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山根小夏という勇者の一生

最後の記憶は水の中に沈んでいくあたしの姿だった。



(思い出したにゃん…)



我輩は山根小夏として生きた。大切な友達が居た。大好きな先輩が居た。



「ドラゴンに殺された」



誰がそんなふざけた事を信じられただろう。でも、沢山の人が見ていたらしい。先輩は女の子を庇って背中を抉られた。その傷を見せてもらった。それでも信じる事は出来なかった…だけど、燈真先輩は起きる事は無かった。あかりんもかなたんも泣いていた。あたしはそれでも信じられなかった。





あかりんとかなたん、燈真先輩とは中学の時に出会った。告白は見事に玉砕だった。でも燈真先輩は変な感じにはならずきちんと小夏って呼んでくれた。


あたしは山根小夏って名前が大嫌いだった。ネコちゃんとかこなっちゃんはまだ良い。ヤマネコとか野良猫とかって散々言われた。家族以外できちんと小夏って呼んでくれたのは燈真先輩だけだった。


その事を改めて知ったのは燈真先輩が居なくなってから。どうしようもなく遅すぎた。やっぱり、あたしは燈真先輩が大好きだった。もう会えないとようやく理解出来た時、あたしは泣いた。ただ1人でずっと泣いた。






立ち直るなんて出来なかった。それでも時間は流れていく。燈真先輩が居なくなってから3ヶ月…あたしたちも世界から居なくなった。


誰かが言った。「異世界召喚だ」って…にわかには信じられなかった。でも、目の前には知らない世界が広がっていた。だから、あたしたちは希望を持てた。



「もしかしたら、また会えるかもしれない」



こんな事が起きたのだから、燈真先輩が生き返るかもしれない。世界を救えば神様とかが会わせてくれるかもしれない。誰が言い出したかは覚えていないけど、あたしたちはそう信じる事にした。そう信じなければやっていけなかった。





この世界を救うには4本の聖剣が必要だった。その聖剣を使う4人の中にあかりんとかなたんが選ばれた。かなたんは男の子として学校に通っていたから燈真先輩を慕っていた男の子たちと一緒に聖剣を探しに、あたしたちは燈真先輩を慕っていた3人と一緒に。


その3人にはあたしもあかりんもかなたんも救われた。一緒に泣いてくれたから…世界を救って燈真先輩と会おうと誓いあった。


燈真先輩が好きな人は誰か…あかりんかかなたんだと思う。あたしもそう思った。それに、2人は…あかりんは勇者にならなきゃいけなかった。


水の聖剣が眠る洞窟は極悪非道だった。数々のトラップの末に、聖剣の部屋の前に最悪のトラップがあった。入った途端、押し寄せる水…止める事は出来ず、聖剣の部屋の扉を閉めるためには3人分の重さでスイッチを押さなければいけなかった。あたしたちは混乱してた。もっと良い方法があったはずだ…


あかりんと、あかりんを支えるためなんて理由であたしが部屋に押し込まれて、いいんちょと姐御としのぶが犠牲になった。


部屋に押し込まれて、扉が閉まって聖剣の刺さった台座が現れて…あかりんは聖剣を抜いた。それで戻れば3人は助けられたはずだった。でも、最後のトラップはそれを出来なくするものだった。更に台座からも水が流れてきた。数分後には部屋が水没するほどの量…そして見つけたスイッチ。押している間だけ天井の一部分が開くものだった。


後は簡単だった。あかりんとかなたんがきっと叶えてくれると信じる事が出来た…ううん。そんなんじゃない…あたしはあかりんに生きて欲しかった。


こうして、山根小夏は死んだ。そして、あたしは…我輩はミケとして生まれ変わった。

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