3・交流会=お見合いな、
3・交流会=お見合いな、
「………」
「………」
…雑踏と談笑の戻った体育館の中で、少女と少年は対峙をしている。大、小が、向かい同士に座った状態で。
「…………」
「やぁ」
「………!!!」
ばん、と少女はひざを叩いた。どうじにいかりとこうかいとこんなやつを!うっかりと!というおもいで耳がまっかになっていた。
「…………、」
そして直後には、表情が喪われた。
…相性チェックその二、交流会…面談。
騎士と聖剣…ー契約を結ぶもの、それ同士、
ぶっちゃけ、お見合いだとも目の前の少年はいってくれたわけだが、だとしたら今の状況は、なにだ。
「……………、、、、」
なにかのいけにえになった気分だった。いや、いけにえにされた気分だった。
アリアはわかっている。まわりで楽しそ〜に談笑をしているみんなたちが、じぶんたちから目をそらしていることに。特に上級生、
アリアは承前するしかないのだ。たすけをもとめて目をむければ、そらされることを。特に上級生、
わかってたな?
「…………………」
このものどもたちに、もはやなかまだとか、ともだちだとか、せんぱいにもこうはいにも、なりとうない。殿中にござる。姫!
同族のスズメやウグイスが血塗れで木枝に突き刺さられている…つまり百舌のはやにえを傍目に餌やりおじさんからのゴハンをせっせとついばむ鳩のごとき根性である、とみなしていた。
深く深くため息をついたつもりだったが、しかし小さな息量にしかならなかった。アリアはちいさいのだ…不幸は最大だったが。
「アリアちゃーん?」
「あなたを! はんにんです!」
「ひげ、」
「………、」
ゴッ、
「ぐふっ」
それから…
アン、アン、アウチ!(ムジュラのミカウ、もしくは便所の手) と悲鳴をあげるカズマをよそに、アリアはぜんりょくのグーのげんこつを…パーティグッズのつくりもののおもちゃのひげ…ですらなくエビのしっぽを、上唇にそうちゃくしていたカズマのがんめんを、なぐる! なぐりつづける!! うつべし! べし、ニャロメ。
「オ、オゥ……幼女のぱんちって、いてぇんだな、」
「なんでよろこんでるんですか! へんたい! えっち! えろがっぱ! けろけろ! えろがえる!」
「よろこんでなんかないさ、イケメン・フェイスだよ。にこぽ、ってやつなんだけど…“どうかな”?」
「………ッ、、、、!!!!」
「アゥチ!」
きどんじゃねー! というのが、いまのぱんちのいみだった。
「はぁ、はぁ、はあ…っ!!」
「ぐ、ふぅ、げろげろ……ーともった!? こたえないっぴょーん!」
「おらぁ!」
「がふっ、」
幼女から少年への異種格闘は続く。
笑顔のままやられるままのカズマへ総合格闘技だとか全日本プロレスをはじめたアリアに、あぁ、こいつら相性ばっちりだな……という目で周りの生徒たちはみていたのはさておいて、
「こぶしでかたった、」
「あぁ、こぶしで語られた…がくっ」
「つんつん、うんこつん、」
「アラレちゃーん…」
「んちゃ! あははぁ…はぁ…」
「「ああぁ…」」
「………」「………」
「ためいきを、つくな!」
「けおっ」
とどめのいちげき、となった。K.O.
