幻の勇者
「今、なんと?」
「兄と聞こえたような…」
目の前の2人にばっちり聞こえてしまったのだが、何故詰め寄られる必要があるんだ。共に美少女だから悪い気はしないんだが…なんか、要らん地雷を踏み抜いたかもしれない。しかも、この世界を破壊出来そうなくらいのものを。
「空耳だ。うん、間違いない…アカリ様だな、女神アカリ様」
すまん、灯里。草葉の陰で号泣してくれて構わないし、俺が寝てる間とかに色々してた事を許してやるから我慢してくれ。俺にだってこの空気がヤバいのは分かる。
「そうですか…てっきり同じ名前ですし、400年前の勇者様たちが口にしていたという幻の勇者トウマ・フジシマ様所縁の方と思ったのですが」
リーゼアリアさん、所縁ではなく本人です…なんて言えるわけもなかった。幻の勇者ってなんぞや?
厨二キャラで恥ずかしい名乗りしてて良かった良かった…まあ、アレクですし、レトラですからと逃げる事は出来るはずだ。知られなければどうにでも…
「念のために鑑定していいですか。助けてくれた方を疑いたくはないんですが、魔物の異常増加の件もありますし」
アリエルアさんがまだ疑っていらっしゃる。魔王とか名乗るんじゃなかった。通りすがりの悪の首領とか言えば…よくないわな。
どう回避したものか…さすがに知られたくないってだけで危害をなんて考えは無いんだが、魔物を倒してくるとか言えば納得して…くれないだろうし首輪使うか?
いや、さすがに面倒だ。知ってもらう方が楽かもしれないし利用されるなら相応の対処をしたら良いだけだ。
「分かった。但し、俺だけはフェアじゃない。見られるというならそちらも見せてくれるのだろう?」
「はい、分かりました」
「リーゼアリア、君もだ」
「あ、はい。奴隷となる身ですから確認は必要ですよね」
ふむ。恥ずかしいとか思うような情報は無いのだろうか?
後、奴隷にする予定無いし、嬉しそうにこっち見んな。
神官の1人が件の【ステータスモノクル】をアリエルアに手渡す。後でコピーさせてもらうか。
「では、鑑定を行います」
そう告げて、アリエルアはモノクルを俺へと向ける。戦闘力53万とか出てきそうな感じに装着してだが。
と、次の瞬間モノクルが砕け散った。
「くっ…」
「見せろっ!」
ガラスの破片が目に入ったのか苦しみながら手で押さえようとする彼女を制し、俺は【聖竜波動】と【魔王研鑽】を使って治療をする事にした。こんな不良品を使って鑑定なんかしようとするなよ。
まずは【魔王研鑽】の無属性魔法を行使して破片を外へ【転移】させる。次に【聖竜波動】の光属性魔法を行使し一気に【回復】させる。ついでにバラバラに砕け散ったモノクルを【魔王研鑽】の無属性魔法【時戻】で元通りにする。
「どうだ…まだ痛むようなら【嫉妬】で状態交換するが?」
「いえ…大丈夫です。また助けてもらいましたね」
どうやら、大丈夫のようだ。らしくない事をしたと思う。前の世界なら治療をしただけで拘束されかねないのだから咄嗟に動くはずはないのだが…まあ、アカリ様の思し召しとでも思っておこう。
とりあえず、不良品でも構わないからコピーをして大剣の方で改めて俺のステータスを鑑定してみる事にした。
トウマ・アレクトラ【レベル測定不能】
《所持スキル【聖竜波動】【魔王研鑽】》
どう見たって少ない。こう、称号とか色々あっても構わないんじゃないだろうか。理解してはいるがスキル説明とかだって欲しいし、レベル計測不能ってなんなんだよ。まあ、名前が厨二だったのは不幸中の幸いだけどさ…
だが、これを見せた2人は何故か納得してしまった。測定不能だから爆発したんだと。そんなものなのか?
ちなみにリーゼアリアのレベルは6の所持スキルなし。アリエルアはレベル3で所持スキルに【聖女の光】というものがあったが、こちらも説明など無い簡素なものだった。
後、リーゼアリアの名前から国の名が消えていた。つまり、リーゼアリアはまさにただのリーゼアリア・シルコットという民間人になっていたというものだった。
というか、こんな鑑定で魔物の異常増加云々なんて分からないじゃないか。何がしたかったんだ、こいつらは…いや、一度壊れたからかもしれない。それをコピーしたのだからこの程度という可能性は否めない。
では、仮にそうだとして何故に納得してしまったのか…助けたからなどと安易な事は思っていないだろうな?