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申し訳程度に付けられた屋根はプラスチックで、雨が降るととてもうるさい。スネアドラムでもひっくり返したような悲惨な音で、小雨でももれなく豪雨のそれへと変えてしまう。算数で100点を取った。学校のチャボが産んだ卵をフライパンに割ったらひよこになりかけのが入っていた。おばあちゃんはうんうんと頷いているが、恐らくは聞こえていないだろう。
けれどそれでも構わない。
こうしていつまでも雨宿りしていたい。
雨は未だ、喋っている本人すら声が分からなくなる轟音に包まれている――
無人販売は一日に二回だけ有人になる。
商品を陳列する朝六時から一時間。売れ残りの野菜と売り上げを回収する十七時。おばあちゃんはその一時間早くに無人販売にやってきて、立て掛けてあるパイプ椅子に座ってまったりする。本を読んでる訳でも、待ち人をしている訳でもない。ただ電柱すらない田舎の緑と空を、ふわっと眺めているだけ。そこに下校途中のケイスケが現れる。そしていつも思うのだった。
(……寒そう)
両側と後ろには木で出来た壁がある。
しかし、手前は完全な吹きさらしだ。きっと商品がドライバーから見えないからだろうが、だからといってガラス戸なんかつける金はないのは立てつけの悪さから伺える。
車が通る度に、冷たい風がおばあちゃんに襲い掛かる。端から見ていて思わず顔をしかめそうな光景だ。
けれど、このケイスケという少年は人とは少し違った。うきうきとまではいかない。しかし、人知れず朗らかな笑みを作っているその純粋な眼差しは、決して凍える老人を見る目ではなかっただろう。
どうしていつも、こんなところにいるのだろう。
毎日そこを通る度に、ケイスケは同じ疑問を抱いた。
おばあちゃんも、家に帰りたくないのだろうか。
そう考えると、胸が妙にそわそわした。
出来ることならあまり家に居たくない―― ケイスケは、頭が空になるとそんなことばかり考えている子供だったから。
その日もケイスケは、なるべくトロトロ歩いて家に到着するまでの時間を稼ぐ。
どうして自分がこんなことをしなければならないのだろう。
本当は指が悴んで痛いし、はやくこの北風に体温を拐われない家に帰りたい。
ケイスケは、手を握ったり開いたりを繰り返す。
手は、感覚がないを通り越して、なんだかぶよぶよとした感じがした。
ケイスケはランドセルと背中の間に手を入れる。凍てついた温度が、じわじわ背中に広がって震えた。手は今一温かくならないくせに、体の温度だけ持っていかれる感じに顔をしかめる。それでも、仕方なく手を背中に差し入れた。手には赤と紫の斑点が散っていた。
薄暗い気持ちがない交ぜになった帰路には、いつもおばあちゃんが居た。自分と、同じように、一人で空を眺めて時間を潰しているおばあちゃんが。
「おばあちゃん、寒くないの?」
寒くないわけがないのだ。
自分がこんなに寒いのだから。
それは自然に出た言葉で。
けれどおばあちゃんは声が聞こえなかったのか、不思議そうに首を傾げるだけだった。