私、ユキは今日も生きています
あれからかなりたった。
ある日を境になぜか体の成長が止まったような感じで大変困っている。
そのある日とはベースのカフェでスコールさんと知らない男の人が箱のようなものを持ってきてミコトさんやホノカさんと何やら話し合っているところを見た日だ。
あの時、私が偶然近くを通りかかった瞬間に箱が爆発して変な煙を浴びたのが原因かもしれない。
煙に触れたときは訳の分からないビリビリした感触と強烈な吐き気に襲われて私は倒れてしまった。
そのあとスコールさんに聞いたことだけど「悪魔が使う魔法をちょっと真似してみた」とか言って、私には理解できないことを色々と。
結局のところ”煙に触れた者の老化を概念的に停止させる”らしい。
どういうことだろう?
「うーん……成功でいいのこれ?」
「効果は出ているから発動プロセスちょっと変えろ。とくに煙なんて無駄なエフェクトはいらないから」
「いやでも、そうすると効果範囲が分からないじゃないか」
「そこは色付きの透明な結界でも展開するような感じでどうとでもなるだろ?」
「あ、それがあったか……ってそれより巻き込まれの彼女たちはどうするのさ」
ベースの甲板に座る私に男の人は目を向けてきた。
優しそう、言い方を変えれば弱そうな人。
黒いフード付きのローブを羽織って肩に杖を置いた彼は、よくゲームとかで見る魔法使いみたいだ。
「逆効果の術を組むのは……」
「君と一緒にやってきて年単位だからね……かなりかかるよ」
「だな。ユキ、このままでいいか? 寿命で死なないようになったと思えば少しはマシだろう?」
寿命で死なないって言うのは……細胞の劣化がなくなったっていうこと?
でもそれってどういう原理でそうなってるの?
「そういえば君もそんななりして年は結構いってるよね?」
「数えてないから知らんが、だいたいレイズの六分の五くらいか。お前も同じだろ」
「うん。でもよかったの? 多分この子、魔力にも神力にも耐えられないからあんまり魔力を浴びせるとまずいよ」
「神力で一時的な中和術式を、ってのもか……」
私の返事を待たずにどんどん話を進めていく二人。
そして私に揃って視線を向けた。
「どのみち、ここまで来たからにはいつも通りの二択だよ」
「こちらに引き込むか……、それとも全部忘れてもらうか」
全部……忘れる?
やりかねない、こんなことができるこの人たちならそんなことも簡単に……。
「嫌です……私は、そんなの嫌です」
「だってさ。どうする? 今以上に危険な戦いに巻き込むかい?」
言いながら男の人が立ち上がって杖を構える。
「結局だ。自分の平穏捨ててこっち側に入ったやつらは誰一人としてもとの生活には戻れていない」
「こっち側……って?」
「今の状況ですら非現実的だろうが、さらに危険な現実だな。死んだら完全に忘れ去られる覚悟はいる。それでも来るか? こっち側」
不愛想で、何でもないように言われた誘い。
それでも、同じ場所に立てるなら。
もう離れ離れにならないなら。
これからも一緒にいられるのなら。
「はい」
ナギサさんたちには「スコールのこと、気になってる?」なんて聞かれもした。
たぶん気になっている。
好きかどうかならまだ答えは出せない。
どこが好きかと聞かれても答えられない。
そういうのはこれから見つけていけばいい。
今はただ同じ場所で一緒にいられたらそれでいい。
「…………」
スコールさんはいつもと少し違う表情をした。
私がこんな返事をするとは思っていなかったような顔だ。
「君って、そんなねじまがった性格のくせして色々と惹きつけるねぇ」
「……はぁ…………ようこそ、終わりのない闘争の輪廻へ」
できれば拒否してほしかった、そんな声でスコールさんは言った。
できれば来ないでほしかった、そんな様子だった。
できればここで関係をなくしたかった、そんな気配だった。
でもそうじゃなくても嫌ではない様子だった。
「…………なにそれ、決め台詞?」
「…………変なこと言えば大抵のやつは離れていくだろ」
「通用しないだろうに」
「だな」
薄ら笑いを浮かべながら立ち上がったスコールさんはフェンリルベースが進む先を見る。
雲のない青い空が広がっていて、少し肌寒い風が吹き抜ける。
「いい風が吹く」
「微風、突風、疾風、旋風、惹き付ける者。君ら風使いにはいい場所だろう」
