ていこう
翌朝。
目を覚ますと部屋にスコールさんの姿がなかった。
代わりになぜか隊長がいるのだけど。
「ゼファー!」
「は、はいぃっ!」
まだ寝ていたゼファーさんが飛び起きて、隊長を見るなり敬礼をする。
なんだかあまり決まっていない。
「昨夜スコールから連絡を受けて来た。悪魔だなんだとかの感染はあいつには効かないから放っておくとしてだ。ゼファー」
「ハッ」
「まずお前の方は話を通しておくからすぐに戻れ、減給だ」
「のぁっ……」
口を開けたまま固まってしまった。
目の前でひらひらと手を振っても反応がない。
「そしてユキ」
「はい」
「お前は正規の所属ではないからこちらではどうすることもできない」
うぅ、仮所属だから仕方ないけど……。
「スコールに触れて感染、という事になっているがそうでないことを証明するものがない。だからあと数日ここで待機した後……下水道を伝って戻って来い」
「わ……分かりました。それで、その、スコールさん……は?」
「あいつは放っておけ、どうせ月一の体調不良か悪魔に触れられて体調崩してるだけだ」
どういうことだろう。
触れられて感染ではなく体調不良?
「分からない、そんな顔をしているな。あのバカは の加護を得ているから大丈夫だ」
「えっ? 何の加護ですか?」
「 の加護だ。どうせ言ったところで聞こえないように変なことになっているがな。ははっ、まあ気にするな」
そう言うと隊長はセーフハウスから出て行く。
見送ろうとドアの隙間から外を見ると、簡易結界の外側にすごい量の灰が積もっていた。
やっぱり、この人たちって規格外だ。
その後ゼファーさんもいなくなって、私一人でセーフハウスの中でごろごろと……。
とても暇だ。
セーフハウスの中を一通り見たのだけど、保存食と発電機と燃料、そして武器箱と毛布と医療キット。
娯楽用のものが何もない。
余りに暇で、壁に寄り掛かっていると窓から入ってくる日の光が気持ちよくて、うとうと……。
「貴様この我に」
「黙れ夢魔」
いきなり厳しい声がして、目を覚ますといつの間にか夜。
そして目の前には取り押さえられた男の人と、取り押さえているスコールさんがいる。
「ユキ、服を着たらこいつにフルオートでありったけ撃ち込め」
「え、服……ひゃぁああああっ!?」
体を見るとなぜか裸で、着ていたはずのものが辺りに散らばっていて、なんだかあちこち触られたような感触がある。
「は、放せ人間!」
「黙れ下級悪魔。精神干渉もできないほどの雑魚がよくもまあ手を出して来たな」
素早く身だしなみを整えながらそちらを見ると、スコールさんが片手で頭を押さえて片膝で腰を押さえ、空いた手で背中の痛いツボを押そうと。
「ぎゃはっ!」
「さすが、無駄に人に近い構造をしているだけはある。インキュバスにもきっちり効果があるな」
服を着終わると箱を開けてVz61(電動式)を取り出して、マガジンを挿してスライドを往復させる。
いつもより重かったけど、大容量マガジンかな。
バッテリーも刺し込んで。
「や、ややぁ! 待てっ!」
「撃て」
ジタバタと暴れる変態さんに照準を合わせて、セレクターをフルオートに。
なんで私の服が脱がされていたのかは知らないけど、スコールさんがするわけはないのでこの変態さんしかいない。
トリガーを引いて、シュココココと音が響く。
撃ちだされた弾は変態さんの顔にあたって、撃ち砕いて灰色の何かを散らしていく。
ほんの数秒で全弾撃ち尽くした時には割れたBB弾の破片と、削り取られたコンクリートの床。
どうもかなり威力が高い物らしい。
「オーケー、明日の朝には移動する」
「でも隊長に待機って言われてますけど」
「正規所属じゃないから従う必要は無い。なによりインキュバス、悪魔がここの結界を越えたことが問題だ」
「聖水を散布すれば」
「ワイヤーが切られてる、今から張り直して散布するまでの間に襲われたらさすがに持たない。だから朝まで大人しくして、移動する」
「分かりました……」
ワイヤーが切られている。
悪魔たちは触れるだけで身体が崩れていくから、変異体かそれともほかのテリトリーの人か。
犯人は分からないけど、警戒はしないといけない。




