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げんかい

「はぁ…………げっ……」

「無茶しすぎだろ……つうかなんでお前は素手であんな大軍を制圧できるんだよ」


 セーフハウスの中で発電機を稼働させながら私たちはレーションをかじっていた。

 コンクリートと金を少し混ぜた鉄格子に囲まれたここは悪魔たちが近寄ってこれない安全地帯だ。

 外で体当たりをしているであろう悪魔たちの音は厚いコンクリートに阻まれて聞こえず、変異体の空間を無視した移動もできない。


「これは……明日あたり限界かもな……」


 額から汗を流し、肩で息をしているスコールさん。

 かなりつらそうだけど……もう私たちにはどうすることもできない。

 今まで資料で見た感染の症状と全く同じだ。

 ウイルスではないから治療薬なんてない。

 触れられた瞬間に全身から同時に侵食され始めるから感染部分だけを切除することもできない。

 それに……感染途中の場合でも触れるとうつる。

 私はあの時に、スコールさんを庇おうとしたときに少し触れてしまったから……。


「どれだけかかる?」

「多分早くても三日。遅ければ一週間」

「長えな」

「あの……さっきから何の話ですか? それ、感染について……?」


 スコールさんが怠そうに説明をゼファーさんに投げた。


「上も隠すのに必死だろうが……感染ってのは魔素だ。もしくは魔力でもいいが、とにかく魔って名前の通りいいもんじゃない。僕が隊長に教えられた範囲では、当初アメリカの方の邪神教のやつらが本当の悪魔を呼び出すことに成功したらしい。だけど悪魔っていうのはいつでも生きるモノの魂を狙っている。呼び出した連中も喰われたらしいが、一人だけ負傷しながらも逃げおおせた、そしつが最初の感染者ってわけだ」

「えと……それじゃあ私たちが悪魔って呼んでるのは」

「単なる感染者であり、魔に蝕まれて生産機プラントになった人間だ。それに、本当に悪魔が存在するってことを隠すために民衆の目を引き付けるためでもある」

「それ、知ってるのって……」

「州政府上層部と僕たち魔狼、そして一部の詳しいやつら。なんで州政府が保護下にない民間人を射殺するか分かるだろ?」


 分かりたくないけど分かってしまう。

 混乱を避けたいためか、それとも本当に自分たちだけが生き残ればいいのかは知らないけど、とにかくそういうことを広められると困る人が州政府側にいるってこと、かな?


「あぁ、それと悪魔がいるから天使もいるとは思わないようにな」

「なんでです? 天使と悪魔ってセットじゃないんですか?」

「あー……そう言う考えか。どっちも同じなんだよな、天使が堕ちて悪魔になってるから。いまじゃ天使なんて数えるほどしかいないと思うぜ、なあスコール?」

「もういないだろ……いるならなんで地上に降りてきて悪魔を退治しない」

「わーお……さらっといないことを証明しやがったよ」


 その後もいろいろと聞いたけど、私じゃとても理解できるようなことじゃない。

 日本人だから?

 宗教観念が薄いからなのかもしれないけど、天使とか悪魔とかってゲームや物語などでしか知らない。

 神学とかを習っていたら、少しは今の状況も違うように捉えていられたのかな。


「って、天使とか悪魔の存在はそういうんじゃなかったよな?」

「多元宇宙論、知ってるか」

「いや」

「私も知りません」

「だろうな、高校の範囲で習うことじゃないから」


 高校の範囲じゃ……そう言えばスコールさんって二十にはいってないけど十代の私たちの中では最年長。

 ということは大学生だった?


「多元宇宙……簡単に言うのなら複数の宇宙があったり世界があったり。お前たちには平行世界と言ったほうが分かりやすいだろう」


 先ほどよりも呼吸の落ち着いたスコールさんを見ながら頷く。


「今そこに箱があるだろう」

「これですか?」


 工具箱のようなそれを引き寄せる。


「そう、今その中にはエアガンと弾が入っている。見てみろ」


 開けてみると確かにあった。

 Vz61とマガジン、BB弾。


「あります」

「ゼファー、お前も見ろ」

「あ、あぁ」


 ゼファーさんが覗き込む。


「エアガンと……なんだこの変な塊?」

「え? そんなものありませ……」


 箱の中の何もなかったはずの場所になんだかよく分からないものが現れていた。


「それだ。認識の違いだ。位相スペクトルのずれた位置にあって、それを観測にんしきできるかどうか。観測することで初めてそこにあると確定され、干渉できる」

「ん、ならあの変異体つうか、本当の悪魔どもは同じ座標の認識不能なところにいるってことか?」

「そうとも言える……が、そういうことじゃ……」


 壁に寄り掛かったスコールさんが倒れた。


「あ、おい!」


 触ってみるとひどく熱があった。


「ゼファーさん、氷ありますか」


 静かにゼファーさんは首を振った。


「ここまで来ると……もう放っておく以外に手がねえよ……」



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