「ゼファーのバカは置いておくとして、後は流体制御だろうが」
「とか言って一番身近にあるのは空気だから誤解されてるだけじゃないのかい」
「だろうな……。それに、スコールの名も今じゃ」
「君だけのものじゃないからね……」
何かを思い出すように、突き抜ける青い空を見あげる二人。
私も見上げると虚空に赤い靄のようなものが見えた。
でも二人には見えていないよう。
数秒するとそれがぶわぁっと膨れ上がり、赤い髪の女の子が現れた。
それもスコールさんの真上に。
「はっ?」
女の子がスコールさんの顔面に……。
避けることが間に合わず、そのままぶつかって、甲板に背中から倒れて。
すぐに女の子は立ち上がって謝っていたけど、スコールさんの顔に赤色が広がっていく。
「折れたね、鼻が」
「…………何度目だよ」
「ほんとにごめん!」
こんな非現実的なことが日常になっていくのにそう時間はかからなかった。
すでにあの悪魔との戦いで慣れてしまっていたせいだろう。
数十日後、スールー海上空。
私はフェンリルベースの甲板の端に大の字で寝転がっていた。
ここがちょうど日あたりが良くて心地よい風が吹いて、なにより万が一落ちても下にネットがあるから。
傍目から見れば超大型垂直離着陸輸送機にしか見えないこのベースだけど、戦闘時には装甲が開いて砲塔が姿を現し、内部に格納された戦闘機(どこかの中古市場から仕入れたらしい)が飛び立つ。
もうこのベース自体が非現実的だからよほどのことがあっても、ああそういうものなんだ、としか思わなくなっている私がいる。
ほら、今も空から人が落ちて……。
「うひゃぁっ!?」
横に転がって回避すると一瞬の差で私の頭があったところに踵が落ちる。
あ、危なかった。
「あ、悪い悪い」
「もう! なんでいつも変なところから現れるんですか!」
白髪の女性、レイズさんが軽く武装した格好で立っている。
長袖シャツに黒いパーカーとカーゴパンツ。
腕にはガントレットという接近戦用の装備で、腰回りにはナイフがたくさん。
なにやらスコールさんの装備に似ている。
「いやーちょっとなぁ……」
上を見上げて指さすと、そこにはなぜかバトルライフルを構えているスコールさんが。
「あいつが撃ってくるから」
言った瞬間に銃声が響き、レイズさんは何かを殴った。
金属音が響いて何かがパラパラと散る。
まさか、弾丸を……?
「フランジブル弾。硬いものにあたると砕けるやつだ」
「だからって人の手で砕けるものですか……」
言いながら次々と飛んでくる弾丸を殴って砕き、時には見えないほどの速さでつかみ取って握りつぶした弾
丸を風に流して。
しばらくすると弾切れになったのか、刀を持ったスコールさんが飛び降りてきて。
「ほんと規格外だな」
「お前が言うか」
互いに抜刀して切り結ぶ。
なんでいつもこの人たちは会うとすぐにこうなるのだろうか。
とりあえずレイズさんとスコールさんが正面切ってやりあうと甚大な被害が出る。
私は巻き込まれたくないからその場から離れていく。
今までも二人の喧嘩は見てきたけど、一番激しかったときはベースの外、もっとも装甲が厚い場所で何をしたのか装甲を大破させて隊長さんたちに丸一日お説教を受けていた。
さすがに空の上ともなれば悪魔たちは来ないけれど州軍は来る。
たびたび近接防空砲の網をすり抜けたミサイルが直撃するけど装甲が破損することはなかった。
そんな装甲を喧嘩程度のことで壊す……あの人たちなんだろう。
お昼を過ぎて、席が空いてきたころに食堂に向かうとパチン! と叩く音がして、ドアが開いてレイズさんが飛び出してきた。
顔を赤くして、目元を押さえて、泣きながら。
何があったのだろう。
食堂を覗くと人だかりができていて、その真ん中にスコールさん、足元には何かの袋が落ちている。
しかもスコールさんの頬には紅葉マーク。
どうも平手打ちを喰らったらしい。
「いくらなんでもアレはねえぞ」
「やりすぎじゃね」
「最低だね、人間として」
「断るにしてももうちょっとやりかたってもんがあるだろうに」
周りから隠そうともせずに突き刺す視線が向けられている。
「あの、なにがあったんですか?」
「気にするな」
そんなことを言われても、あんな泣き方で走り去るなんてよほどひどいことをしないとああはならない。
