神と呼ばれた勇者たち
アリエルアを神殿に送り届けて、いつになるか分からないリーゼアリアとの合流を待つ事にしたトウマ。彼は神殿内を散策する事にし、辿り着いたのは勇者たちを祀る場所であった。
400年前にあった勇者と邪神の戦いは奏多から聞いていた。その中で灯里を含めた勇者たちが何人も命を散らした事も含めて。
「バカだよな…ホント」
トウマが燈真であった世界の少し未来からこの世界の400年前に彼らは召喚された。そして、戸惑い悩みながらもこの世界のために戦ったのだ…子どもを庇い命を落とした立派な先輩のようになりたいと誰もが思いながら。
その立派な先輩は転生した先で殺戮者に成り果てていたと知ったらどう思うのだろうかとひび割れた皆の顔が彫られた壁を見て思い悩んでいた。
それを聞ける相手には死後にしか会えないわけだが、その死後はまだまだ遠そうだと自らを納得させなければならなかった。
「全員…とはいかなくとも、こいつらの墓参りもするか」
詫びなければならないとただただ思った。立派な先輩なんかではなかったのだ。少女を庇った事に悔いはないが、泣かせてしまったのは事実だ。勇気ある行動などと思わせた事も…
そもそも、この灯里を含めた29人は同級生だ。面識のない子もいるが、知っている顔の方が多い。だからこそ巻き込んだのだと意識してしまう。
「はぁ…」
深い溜息をし、気持ちを切り替える。
こうして神扱いされているのだから所縁の地や墓はある程度分かっている可能性があるのだ。それを聞いて土地土地を回る。それだけでいいじゃないかと。
死者を蘇らせるなんて俺にも出来ない事だ。感傷に浸っていつか朽ち果てればそれで構わない。とはいえ…
「まあ、召喚主の末路は見定めてやらないとな」
報酬の事もある。欲しいとは言わないが、せめてこいつらが勇者として頑張った未来を俺が壊していいなんて思ってはいない。
灯里が女神として祀られた教会の地下で見つかった彼女もまた同じだ。因縁とは思わないが、誰が何のために攫ったかはいずれ知られる。そして、その結果どうなったかも。
勇者は決して報われないのがこの世界だと言っても構わないほどだ。彼女たちの未来は明るいものではないだろう。
もし、彼女たちが望むのなら俺は…灯里の兄として、こいつらの先輩として見習わなければいけないな。
償いなんて思いは無い。だけど、救える命が救われないのは嫌だと思う。それはアレクであった頃もレトラであった時も考え続けた事だ。
『それでいいんだよ、お兄ちゃん』
灯里の懐かしい声が聞こえた気がした。勿論、気の迷いとは理解している。それでも何故か嬉しかった。