大魔王戦へ向けて
◇
「というわけで、兄様が妹患いをしている間にわたしたちは自分の力を更に高めないといけません」
お兄ちゃんが部屋を出て行き、体調が優れないとリーゼアリアさんとアリエルアさんも退席してしまった後、そんな話になった。
「あのー…どうして、イリーナさんが仕切ってるんですか?」
こういう場面は奏多さんがマナの女神として仕切ると思うんだけど、「いいんちょだから」とサレナさんたちにたしなめられてしまった。私とセーラ、それにアースさんだけが一部分で部外者なのだと聞いてはいる。それが逆に悔しい…と言える立場に私は居ない。
別にお兄ちゃんを独り占めしたいというつもりは無い。サレナさん…ユーカちゃんだって、ユーカちゃんが話してくれたディナさんだって、私が殺してしまったメアさんだって…セーラが全部教えてくれた。もし、違った未来があったなら、こうなっていたのではないかと…
「おい、こら。兄様殺し。大魔王の残存勢力はどれだけかって聞いてるのよ」
考えてる間に、イリーナさんから何か聞かれてたみたいだ。睨まれてる…
「わらわが答えよう…どのみち、この色ボケ娘は何も知らぬ。勇者の警護しか任せられなんだからな」
兄様殺しに色ボケ娘…ちょっと酷すぎるよ。でも、そう言われても仕方ない。まだきちんと許してもらってないのに色んな事を考えてるし…
◇
「猫耳大魔王のスキルが分かれば攻略は簡単そうね…」
セーラちゃんが言うには、敵の本拠地は100年前の魔王が住んでいた施設。その地下に勇者ラピスが封じられているらしい…勇者ラピスを目覚めさせようとしている猫耳大魔王。その戦力の大半はスケルトンだったらしいけど、数から考えるにアベルティアに大多数を送ったはず。更に四天王の2人は倒され、2人は寝返り…というより、兄様の味方だった上に頼みのご先祖様もこちら側に着いた。
「クソ兄貴のスキルは変容してなければ【地図師】にゃん。世界中の地図を細かく書いて売りさばいて大儲けすると言ってちょくちょく家出しては迷子になって捜索された大バカだったにゃん」
「…前世にかなり心当たりあるんだけど」
「志村だな…そんなバカやる心当たりは」
「そういえばあいつ、全裸で大森林に行ったまま行方不明になって死亡扱いになったんだったっけ。亜人の多くが捜索してくれたけど死体も発見出来なかった」
そういえば、彼とこの元男子3人は新入生の恒例行事である登山で行方不明なってたわね…
「そういえば、最近トウシュー学園の研究で戦後に増えた精霊や魔物を祖にした亜人の多くが同じ遺伝子を祖先にしていたって報告書があったような…」
「ウチらのご先祖が志村くんとかやめて欲しいです」
「…元同級生ならば、よしみで命だけは奪わずシラヌイで従属させましょう。猫耳族の牡は貴重ですし、淫魔族の需要もあるでしょう」
サレナさんって…いや、御字さんってそういう事言っちゃう人じゃなかった気がする。後、スライムの討伐は兄様に優先してやってもらうべきね。
「猫耳大魔王は雑魚だよ。問題は黒幕かな…かつての魔王が裏にいるはずなんだよ。その辺の情報は何か分かってない?」
「100年前の勇者の想い人の遺体に取り憑いているようじゃな…魔王が勇者と同じ方法で封じたらしいが、封印が解けかかっておる。猫耳大魔王がそやつを復活させてしまえば、勇者ラピスは手駒となるじゃろう」
奏多さんとセーラちゃんが2人だけで話を進めている。まあ、わたしたち…一部を除いてだけど勇者ラピスの話は誰もが知る話だからその事は後で話しておこう。でも、最悪の場合、魔王に操られ…というより、盲目的に信じた彼女が本気で世界を滅ぼす可能性も出て来たという事だ。
でも、彼女にはこの世界を滅ぼす資格があると思う…兄様と同じように。ただ、その対象は兄様と違ってわたしたちも含まれるという事だ。そうなった時、兄様はどうするのだろう…
◇
アリエルアも泣き疲れて眠ったので部屋へ運んで寝かせた。チョロインなのは変わらないのが心配ではあるが何も言うまい。ついでにスキルが本来の姿に戻り、アリエルアに消費した付与したスキルが戻っていた。横に寝かせたリーゼアリアも同じだ…
【模倣】と【偽造】のスキル。これが本来の2人のものなのだろう…でも、このスキルが使えないなんて宇津木さんが言うはずはない。2人の思い込みか…俺は2人に全ての美徳系を付与した。駄女神の魂の分だけありったけの加護を与えるつもりで。勿論、他の皆にも行うつもりだ。向き不向きはあるだろうから様子を見るが、簡単に真っ二つに出来た相手が蘇ってフレアでは勝てなかった事実がある。
それに否応無くこれから先の戦いもあるだろう。失ってからでは遅いのは既に体験しているからこそ…神格についてちょっと検討しなきゃいけないのかもしれない。気は進まないが。