森林都市ラビリンス
【聖竜波動】と【魔王研鑽】にも素養が必要そうだったでござる。まあ、異世界のスキルだから劣化してでも覚えられるのは覚えさせようという合意に達した。
実は苦労せず修得出来る裏技があるんだが、それはさすがに黙っていよう。言わなくても裏技が何かなんて分かるだろ……カニバです、残念でした。
というわけで暇な時を見計らって教える事になったのだが…
「というわけで、この大森林全てが都市として認められているのです」
イリーナが丁寧に説明してくれた。水の勇者所縁の森林都市は200年前にフジシマを追われた猫耳族を含めた亜人たちが大森林内に作った各集落の総称なのだと。本来ならフジシマと呼ばれてもいいが、敗戦国の名前を引き継ぐわけにもいかないから名称は無い。むしろ、フジシマだったら焼け野原にしてたわ。
亜人と一口に言ってもその人種は多種多様。猫耳族を始めとした獣人や鳥人といった動物的な特徴をもつ種族や俗にいうドワーフやらホビットに類する人間的な種族、更には人魚やラミアみたいな魔物に近い種族といった数えきれない集落がこの大森林内に大小合わせて多数居る。
「そこを襲撃してハーレム計画を推し進めるんだねっ!?」
400年前に勇者として守ろうとした連中を襲おうとしてる駄女神が居るんだがどうすればいいんだ…
「そんな事より、姉小路さんです。幸い比較的人間と親交のある長耳族に転生しているので会う事は出来るはずですが…」
長耳族…まあ、エルフの寿命短い版だと思っていいらしい。人間と親交のある種族の大半は人間との交わりによって生まれた種族であるから長耳族が創作物のエルフみたいに長生きという事は無いのだ。とはいえ、滅びた精霊種たちの血を受け継ぐ種でもあるから人間との違いも多い。まあ、そんな説明をされても俺には姉小路さんの方がよっぽど気になるのだが。
◇
姉小路沙耶…母親が外国の人という事もあってか金色に近い髪色と日本人離れした体型で、外見を見ればいかにもギャルって感じの女の子。代々弓道を教える名家のお嬢様であり、面倒見もよく気さくな子で名字をもじって姐御なんて呼ばれて慕われていた。
灯里が何をとち狂ったか高校から弓道を始めて、その縁で俺とも親しくなった。実は結構繊細で女の子らしい女の子で…なんか、あんまり言ってるとフラグ建築士みたいだから自重しよう。簡潔に纏めると良い子だったわけだ。
そして、もう1人、ディナという少女だ。強引で頑固でワガママで姉小路さんとは正反対…というほどでもなかった。所謂ツンデレタイプの元気娘。ユートとユーカ兄妹の幼なじみでパーティを引っ張っていたリーダー的な存在。姉小路さんと似ている部分もあるにはあったと考えさせられる。
もし、ディナという存在だけで転生したのなら俺は捜そうなんて思わなかっただろう…また裏切ると思えたからだ。でも、姉小路さんは信頼していた。付き合いとしてはディナの方が長いにも関わらずだ。とはいえ、あの瞬間まではディナの事も信頼していたのだ。だから、全てを知ってもらいたかったしディナが姉小路さんの前世としっていたら尚更そうしただろう。
信頼しすぎた俺が招いた結果でしかない。
◇
という事で、現在信頼しすぎた結果迷っております。
フジシマを出て2日。ミケが「ここは庭みたいなものだから案内は任せるにゃん」なんて言うから信じて先頭を歩かせた結果がこれだよ。キツネとかだと木々をなぎ倒して大変だからヘビで移動しようとしたのをあかりんズが拒んだのも迷う原因になっているのだが…
「やっぱり、この森林都市には案内人が居ないとダメですね」
イリーナが訪れた時はこの大森林に住む住人に依頼して案内をしてもらったらしい。その中に姉小路さんの転生した長耳族の女の子がいたという。
「おかしいにゃん、こんなはずじゃないにゃん…」
「せめて、何処かの集落に着いて食べ物を確保しないと…」
ミケはともかく、アリエルアの言う通り食糧の確保はしなければならない。【暴食】で魔力を変換して飢えを凌ぐのも適度にしないといけない。【聖竜波動】にしろ【魔王研鑽】にしろ魔力を使うわけだから枯渇してしまったらいざという時に面倒だ。俺が供給すれば済む話だが…
「ハンバーガー、ラーメンとチャーハン…それが無理ならお兄ちゃんが食べたい」
と意味不明な妹が居るから気分的に嫌だ。というか、ハンバーガーにラーメンやチャーハンって…お前、王女としてそれ食ってきたのかと問いたい気もする。
「……そうだ、召喚すればいいんだ。出でよ、ハンバーガーっ!」
それ、窃盗だろと言う暇も無くリーゼアリアは召喚を行使してしまった。まあ、召喚自体が誘拐な事が多々あるわけだから微妙なわけだが…
大量のハンバーガーと女の子が召喚されたら言い訳出来ない犯罪だと思うんだ、俺。