こうせん!
会敵は突然だった。
ガス缶に穴を開けたようなプシューッという音。
すぐ近くのぼろぼろの車に固いものが当たる音。
「ブレイク、ブレイク! 散れ!」
「それ航空隊の用語!」
大まかな音から射撃方向を見極め、遮蔽物に隠れていく。
撃たれる場合は五通りのみ。
戦闘訓練での撃ち合い。
仲間同士での喧嘩。
悪魔たちと間違えられた際の誤射。
他のテリトリーの人たちと遭遇した場合。
もしくは州軍と遭遇した場合。
「スコール! どうするっ!」
「各自射撃用意! こっちで挨拶はしてやる」
「了解、了解」
「ユキ、隠れて」
「は、はい」
一応私もVz61を構えているけど、装填しているのは悪魔用のプラスチック弾。
対人でもケガはさせられるけど殺傷はちょっと難しい。
他のマガジンにもそれしか詰めてないから、もしも場合に備えて温存。
ホノカさんとミコトさんがエアガンを背に回し、HK416の形をした銃を構え、合成樹脂弾を装填する。
状況に応じて使い分ける、これは普通に殺傷できる銃だ。
通常弾が入手しづらいこの御時世、対人戦で合成樹脂弾は非常に頼りになる。
ふと無線機から声が聞こえる。
『こちら魔狼雪狼隊、今しがた撃たれたが』
『…………』
『返答なき場合は交戦の意思ありとみなす』
『…………』
相手側からの返答はなかった。
「どうするの?」
「多分距離取っただろう……ちょっと待ってろ」
スコールさんが遮蔽物に隠れながら移動し、廃ビルの中に消えて行った。
「何する気なんでしょうか?」
「あー……ユキってスコールと一緒に出たことなかったっけ?」
「ありませんよ」
「そっかぁ、これがあのバカの戦い方だ、よく覚えとけよ」
ゼファーさんにそう言われ、待つこと七分。
不意に無線から指示が飛ぶ。
『進行方向にばら撒け』
つまり適当に牽制射撃しろ。
そう言われ、ゼファーさんが少し身を乗り出してバースト射撃を行った。
タタンッ、タタンッとリズミカルに響く音。
すぐさまあちら側から撃ち返された。
金属弾。
ならば相手は州軍で間違いない。
「うっひょぉー、精度良いねぇ」
「なんで狙われて平気なんですか」
兵士だって狙われるとプレッシャーと恐怖で慌てるというのに。
「ん、サバゲーのお蔭ー」
「あんなので……」
「あんなのとはなんだ! 普通のエアソフトガンぱかぱか撃つサバゲ―じゃないぞ。いつでもゴム弾撃ち込んでくる教官たちと一か月過ごす地獄だ! マジの生死を賭けたゲームだ」
「「うわ……」」
他の二人が軽く引いている。
私は銃の扱いや戦い方は殆ど教わっていないが、ホノカさんとミコトさんはスコールさんに教わったらしい。
『銃は破壊して追い払った。LTL7000と300気圧超えの空気を使用した空気銃だ。数丁AKも混じってたが』
「さんびゃ……そこらの狩猟用でも200そこらだろ」
『さあ? とりあえずさっさと進んで来い。分隊規模だったから飲み水とレーションがあった』
聞く限り奪ったんだろう。
でも自称学生が本職の軍人さんを倒せるのだろうか?
「さ、行くぞ行くぞ」
警戒しつつ遮蔽物から出て歩き始める。
私を囲むような陣形だ。
「音につられて悪魔どもが寄ってくるからな」
「ほんとゾンビだよね」
「ゾンビだったらまだマシだ……ありゃ完全に浸食されたら知性をしっかり持ったうえで襲ってくるから」
「ですよねー」
そう、あれがゾンビなんかとは違うところはそこだ。
知性がある。
感染したものが集団で統制のとれた状態で襲ってくるのだからたちが悪い。
でも対話はできない。
お互いを視認した途端に人も悪魔もすぐに交戦に入って、どちらかがいなくなるまで終わらない。