「スコールさん」
「……悪いのはあっちだ」
足元の袋を拾い上げて、中身を確認することなくそのままゴミ箱に投げる。
紙袋ではなく綺麗にラッピングされたものだ。
きっとなにか贈り物のはず。
「見なくていいんですか」
「いいんだよ」
至極面倒くさそうに言ってその場を立ち去ろうとする。
「レイズさんの気持ちを考えないんですか!」
「知ったことか。お前には関係のないことだ、首を突っ込むな」
そうしていなくなって、入れ違いで杖を持った男の人が入ってくる。
「あれ? またあいつ何かしたの?」
「レイズさんからの贈り物を捨てたんですよ。それにレイズさん泣きながら走っていきましたし……」
「もしかしてそれって綺麗に包装されてたやつ?」
「そうですよ」
「あー……あいつ鼻がいいからね…………気付くよなぁ」
杖を持った人はゴミ箱から贈り物を拾うとぶつぶつと何かを言いながら出ていく。
その後も食堂にいた人たちは口々に文句を言っていた。
何か軽く食べようと思ってきたけど、食事をするような気にならなかったので私は食堂を後にした。
確かに酷い人だとは知っていた。
でもそれは、あの頃は人を寄せ付けないことで誰かを護るためだった。
だけど今のは?
考えながら歩いていると、デッキに出るための通用口から声が聞こえてきた。
そっと覗いてみると、膝に顔を埋めたレイズさんが壁際に座っていて、知らない男の人が慰めているようだ。
「うぅ、ぐず、す……」
「だからなぁ、無駄な事だと分かってるだろ? お前もう何回目のアタックだ? 今まで全部失敗してるだろうに」
「だがらっで……」
「いい加減に諦めろ……ん? 何か用か?」
私に気付いたその人がこちらを見てきた。
俳優さんみたいな……イケメン。
それがパッと見の印象。
背が高くて色の濃いジーンズを纏った足は長く、黒いシャツの上に藍色のケープのようなものを羽織っている。
体つきはスポーツ系でななく戦いで鍛えたような感じで、髪は耳を隠すほどの長さ。
目つきが鋭くて、服装を変えたらそのまま危ない人にも見えそう。
「いえ……そのさっきの見ちゃって……」
「ああ、アレを見たのか。まあいつものことだから気にするな、ってかよく見えなかっただろうがいつも通りのパターンなら」
と、そこで一度区切ってレイズさんを見る。
「こいつが毒入りの菓子を渡そうとして、気付いたスコールが仕返しに即効性の毒を使おうとして、叩き落とそうとするもその前に毒を受けて平手がぶつかった。そういうことになる」
「はぇっ? レイズさんが告白してそれをスコールさんが断ったんじゃ……」
「ははは、そりゃないな。そもそもあの野郎がそういうことに興味ゼロだし、そこまで発展することもありえねえって」
こんなことが日常的に起きる騒がしい毎日。
ある日はカウボーイハットをかぶった優男にナンパされて(どうも部外者らいし、なんで入ってこれたのか不明)、またある日は臙脂色の軍服を着た人(もと魔狼の所属らしい)にスコールさんを呼んでくるように言われ、今日は窓から逆さ吊りにされているレイズさんを見て驚いたり。
なぜか魔狼の皆さんがわかってて放置していたらしく、私が何人かに頼み込んで引き上げたときには顔は真っ赤で、耳の後ろのあたりに切られたような傷があった。
夕方になるころに私は二番甲板(フェンリルベースの中央甲板)に出て歩いていた。
なぜかといえばナギサさんにそそのかされたからだ。
「男の子がいじわるするのはその人のことが特別だから。早くしないと手遅れだよ~」
そういわれたけど、実際そうは思えない。
確かにいろんな説はある。
例えば、人間どう対処したらいいか分からなくなると逆の行動を取ってしまう。
例えば、反動形成(スコールさんから聞いたことだけど)。無意識下の気持ちを打ち消そうととってしまう行動。
例えば、嫌がらせすることでいつも近くにいると存在をアピールしたい。
例えば、気を許せる相手だから本音でやりあえる。
そもそも本当に嫌いなら近づくことなく完全に無視するだろう。
こう、思うことはあるのだけど、スコールさんがやっているのは相手が好きだから、そういうよりは……なんというか、長い付き合いだけど後にも先にも行きたくないような……そうじゃなくてえっと……なんて言ったらいいのかな?
