ついほう
「こっち見んなゼファー!」
完全に服を脱いだミコトさんがきつく言う。
あられもない全裸の姿。
うっ……私よりおっきぃ。
「なんで僕にだけそんなきついんだよ! つーかおめーらの貧相な身体になんかきょーみねーわ」
「うわっ言いやがったよこいつ、ホノカどう思う」
「さいってー、それになにどさくさ紛れてガン見してんの!」
「んだと、そんながぐっ!」
「ぎゃっ」
「いたぁ!」
スコールさんの鉄拳が……。
グローブを着けた拳ですごく痛そうな音が四連続。
確かあれって金属片入れてるから……。
「なんで僕だけ二発なんだよ! 不公平だ!」
「お前ら騒ぐなら終わってから騒げ」
「無視か!?」
ホノカさんとミコトさんの一撃は軽かったようだけど、頭を押さえてうずくまっている。
やっぱりスコールさんって、相手に合わせて手加減はするみたい。
拳を振り下ろしたスコールさんは何事もなかったように上半身の服を脱ぎ始め、肌が見えた瞬間に全員の視線が釘づけになった。
恐らく武装した人たちは背中と腕の包帯だろうけど、私たちは体中についている様々な傷痕に目がいっていた。
切り傷や打撲痕、射創に火傷や普通に生活していては絶対に付かないような傷跡が目立つ。
「貴様、その包帯はなんだ!」
「熊にやられた」
「熊だと? この辺りには生息していないはずだ。傷を見せろ」
銃口を突き付けながら二人ほどがどんどん近づいて行く。
その間に私たちの方には別の人が来て体中を見られる。
「よっ、ユキちゃん久しぶり」
「え? ナギサさん?」
「そーそー、報告終わらせたら近いからってこっちに回されちった」
これは……正直別の人が良かったなぁ。
検査では触る必要は無いけど、この人は触ってくるから。
「うへー、ナギサが担当?」
「さ、さわんないでよ……?」
「ふふふ……」
あ、これ触る気だ。
横を見ればもう全身くまなく調べられたであろうゼファーさんが隅っこほうに逃げて服を着始めている。
私たちも規定に従って全身、頭の先から足の先までじっくりと視られた。
そして終わってすぐに逃げようとした途端に。
「わひゃっ!」
「あー……ユキちゃん、全然育ってないねぇ」
「さ、ささささわらないでくださいよ」
「うん、十五をすぎたら育たないからねー、無乳って言うの? 残念だったね」
「なにがですかぁ! ミコトさんホノカさん助けてくださいよ!」
「ごめーん、私ら巻き込まれたくないから」
そう言って二人が逃げようとした瞬間、部屋の隅から銃声が轟いた。
「はっ」
わ、私の胸をさわっていながらもいち早く反応するところはさすがナギサさん。
音のした方向へ目を向けると、壁に銃弾が突き刺さって回避した後の体勢のスコールさんが武装した人たちを無表情に見ていた。
あぁ……このままじゃスコールさんが殺される。
「待ってください!」
気付けば勝手に足が動いていた。
後になって、なんであのとき自分があんな行動を取ったのかと聞かれても答えられないだろう。
とても危ない行動。
裸のままでスコールさんの前に立って、両手を広げて庇うように。
銃口を向けられる恐怖で膝がガクガクと震えている。
「バカが……」
スコールさんには呆れた声でそう言われ。
「どけ小娘!」
「ひぃっ」
武装した人には怒鳴られる。
服を着終えたミコトさんやホノカさんもこっちに止めに入ろうとしていたが、ナギサさんに制止させられていた。
ちょいちょいと指さされた先には監視カメラがある。
……これで私は敵対者扱いになる。
「まったく、これだから外部委託は困るんだよ」
「スコール!」
部屋の隅でゼファーさんが一人を押さえつけて、拳銃のようなものを投げて寄越した。
「ありがとよ」
空中で器用につかみ取り、一瞬で狙いをつけて引き金を引いた。
破裂音、飛び出したニードル、それに繋がる導線。
スタンガンで崩れ落ちた人に向かって走り、武装した人たちの銃口も追うように動く。
そこから先、私はよく覚えていない。
ただ、スコールさんが一人で全員を倒してしまったのはよく覚えている。
とくに、触れたとかなんとか言って私に銃口を向けた人は真っ先に首を折られていた。




