魔王と姫様
「魔王…ですか?」
その声にトウマは正気を取り戻した。いつの間にか光の空間から薄暗い場所へと目の前の景色が変わっていたのに気づいたともいう。
そして、そこには赤い長髪で美しいドレスを身に纏った美少女がいた。顔は多少青ざめていたが、当然だ。
「……オッス、オラ魔王」
トウマもキャラを忘れて混乱した。幸いにも警護の兵士が居なかったので召喚されてすぐに昇天という事態にはならなかったが空気だけはある意味死んだ。
「………この際、魔王でも構いません。私はこの国の王女でリーゼアリアと申します」
死んだ空気から先に立ち直ったリーゼアリアはトウマに名を告げて事情を説明した。
曰く、魔王に捕らえられた親友を救い無惨に殺された人々の仇を取ってくれという話だった。
まあ、求人情報に書いてある通りであるとは納得してはいたが、トウマはその情報内容にあった報酬に違和感があった。
報酬は目の前にいるリーゼアリアとなっていたのだ。
勇者が王女と魔王討伐後に結ばれるなどというのはありふれたものであるはずだが、トウマはそれに嫌悪や不信感を持っていた。アレクであった頃の実体験が主な理由であるが。
もっとも、この世界の人々に嫌悪や不信感を抱いてはいないがリーゼアリア次第では新たなる魔王になるという考えは持っていた。
「まあ、復讐はともかく親友を救いたいという願いは叶えよう。とはいえ、その親友の居場所は分かっているのか?」
「はい。無事は確認しています」
トウマの問いにリーゼアリアは自信満々に答えた。それなら助けに行けよとも思うが、トウマはそこまで口にしない。
「なら、救いに行くか」
「待ってください。魔王様」
さっさと件の魔王を倒して墓参りをしたいと考えていたトウマだったが、リーゼアリアに呼び止められて気付く。
「トウマで構わない。魔王を召喚したと知られたら立場悪いからな」
もっとも、それが勇者であるとしても差異はないだろうとトウマは知っていた。
帰れない召喚、勇者に対する罪悪感、そして悲劇を知ってもいた分勇者などと言われたくなかったし体験してきた勇者としての愚行からも呼ばれたくもなかった。
「え、あ…はい。いえ、そうではなく…」
「…事情は理解してあるし、言う必要すら無い。魔王だからと無駄に力を使うつもりも後釜なんてのも狙ってない。お前の覚悟も懺悔も聞くつもりはない」
全て件の求人に書いてあった事なのだ。これから何をするべきで倒さなければならないのが誰かという事も。
更にいえば、その結果どうなるのかさえ経験から予測出来る。それだけの事をアレクとしてレトラとしてやってきたのであり、正直墓参りさえ出来たなら構わなかった。
いつまでも待たせている奴がいるのだからと自棄になっている部分もあれば信用しきれていないのだ…先程の決定的な言葉で。
トウマは思い出していた。前の世界で王たちに言われるがまま、頼まれるがまま多くの命を奪った。彼らの代わりに…
目の前の少女も本質は同じ。むしろ帰れない人間を代役にして殺戮を行えと言っているのだ。普通の人間なら憤るか家に帰せと泣き喚くところだ。 愚かな勇者気取りであれば意気揚々と本質すら気付かず引き受け、後に気付くのだろう…アレクがそうであったように。
だが、アレクが死んだあの日。レトラとなったトウマには慈悲は無くなった。【魔王研鑽】を覚えた彼は王たちに報いを与えた。魔物を操り復讐にもならない殺戮を行った。己の罪を更に重ねながら。
だが、リーゼアリアにはそうしようとまでは思えなかった。フェミニストというわけではない。リーシャを見た時にそう思ったのだ…命を奪う覚悟があるのかと。奪われる覚悟があるのかと。その結果をまた示せばいいだけなのだと。
恨むだけの理由はあるのだ。奏多を神の世界へと追いやり、大切な妹・灯里を殺したこの世界には。
世界を滅ぼす理由も力もある。あの時でさえそれが出来たはずなのだ。ただ、しないだけの理由があったからだけで。
「トウマ様…ありがとうございます」
だが、そんなトウマの考えを知ってか知らずかリーゼアリアはそんな事を言った。決意に満ちた瞳を向けて。
その様子にトウマは多少なりとも思うところがあった。不完全ながらも覚悟があるのだろうと。
「その言葉は全てが終わるまで取っておけ」
さすがに人の心までは読めないトウマは出来れば最良の結末を迎えたならと願っていた。多少なりとも言ったの墓参りをする機会を与えてくれた彼女には感謝しているのだ。その感謝が借りとしてただ魔王を倒す事と繋がっただけ。それだけなのだ。
「まずは、国王陛下に会わせてもらおうか」
「…はいっ…」
何故か嬉しそうな顔をして返事をしてくるリーゼアリアに色んな意味で不安になりつつもトウマは彼女に案内されるがまま地下の祭壇から出て行く事になった。




