いきなりぴんち!
「クセロさーん、もー無理です」
「つべこべ言わずに走れ走れ走れぇ!」
私、ユキは今日も生きています。
「なんで予備のマガジン落としちゃうんですか! もう!」
「すまん! いやでもな、命と弾と比べたら誰だって命だ!」
クセロさんはスリングで背中に弾の尽きたM14を背負い、私は片手にVz61を一丁、腰に予備をもう一丁。
残弾はたったの10発。
実力が違い過ぎた……。
「……それより他の人たちって生きてるんでしょうか」
「分かんねえな、とりあえずは結界の向こう側まで行けばなんとか……」
「あ、前に!」
「ちぃ、頼む」
「はい!」
ぼろぼろの車が打ち捨てられた大きな道路。
その向こう側から人が走ってくる。
私は”それ”に狙いをつけて――引き金を引いた。
ハンドガン並みに小さなこのサブマシンガンは、反動が少なく私でも簡単に扱える。
ストックを畳んだまま、両手で構え、銃口から吐き出された弾丸は――人を破裂させた。
「ナイス! 行くぞ」
「はい」
どさりと倒れた人を、通り過ぎながら見ると溢れ出る血なんてない。
断面から見えるのは灰のようなさらさらと零れ落ちる残骸。
「一体なんだよありゃあ」
「そのまんまバイオハザードですね。触れられただけで感染して、ああなって」
「ああそうだな。でもあれは……」
悪魔。
最初にあれが確認されたのは、アメリカだったという。
ある日、一人の男性が隣人を襲った。
それは傷害事件として処理され、終わったが、すぐに襲われた隣人が狂って人を襲う。
その連鎖が加速度的に広がり、ある日そのうちの一人が銃で撃たれた。
だから分かってしまった。
撃たれた人は血を流すこともなく、撃たれたダメージを気にすることもなく人を襲い続けた。
そのさらに数日後、聖職者が襲われた。
聖職者は持っていた十字架を振り回して威嚇し、それでも向かってきたために十字架で殴ったという。
殴られた感染者はたちまち身体にひびが入り、崩れ、灰になった。
以降、感染者たちは十字架で倒され灰になったという事から悪魔と呼ばれるようになった。
「クセロさん、BB弾の予備も落としたんですか?」
「リュックごと全部だ」
「そんなぁ……」
BB弾、エアソフトガンで使うあのプラスチック弾と思っていい。
でも私たちが使っているのはそれに聖水を振りかけた神の祝福を受けた弾丸。
バレットと弾と意味が被っているから、バレットじゃなくてブレッシング、強い神の祝福を受けた、とか言われもする。
人にはほとんど危害を与えないが、悪魔たちには触れるだけで身体を拭き飛ばし、直撃させることで致命傷を与えることができる。
そしてなぜBB弾かと言えば、最初は金や銀の弾丸を使ったり、通常弾に聖水をかけていたがコストの関係、一度に運べる量の関係、そしてなによりも民間人に渡してしまうと犯罪が増加するということがあったらだ。
「にしても、しつけぇなぁ」
「ほんと、そうですね」
そしてなによりも大事なこと。
私たちは今、逃げている。
背後には道を埋め尽くすほどの悪魔たち、残弾は二発。
どうにもならないから逃げている。
「不味いな」
「……ですね」
前方にも悪魔の群れがいる。
見た目はなんら人と変わらない、普通に街中を歩かれたらもう見分けることすら叶わない。
それでも、こんな廃墟になった結界の外を銃器もなしに歩いているのは、あの人以外にはいないから。
だから向かってくるのは悪魔。
だいたい、撃つのはBB弾。
もし本当に人だったらなにも起こらないから謝り倒せば、長いお説教だけですむんです。
「クセロさん、どうします? これはさすがに……」
「どっちかが囮になるなんてのも……無理か」
「…………ほんとに、どうします?」
「…………」
クセロさんがそっとポケットから別の銃を取り出す。
もしもの時の為の……。
「やっちゃいます?」
「感染して仲間を襲うくらいなら……」
引き金に指をかけて……。
なにか以前にもこういうのをやった気が……
いや、やりましたね
『日がなスライムの日常』っていうタイトルで
とりあえずこれは10万文字以内で終わらせる”予定”です
それと更新は0時、6時、12時、18時のいずれかです