かえりみち
『ゼファー隊、ホノカ隊、応答してください』
榊の採取を一通り終えた頃、無線機からアサルトプランナーさんの声が聞こえた。
「へい、こちらゼファー」
「ホノカです、採取終わりました」
『スコールさんはそこにいますか?』
「いんや、一人でまだ戦ってんじゃねーの」
『いえ、それが、その……』
なんだかとても言いにくそうだ。
「どうしたんだよAP」
『先ほど……反応が途絶えました』
「はぁ? あいつ端末落としたのか? どんだけ数揃えても勝てるようなやつじゃねえぞ」
『それが……ミスった、探さなくていいとだけ……』
「まさかやられたってのかよ!」
『恐らくその可能性が高いかと……。あの性格ですし、たぶん意識のあるうちに遠くに行って自殺を図るかもしれませんが、皆さんはそのまま……帰還してください』
誰も何も言えなかった。
誰だってその可能性はあったんだから。
触れられるだけで感染してしまうからエアガンや飛び道具を使っているというのに、接近戦を好むあの人はかなり触れられてしまう確率が高かったはず。
もしも、もしも私が悪魔たちに触れられてしまったら……仲間に殺してと言えるだろうか。
分からない。
分からない。
分からない。
だけど、そんな”心に残る傷”を押し付けるくらいなら……。
「AP、最短ルートを」
『はい、衛星からの映像で確認しましたが、悪魔たちはルート付近にはいません』
「ははっ、州軍の連中も役に立つじゃねえか。俺たちみたいな”民間人”の生き残りにはそんなもんが使えねえからな」
ゼファーさんがリュックを背負い、新たに弾を込めたマガジンをエアガンに挿し、スライドを引く。
「行くぞ」
「でも、スコールが……」
「あいつは僕たちに余計な手間をかけさせたくないから……だから、今は生きて帰ることだけ考えろ!」
頭では分かっている、でも心はきっと大丈夫だと思っている。
たぶん端末を落としただけだ。
たぶん斜面を滑り落ちてしまっただけだ。
きっと大丈夫だと思ってしまう。
でも、こういうときはもっとも最悪のパターンを考えて行動するべきなんだ。
「いき……ましょう」
「ユキ、あんた」
「半泣きで言ってもねぇ……」
「仕方ねえよ、誰だって仲間が……ああなっちまうのは辛いもんさ」
しっかりとリュックを背負って歩き始める。
市街につくまでの間、悪魔とは一度も遭遇しなかった。
代わりに見たこともないほどの灰の山がいくつもあるだけで。
「やけに静かだな」
とは言ってもそこら中から小さな銃声が響く。
これは日常的なことで、今日もどこかで複数のテリトリー同士や州軍と衝突しているのだろう。
音があれば人がいる、人がいれば悪魔が集まる。
だからここが静かであることはおかしくない。
「AP、周辺のスキャンはできるか?」
『既に終わっています。付近に敵影なし、クセロ隊は他のテリトリーと州軍の衝突エリアを回避するため迂回しています』
「そっか……近くに仲間は」
『現ざ――かくにい―――――ナギサさ―――――――め、そこか――は――くださ――――』
「AP? おーい……切れたか」
電波状態が悪いのか通信が切れてしまった。
これもよくあることで、とくに州軍が特定周波数以外をすべてジャマーで潰してしまう。
一部のものだけが普通の暮らしを継続できればいい、そういう考えの州軍だからこそ非道な手段も容赦なく使ってくる。
「急ごう」
「はい」
「後ろの警戒は私らに任せて」
先頭にゼファーさんを、後ろにホノカさんとミコトさんを。
私はその真ん中から前方を確認しながら進む。