近付けないらしく夜這いされる心配も無いがちょっと寂しい。


理不尽な事を言ったとは思う。でも、理想と現実は違う…あれくらいで諦めてくれるならそれまでという事だが、あれくらいで諦めるのが何人居るか。むしろ、居ないと思う。居てくれたらいいとも思っているが無理だろうな…無理じゃないかな。


むしろ、言葉よりその後で嫌われたかもしれない。それは仕方ない…俺が抑えてきたものがあいつらを傷付けるなら近寄らないのが正解だ。というより、真剣に封神とか考える必要あるかもしれない。


自己嫌悪という事もあるが、何がきっかけで暴発するか分からない…それで自爆する程度なら構わない。が、巻き込むと…ウジウジ考えてても意味は無いが。巻き込むと世界まで弾け飛びそうだし。



「とりあえず、ゆっくり話し合うべきだな…」



まずはそれからだ。自分の感情のコントロールはその後で考えれば良い…少なくとも、1週間も離れていた間にそういうのも悪くないと思っていたんだし。まあ、さすがに拙速過ぎるし人数多いとは思うけど。


まあ、開き直ろうと思う。まだまだアレクという人生を奪った事は割り切れてはいないが、アレクそのものが既に居ないのだからと割り切ろう…まあ、そうすると割り切らせなければならない面々の問題にぶち当たるわけだが…


どちらにしても、アクセサリーの阻害をして話し合う場所を作れるようにしないといけない。割と適当に作ったのに優秀過ぎる性能というのも微妙なものだ…まあ、だから気絶で済んだのだろうが。








「うーん…じゃあ、故郷に帰れば良いんじゃない?」



かなちゃんが冷たく言い放つ。さっきのお兄ちゃんが怖かった人に手を挙げさせて問答無用で言った…ちなみに、私も怖かったけどお兄ちゃんを失う恐怖に比べたらむしろ快感を伴う恐怖でしかなかったよ。


まあ、それを理解していない子達が手を挙げていたわけで…一番近くで受けたフローラちゃんが怯えるのは仕方ないと思う。まだ赤ちゃんみたいなものだし…お兄ちゃんと子作り狙ってる赤ちゃんってのも嫌だけど。


でも、そんなフローラちゃんでさえもゴミに見えるのか、かなちゃんの視線は厳しい。お兄ちゃんを追い詰めたって思っているところもあるんだろうなぁ…心読めるとかって言ってたし、お兄ちゃんネガティヴになり易いし。


いや、優しいだけなんだ。だからこそ、かなちゃんだって怒っているんだと考えを改める。お兄ちゃんを怖いとか思う事が間違いなんだ。


私はお兄ちゃんの剣。お兄ちゃんが守りたいと思うもの全てを守るための剣だ。結界なんて貫いてお兄ちゃんを守るために近くへ行かなければならない。



「かなちゃん。皆…お兄ちゃんを連れてくる。何度でも確かめれば良いんだよ。私たちがお兄ちゃんを何を好きになったのか…世界を壊す事だって出来て、支配者とか独裁者だって出来る力があるお兄ちゃんが、私たちの知ってるお兄ちゃんで居続けてる…それが全部だよ。だから、怖がらなくて良いんだよ。お兄ちゃんはとっても優しいだけなんだから」



だから、お兄ちゃんを説得して連れてくる。皆にそう約束をして部屋を飛び出した。









とりあえず、新たなアクセサリーを作ってみた。これで認識を誤魔化して着けている同士なら結界は作用しない……結婚指輪とは言いたくないが、そうなるんだろうなぁ…


それも悪くないと思う事にした。受け取ってくれるか、渡すかは互いの意思を確認してからにはなると思うが。



「お兄ちゃんのためなら、えんらこらっ!」



さっきから、扉の向こうで残念な声がするし…まあ、燈真としての黒歴史を知った今となっては灯里の事は引き取らないといけないし、襲われ続けていたとはいえ責任は取りたい。妹だからと忌避感を覚えている場合ではないと思うのが正直な気持ちだ…俺の犠牲で世界が救われるとかって気持ちの方が強い。分裂してあかりん菌が無限増殖しても困るし。


とりあえず、扉を開けて迎え入れてやろうと近付いたら…



「必殺、【コスモス斬り】」



あまりにも酷いネーミングの必殺技で結界と扉ごと斬られた…魔王で神じゃなかったら死んでた。いや、真っ二つにされたけれども。

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