好きだけど……それがまだよくわからない?
ううん、違う。
それは私だ。
スコールさんは……たぶん分かっても分からないふり?
だとしたら、私が言ってもそれは受け止めてもらって、そして受け止めてもらうことはできない?
考えながら、悩みながら歩いていると甲板の先に二人の影が見えてきた。
いつものように喧嘩している、そう言われてここに来たけどいつもと違う。
「けふっ……ようやくか……」
「はは……さすがにそんなの受けたら、体が持たないから」
スコールさんが片膝をついて、レイズさんは肩を……腕のない傷口を押さえていた。
スコールさんのほうは口を切ったのか血が垂れていたが、レイズさんのほうは不自然。
血が一滴も流れていない。
代わりにさらさらとした灰のようなものが風に運ばれていく。
「悪魔の王、堕天した最高位の天使、光の運び手。ルシフェルの名で呼ばれることはある」
「うれしくないねえ……そりゃもう人間やめたけど」
レイズさんが残った腕を振り上げると輝く光が顕現した。
頭の中に浮かんできたのは、魔法、悪魔、聞こえてきた言葉の通り、彼女は人間じゃない。
「覚悟しろスコール」
「…………」
それが振り下ろされて、ボフンッと音が響いた。
赤色が飛び散る、灰色が宙に舞う。
「なんてな、まだ弾切れじゃないんだなこれが」
「っ……お前っ!」
肩を大きく切り裂かれながらもレイズさんの片足を吹き飛ばしていた。
ここで私はどうしたらいい?
ナギサさんにはこうも言われた、
「スコールってさ、恩は必ず返すバカだからね、危なくなった時に勝手に助けたら勝手に望みをかなえてくれるよ。だから、一応これ持っていきなさいな」
だから、使い慣れたVz61を腰に下げて持ってきた。
もちろん実弾ではなくBB弾の詰まったエアガンだ。
目の前には不利な(ように見える)スコールさんがいる。
助けに入るべき?
ナギサさんが言っていたことはどうも信用できないけど、スコールさんの性格で考えると信用できなくもない。
「ったく、なんだってんだかこの世界のルールは……」
見る見るうちにレイズさんの腕や足が再生されていく。
「知るか、特定の分子構造をもつものを水に浸すとたちまち魔力を消し飛ばす”聖水”に早変わりだからな」
スコールさんもふらつきながら立ち上がってハンドガンを構える。
あんなに出血している状態じゃ危険だ。
走った、とにかく走った。
間に割り込んで止めさせないと。
「なあスコール、負けたほうがなんでもいうこと聞くってことでいいんだな?」
「ああそれで構わん」
私が割り込む前に三発の発砲音が轟いた。
「づぁっ!」
「くっ」
レイズさんの脇腹が吹き飛んで、スコールさんは肘とハンドガンを撃たれていた。
「これで」
「まだだ」
それでも喧嘩……いいや、殺し合いをやめない。
二人が次の一手を打とうとしたところに割り込む。
「もうやめてください!!」
「バカっ!」
「なっ」
前と後ろから嫌な音と焼けるような痛みがじんわりと伝わった。
「な、んで……けんかするんですか……」
体から力が抜けて、視線が落ちる。
そこには後ろから突き抜けた大振りのナイフの切っ先と、レイズさんが突き出した大きな針が突き刺さっていた。
染みのように赤色が服を染めていく。
すぐに二本の凶器が引き抜かれて、スコールさんに支えられた。
意識が遠ざかっていく。
私……こんなことで死ぬの?
