そして、旅が始まる
アリエルアの荷造りは難航した。服の数で…【強欲】で根こそぎコピーしてどうにかしましたよ。
「お兄ちゃん、チートの方向性がずれてるよね…魔力で服を作るなんて」
アリエルアにそう言われたが自覚はしてる。【七大罪処刑】を手にするため魔王になったようなものだし。前の魔王、これ使いこなせなくて雑魚すぎだったんだよなぁ…
まあ、そのお陰でレトラとして復讐を果たせたわけなんだが。今はただのアイテムバッグ化してるが。まあ、利用価値あるし【魔王研鑽】なければ使いこなせないから悪用されないし。
「うーん…一人称とお兄ちゃんの呼び方をどっちか変えないとね。ギャップ萌えが必要だよ」
何を言ってる1号…
「そうですね。じゃあ、お兄様と呼ばせていただきます…ご主人様の方がいいですか?」
2号も何を言っている…話をそらすために先程のアクセサリーを渡したら「旦那様」とか言い出したから軽く叩いておいた。壊れた妹にはこれくらいで丁度いいんだ。
◇
「ふへへへ…」
「私の知ってるアリエルアじゃない…」
お兄様から指輪を貰って神殿を出た。こんな笑いになるのもこれから始まるわたし…僕たちの新婚旅行を考えるからだ。
アリエルアが僕っ娘になるのはかつての親友かなちゃんを思ったからだ。お兄様は僕っ娘萌えだったと確信している。かなちゃんが自分の事を「俺」と言い出した時のガッカリしたお兄様の顔を今もよく覚えている。
「ロクでもない事覚えてる…」
さっきからリーゼアリア姉様が横でうるさいけど気にはしない。今は買い物とお兄様の事に集中しよう。
今、僕たちはお兄様と分かれて食糧を買い込んでいる。「食べ物の事は俺には分からないから任せた」と託してくれたのだ…さすおに。
「さすおに言いたいからお兄様って呼んだんじゃ…」
一応、高貴な身分だからです。お姉様…それはさて置き。お兄様には冒険者をしていた経験を活かしてもらって食糧以外の必要品を集めてもらっている。前世の記憶を辿っても必要な物はこの世界の人たちが全て用意してくれていたから疎いのは事実だ。
灯里としてなら野宿は耐えられたけど、温室でぬくぬく育てられた僕たちは体力的に劣りすぎる。お姉様は嗜みとして狩りをしているから野宿は経験があるかもしれないけど、僕には無いから足手纏いにしかならない。
それは最初から理解していた事だ。救出された後の事を聞かされた時から、僕もリーゼアリア姉様と同じ事をしようと。親友を失い周りの好奇な目を耐えられる気はしなかった。
だから、相手がお兄様だと…ううん。優しい魔王様だと知る事が出来た瞬間、アリエルアは安心出来た。そして、知りたかった。少しでも好きになってしまった人を。だから、自分にとってその人が本当に大切な人という事を思い出して本当に嬉しかった。
そして、大切な親友がお姉様で文字通り自分の半身だった。つまり、離れられない存在だったのだから嬉しい事は止まらない。
だから、たとえ足手纏いの役立たずでも精一杯頑張ろうと思う。この結婚指輪にかけて。
「だから、結婚指輪じゃないって」
お姉様、いや半身。察してくれませんか?
◇
どうやら、この世界は多少廃れてはいるが魔法に禁忌を感じてはいない。あの世界のように。
そう分かれば野営に用意するものは少ないのだ。魔法を使えば火や水は無限に使えるし、野宿ではなく地や樹の魔法で手軽に家が作れる。更に【強欲】のコピーで寝具や調理器具は作り出せる。まさにチート…
それはさて置き。2人に食糧の買い出しを任せ、やらなくてもいい必要品集めを口実に俺が何をしているのかというと…
「雑魚が俺の妹に手を出そうとして無事で済むと思ったのか?」
俺の下には積み重なる死体の山。
リーゼアリアは元とはいえ王女、アリエルアは聖女。そして、女神とされる灯里の魂の器にまでなったわけだ。様々な連中が狙わないはずはない。まあ、予想していたから簡単に一掃出来たわけだが。
ただ交際したいとあの手この手でやっていた連中の方がまだマシだったと思わざるを得ないな…まともかどうかはともかく灯里を好いていたのは事実だから。だが、この世界は権力やら地位やらで歪だ。それは価値観の相違だが、俺がやるのは前と同じ事だ。容赦はしない。だから、シスコンと…いや、反省はしない。
この世界は勇者の想い人すら簡単に殺せると知ってるからこそ…
とりあえず、この山は雇い主のところに【転移】で送り付けておくとしよう。スケルトン化して。
後に聞いた話だが、この国の貴族の大多数と強硬派の神官らが謎の骸骨軍団によって無惨な死を遂げたらしいが怖い話だ。誰がやったのか…
そんな事はさておき、2人と合流してさっさと町を出るか。