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「……なんだかなぁ」
情報を反復する回数が十分であれば、その情報は長期記憶となり、永久的に残るらしい。私の場合、それは決まって嫌な思い出である。
私は本気で自分が賢い子供だと思っていた。
その恥ずかしさがことあるごとに自分の記憶に甦るのである。
大人を完全に馬鹿にしていたあの態度が気に入らなくて、たまに悶えたくなる。
本当に人の心を掌握できていた気でいた。
今考えてみればヒナコさんも突然子供を預かることになって動揺しただろうに。それもあんなに壁を作られたら、接し方の正解なんか分からなかっただろう。
本当はただ寂しかっただけなくせに。
自分の居場所が欲しかっただけのくせに。
それを教えてくれたのが、あの事件だった。
自分は決して賢くないということを突き付けたのだ。
たった一握りの金銭を得るために、短絡的な衝動で、一番の居場所を犠牲にし、その後ろめたさで大切な人を傷付けた。
二度とこんな不快な気持ちにならない為に、誠実であると決めた。
「本当は、あなたがちゃんと生きている間に謝りに来れたら、このわだかまりもましだったろうに」
高収入を得てから謝りに行こうとか、そんな下らないことを考えるのではなかった。そんな目標を掲げたところでしんどいだけだし、駄目だった時のリバウンドが激しくて無駄に自尊心にヒビが入るだけで、何より目的と行動が一致していなかった。
それ以降は、思い出ったらすぐ行動摺るようにしている。
「来年もまた来ます」
盆。
もう野菜の置かれていない無人販売。
そこの錆び付いた賽銭箱にお金を投げ入れ、手を合わす。