◆最終話◆
私は寝ていた。
決して豪華とも綺麗ともいえない質素なベッドの上で。
カーテンで仕切られた部屋の一角のベッド上で。
あのケガはレイズさんが刺したものよりもスコールさんに刺されたもののほうがとても酷かった。
ナイフの刃は斬るための刃ではなくノコギリような刃で、しかも毒まで塗られていたから。
悪いのは割り込んだ私だ。
でも割り込まなかったら……レイズさんに刺された箇所とスコールさんの位置を考えると、スコールさんの喉か顔に針が突き刺さっていたことになる。
もし割り込まなかったら……それを考えると割り込んでよかったと思う。
「…………」
薄らと目を開けると壁に体重を預けているスコールさんが見える。
パーカーのフードを目深にかぶっているけど、頬に叩かれた跡がくっきりと見える。
片方の腕は袖を捲り上げて包帯できつく巻かれている。
「スコール、さん?」
「悪かったな。周りに気を散らしていれば気づいてこんなことにはならなかった」
「…………」
私は言いたいことを一度頭の中で整えて、そして一思いにいう。
「なんであんなことしてるんですか! なんであんな危ない喧嘩をいつもやってるんですか! 私が間に入らなかったらスコールさん大怪我してたんですよ! それっ」
言いきれなかった。
お腹に力を入れたせいで傷の痛みがズキズキと存在感を示した。
「(なにやっても死なず実験動物として扱えるという理由で道具として)好きだから。そもそも嫌いだったらもっとストレートに甲板から蹴り落とすなり食べ物に致死性の毒を混ぜるなりしてる」
「…………好き、ですか……」
なんだか分からないけど涙があふれてきた。
気付いたスコールさんが見当違いな言葉をかけてくる。
「傷が痛むか? 痛み止めは」
「そうじゃありませんよ……」
一度あふれだすと歯止めが効かなくなってどんどんあふれる。
「くぅ、うく、うぁああ……わたしだって、ひくっ、好きなんですよ」
「誰が?」
まったくこの人はっ!
「スコールさんのことがですよ!」
声にして伝えたら少し気持ちが軽くなったそれでも、
「…………はい? ……どう考えてもそうなる要素が一つも思いつかないんだが」
分かってくれない言葉で気持ちが沈む。
「なんでそんな……嘘でもいいから少しは……」
私は寝返りを打って、スコールさんに背中を向けた。
止まらない涙がシーツを濡らしていく。
言わないよりはいうだけ言ってはいさようなら、そのほうがいい。
人は選ばなかったほうをとても後悔するというけれど、私はこれでいいんだ。
少しすると誰かが部屋に入ってきた。
「スコール、ちょっと相談がある」
「どうした。ベイン?」
「レイズのことなんだけどなぁ、お前なにした? いつもより酷くダウナー入ってるぞ」
「覚えはとくにな……くはない。ユキを刺したのが原因じゃないか。あいつは関係ないやつを巻き込むとうじうじ引きずる質だから」
「この子か?」
「そうだ」
「へぇ……お前そんなひねくれた性格のくせにちょくちょく好かれるな」
「何で好かれるのかが分からん。寄せ付けないようにしているつもりではあるが」
「俺はなんでお前が”分からないフリ”をしているかが分からないな。いいじゃないか、お前の信義に反するとしても誰かの思いに応えてやっても」
「……」
「逃げるな」
「…………」
「おいスコール!」
最後にぼそりと聞こえた。
失うのが怖いから、なにも手に入れなくていい
結局、一人でいるのはそういうことなの?
数日して。
解毒が終わって傷も塞がってきた私は気晴らしに甲板を散歩していた。
よく晴れた青い空の下で心地よい風が吹き抜ける。
しばらく訓練はしていなかったしこれからも完治するまではお休み、その間にミコトさんやホノカさんたちとは随分と実力に差が開いてしまうだろう。
完全に治ったらまた訓練を頑張ろう。
私はまだ諦めきれてはいない。
答えはまだでない。
それでも、彼と同じ場所に立っていればきっと――――。
終わり方に文句はあるでしょうが……。




