一応、全てが終わった後に
とりあえず、四肢以外の骨折は治して自称猫耳大魔王ブチを引き摺って帰ってきた。当然、新生駄女神とマリン、アクアも一緒にだ。
「どうしてご主人様はいっつもそうにゃん。クソ兄貴を殴り倒すチャンスが減ったにゃん。お詫びに子作りしろにゃん」
そう言いながら出迎えてくれたのはミケだった。ちなみにそのクソ兄貴を蹴り飛ばして詰め寄ってきたんだが…まあ、構わないか。
「お兄。皆が説教するつもりで待ってるよ…というか、灯里ちゃんが蘇ってるんだけど説明もしてくれるよね?」
「はいはい。まずはあかりん菌の説明からな」
「あかりん菌っ!?」
病原体が過剰な反応してるところ悪いが、お前も土下座コースだから安心しとけ。
◇
兄様はただ藤島さんを捜しに行っただけと言うけれど、ついでに黒幕も倒した…というより勝手に自滅したと言った。そして、それがわたしたちのよく知る魔王であったとも。
兄様のこういう人なのだと納得も諦めもしている。メアとして生きていた時、そうされたのだから尚更だ。だけど、役に立てないみたいで、信用されてないみたいで…なんて思う事も出来ない。
「兄様、せめてちゃんと事情を話してからするなりしてください。わたしがそれをされなかったから愚勇者に殺されたのを忘れたわけじゃないですよね?」
「…そうだな、悪かった」
別に兄様を責めるつもりは無かったけど目に見えて落ち込んでしまった…後ろで「愚勇者」という呟きをした本人ご落ち込んでくれれば良かっただけなのに。
「イリーナちゃんは大袈裟だなぁ…お兄ちゃんが私たちを助けにきてくれただけだよ。それで良いと思うけどなぁ」
「藤島さん、あなたもあなたです。勝手に居なくなって…兄妹揃って報告、連絡、相談がなってませんっ!」
まあ、藤島さんはそんなところがあった。兄様絡みなら特にだ…
「イリーナちゃん、藤島さんじゃなくて灯里って呼んで欲しいな…」
「今はそんな話をしてませんっ!」
「そんなに怒るなよ。イリーナの気持ちは嬉しいけど、面白味を優先して無駄な時間を過ごさせようとしたこっちの黒幕が居たから急いだのもあったわけだし」
兄様の視線は本郷さんの方に向いていた…そう考えると、ちょっと暗い気持ちが芽生えてきそうになるけど我慢だ。でも、今回は面白味だけで藤島さんや琉璃ちゃんの救助を遅らせようとした責任はあると思う。
むしろ、それも本郷さんの計画なのかと思うと…ちょっと正座させなきゃいけない気がしてきた。
◇
イリーナの怒りの矛先が何故か奏多へと移行し、ファルと一緒になって奏多と事情を知るであろうフレアとアースを叱り出したので、俺と灯里は揉めかけているもう1グループの方へ来てみた。
「北里のお兄さんも近江のお兄さんも本当にごめんなさいでした」
「「いやいやいやいや」」
年上に見える年下に全力で頭を下げられる年下に見える年上のシュウとウィンディア…ややこしいが、2人は謝られる筋合いが無いと頭を上げさせようとしてる。
「あれは俺の監督責任問題だし、前世とはいえ先輩殺したって知ってれば同じ事してるって」
「結局、おれは助けられなかったんだから謝る必要無いって。琉璃ちゃんを追い詰めた責任もあるし」
「シュウちゃんもだけど、ディルクお兄ちゃんもこう言ってるんだし頭を上げて笑おうよ」
ちなみにこの変態ダメ妹の一部分はディルクの妹で猫耳王ごと味方に貫かれて死んだ【氷の勇者】とも言われるカティナだったりしたそうな。つまり、実の兄に性的欲望を抱くのはだいたいあかりん菌の感染者と思っていいだろう。
カティナの姿になった灯里を見てウィンディアは恐怖で震え出した…再会した感動からではなく氷漬けにされた恐怖でだ。まあ、好意で守ろうとしたとしてもいきなり氷漬けにされたらそうなるよな。
「ほら、ご先祖様が震えてるから何とかしてやれ」
「ブチをぶち半殺すのに忙しいにゃん。後にして欲しいにゃん」
「全くみゃん。人の研究資料を暖を取るために燃やし尽くした奴をぶち殺すまで待つみゃん」
そう言いつつミケとアクアはブチに青タンという新たなぶち模様を殴る蹴るして増やしてやっていた…楽しそうで何よりだ。
「トウマくん、あれに加わりたい」
「殺さないよう、ほどほどにな」
サンドバックへの攻撃にサレナとリーシャとセーラが加わった…まあ、後でシュウとフレアにサッカーでも教えてもらえば良いさ。
さて、ウィンディアに近づこうと躙り寄る残念妹の首根っこを掴み、肝心な事をさせるために2人の前で正座させるとしよう。
「トウマ様、そこまでしなくても…」
「灯里様は一応女神ですし…」
リーゼアリアとアリエルアへの謝罪。それをさせるために俺は連れ帰ってきたのだし、これだけはやらせないといけない。
「いいんだよ…私は、400年前に2人と同級生だった私は、お兄ちゃんの事ばかり考えてて同じ苦しみを持ってた2人を無視してた。お兄ちゃんに届くメールに返信してあげられなかった。一緒に泣いてあげられなかっただけじゃなくて、苦しんでるのに気付けなかった…それなのに、死の間際に勝手な事して命を奪ってしまった…」
灯里は涙を流しながら、叫ぶように言葉を発した。思うところはあるのだろう。リーゼアリアとアリエルアの一部分であったから尚更…
「そんな前世の事で謝られる筋合いはありません。私が怒るとすれば勝手に居なくなった事です…私は輪島莉瀬としてではなく、あなたの一部分として、友として居なくなったあなたに憤っているんです」
「ぼ、僕もです。きちんと中野有紗として覚えています。あなたがスライムから助けてくれた事…前世の自殺は自分としてのケジメだったんです。そこに自分を取り戻してくれた感謝はあっても恨みなんてありません。だから、怒っているのは自分を犠牲に助けようなんてした事です」
まあ、知らない人が見たら自爆攻撃したようなものだからな…それは灯里が悪い。前世の事はむしろ灯里に非があるとは言い切れないし。
「そっか…そうだよね。お兄ちゃんの妹から一気に赤の他人に逆戻りさせちゃったもんね。でも、世の中には偽妹ってジャンルあるよっ!」
ダメだ、こいつ何も分かってない…イリーナには苦労かけるが彼女以外こいつを説教する人材が居ないからしてもらおう。




