所縁の地で
その夜…別にここで竜介が死んだわけではないのだが、何となく手を合わせたくなったので2人を伴い凍らせていた場所の跡地まで足を運んだ。
「竜ちゃん…そんな事になってたんだ」
「全部知ってれば…」
2人には何故200年前に竜介だけが転生したのかをきちんと話した。奏多と風の勇者たち数人だけが辿り着いた真実だが、竜介の話みたいに誤魔化され脚色されていたのだから知らないのは仕方ない。
勇者の末路なんてやっぱりろくなものじゃない。
「怪しい奴にゃ」
後、珍しい事をするとろくな事にならない。
◇
我輩は猫耳族である。名前はミケだにゃん。
南の地に人類の天敵スライムが大量発生したと聞いて遠路はるばるやってきたにゃん。我輩は【調教師】でもある。従える巨大魔物は数知れず…人は我輩を《猫耳魔王》と呼ぶにゃん。
我輩のご先祖様はナシビトの森というところで出会ったにゃん。ひいひいひいひいひい…おばあちゃんは猫耳族のお姫様だったにゃん。悪者たちが水の勇者様が使ってきた聖剣を奪いにやってきて取られてしまったにゃん。で、勇者様に助けを求めたけど勇者様は凍ってたにゃん。勇者様を助けたひいひいひいひいひ…とにかくおばあちゃんは恋に落ちてしまったにゃん。で、聖剣は諦めて安全な土地に逃げてきたにゃん。聖剣は後に戻ったから構わないにゃん。
何が言いたかったかというと、ご先祖様が出会った場所を寄り道して見てみたかったにゃん。
で、やってきたにゃん。そこには怪しい奴らが居たにゃん。
後ろ姿だけど雌2人は【隷属の首輪】がしてあったのが見えたにゃん。あれは人間が我輩たちを始めとした【亜人】や他の種族を良いように使うための悪い道具だにゃん。
してない雄はきっと悪人だにゃん…スライム級の人類の天敵だにゃん。
幸い我輩は【調教師】だにゃん。雄さえ倒せば助けてあげる事が出来るかもしれないにゃん。根拠はまだ無い。
「怪しい奴にゃ」
我輩はそう声をかけたにゃん。
雄が振り返ってこっちを見たにゃん。
とても懐かしい気分がするにゃん…
「一目会った時から好きでしたにゃん」
何故か、そう口走っていたにゃん…
◇
「一目会った時から好きでしたにゃん」
振り返るとそんな事を言ってる猫耳娘が居た。
「懐かしい言葉だね…」
「いや、初対面でしょ…ってツッコミしたよね」
2人が遠い目をしていた。まあ、俺たちにはこの光景に既視感がある。
灯里がネコちゃんと呼ぶ女の子が居た。山根小夏という小柄な少女。中学に上がって灯里の友人…いや、親友になった少女だった。
うん、2人の視線がさっさと【時戻】を使えと訴えているのは間違いじゃない。
あんまり使いたくないんだが、小夏と戦いたくもないんだよな…いや、女の子を虐める趣味はないという意味で。
いやいや、女の子ぶっ殺したじゃん俺…なんて現実逃避したくもなる。仮に目の前の猫耳娘が小夏だったとしてだ。2人の計画が加速するだけで俺にはメリットがない…わけではないのだが、わざわざ前世を思い出させる必要があるだろうかと悩む。
「お兄様…僕は皆に謝らなきゃいけない…」
「ネコちゃんを見殺しにしちゃった…皆、とっても優しくしてくれたのに…」
詳しく教えてもらったわけではない。ただ、仲間を失って灯里は水の聖剣を手に入れたとしか奏多は話さなかった。
「小夏たち…だったのか?」
何がとは聞かないが、2人は頷いた。
俺にはもう迷う理由なんてなかった。