こりつ
「ロックンロォールッ!」
「ガンズ撃ちまくれ!」
穴の開いた天井、そのさらに上。
暗い空間からロープが何本も垂れて人が滑り降りてくる。
装備は砂草色の戦闘服で、全身がっちり固めて支援射撃の壁の中にとんっと足を着ける。
降り注ぐのは金属弾。
それでも悪魔たちが灰になっているという事は、聖水を塗布した弾丸か聖書の文字を刻み込んだ弾丸だろう。
しかもそんな装備を扱うという事は州軍。
「ユキこっち来て」
すでに合成樹脂弾を装填済みの銃を構えたミコトさんの後ろに隠れる。
跳弾は角度計算がされているのか飛んでこない。
かわりに数人の州兵が向かってくる。
「こら、子供がそんなものを持つんじゃない」
「うるさい、あんたらのせいで!」
カタカタと手が震えている。
「ミコトさん」
「この距離なら樹脂弾でも確実に殺れる……捕まるくらいなら」
怖い。
ミコトさんもそうなのかな。
小学生から見た中学生は妙に大人に見えて怖い。
中学生から見た高校生もだ。
それと同じような怖さもあるけど、なりよりお互いに相手を傷つけるどころか殺める手段を持っていることがさらに……。
「おい、こいつらどうするよ」
「あぁ? IFVに引っ掻けて引き摺ってみっか」
「もったいねえだろ、こんな上玉そうそうお目にかかれねんだ、丁寧に持ち帰って遊んでやろうぜ」
それを耳にして震えが止まった。
恐怖が行き過ぎて麻痺したのか、感覚がおかしい。
女二人の前に本職現役の軍人が数人。
怖い。
確かに恐怖は感じているが震えよりもこんなのを人として見ていいのかと思う。
「ねえユキ」
「……はい」
「逃げてね……」
「え? どういうこと――」
聞く前に爆竹が破裂するような音が連続して響いた。
目の前で次々に光が弾ける。
「行って!」
「でも」
「いいから!!」
背中を押されて、乱れた包囲網の外側に出る。
そこから見えたのはパチンコ玉くらいのなにかをばら撒くミコトさんだ。
州兵たちは至近で喰らったからなのか、プロ失格、立ち直りが遅すぎる。
「私のことはいいから、早く行きなさい!」
直後に銃声が響き始め、どたばたと人が倒れ赤色が飛び散る。
ここで私が援護に戻ったとしても二人ともやられるだけ。
だったら……私だけが逃げるしかない。
ビルの外に出る道は州兵が塞いで外から入ろうとしてくる悪魔たちを押さえている。
だからさらに奥の方へと足を進めた。
照明のないかなり暗い廊下。
扉が強引に開けられ、シャフトが丸見えのエレベーター。
先は崩れ落ちた天井が道を塞いでいるから通ることが出来ない。
エレベーターシャフトの中を覗くと、錆びてぼろぼろになっている梯子があるだけで、他に掴まれそうなところがなかった。
下を見れば地下階に通じる真っ暗な大穴。
下に逃げたところで行き止まりなのは分かっている。
だから上に登ろうと思うけど……手持ちのペンライトで照らしてみると途中で梯子がなくなってしまっている。
スコールさんあたりならシャフト内部のでこぼこを伝ってこれくらい登って行けるのだろうけど、私にそんなことは無理だ。
上にも下にも行けない。
行き止まりで後ろからは怖い州兵が追いかけてくる……。
迎え撃つしかない……?
「やれる……? ううん、やるんだ」
仲間が捕まると基本的に救出作戦が行われる。
皆さんにかなりの負担を強いるくらいなら……。
「……んっ」
普段は精度が落ちるからあまりやらない両手持ち。
レギュレータを弄って威力を上げ、フルオート射撃ができるように構える。
Vz61が二丁。
それぞれ四十発。
エアガンとはいえ、至近距離で顔を狙えば皮膚の深くまで穴を開ける程度は簡単にできる。
エアソフトガンとは違うんだから。
向かってくる足音に向け、銃口を向ける。
何が来たってやることは変わらないんだから。