「よいしょ、っ」
「あぁん、種馬ですぅん…北郷一刀、だったっけ?」
「はこうまのやくめにもならん、」
「ぱかっぱかっぱかっ、ぶひひーん!」
「きたなく、なくな!」
「あぅん!」
組み体操の要領で崩れ落ちたカズマの背中にアリアはのっかったのであるが、このようじょはつよかった。
「ぶたのせなかのかんしょくだ。みにくいぶたのかんしょくだ、」
「おほめにつき光栄…あ゛ぁ゛ぁ゛あん、ぶってぶって姫ぇえん!」
「ところで、」
「はい、」
「ほのおのきし、というのはしっとるか」
「ほのおの…炎の…ん?」
「へ」
「おしえてあげるから、どいてね、」
「! うん!」
ぱっ、明るくなって、それから飛び降りたアリアに、やはりこの少年は優しい微笑みを向けていた。
「あのねぇ、」
「うん!」
二人はプリキュ…再び椅子に腰掛けている。
アリアはわくわくしていた。やはりこの学園にきたのはまちがいではなかった! こんな早くにヴィレッジ・ピープル、第一村び…第一情報提供者に出会えるなんて…長期戦をも予想と想定していたのだが、放送期間が丸一年の、兄を追う弟のように、…はおいといて、
「あの、まっかっかなやつでしょ?」
「うん!!」
「機装騎士なのに、あの真っ赤っか、なの」
「うんうん!」
「どう思った?」
「すっごく、ばかだとおもった!!」
・・
「でしょぉ? あれはねー…」
「うん?」
「あー、あれはね。俺の師匠」
自分にとってのゆーしゃさまをあれ、呼ばわりした事に頭が瞬間でフットーしかけて、しかし何か聞き逃せないようなフレーズが含まれていた気がして、直後にはそれは確信に変わった。
シショ? シショー、支障、刺傷、もう一つはブッソウだからヤメにして、ん?
▼師匠
え?
「…ほんとうですかほんとなんですかマジってやつなんですかだったらだったらだったらだったら」
「オゥ! ビークール、ビークール…Bi,KOOL」
自分でも気付かない内にアリアは立ち上がっていて目の前に座る少年の身体をものすげーちからでゆっさゆっさと揺さぶり始めていた訳だが、背丈がそいつの腹くらいまでしかない女児の細指が結構な深さで己の両二の腕に食い込んでいる状況だったとしても、少年は何も考えていないのか愉快そうに笑ってるしあるいは脳天気なのかやっぱりそうなのかでもバカっていうのも失礼だしけどコイツよく見ると痛そうにしているぞ? という所がそこが憎らしくてもうどうにかなっちゃいそうで!
例え相手が七歳上だろうと、次にこんな態度を取ってくれたらただじゃおかねー、というのが少女の凶悪な感情が下した審判だった。Q.E.D.
「はぁ、はぁ…はぁっ」
「…それはおいといて部活やってんだけど入ってくれないかな? 部員が足りなくて廃部寸前なんだ」
「おいとけないよ!? というか勧誘にしてもいきなりすぎるよっ?!」
「ニヤリ、」
「えっ」
こんどはなんなのか、
「ほしくないか」
「えっ…っ」
「情報」
「え」
「師匠に関する、そ・れ」
「あ、あ、ぁ、あ、あ、あ、あ、ぁ…ー」
まるで重篤のヘロイン患者のように譫言めいた“あ”を半音階ずつビブラートさせたアリアに、とどめを刺すかのような言葉を少年は投げかける。
「今なら中身の生写真、総天然色フルカラーのプロマイド十二枚セットをなんとお値段…」
「即金で買いま「子供から金を取ろうとするなッ!!!!「あべぶ!!!!?」」えっ」
どげぎゃぁ! というものすごい音とともに、めのまえの少年が垂直方向につぶされたことに…まるでカエル型の空き缶潰し機のように…、まだ、アリアはわからなかった。
だけども、その空になった椅子の背後に、ちいさなグーを垂直に振り下ろした状態の…紺色の髪を、黄色いリボンで長いツインテールにまとめている、年長さん、おねえさん、美少女、が立っていたことは理解できた。
怒った顔であったが、いつもの、というような爽快感にみちている。
制服のディテールは、このカズマとおなじ、先輩のものである。
「よぉし、悪はついえた」
「おぉー」
「リーリンちゃ、きょふも、かわいひ。でふね、」
「ありがとうカズマ? だけどもあんたのそれはまいど毎度のォ、」
「ふぎゃぁん!」
「おべっか、でしょおおおおがあああああああ!!!!!!!!!!」
「ぶひいいいいいいいいいいいい!!!」
イスから転げ落ちたカズマに足蹴りの、攻撃のあめあられ…ラッシュを始めたこのリーリン先輩、とやら。
しかしそのやりようは、こんどは明らかにうそんこの、演技のものなのだとアリアは理解できる。一見のみてくれはすごいが、だって音がちがうのだ。
だけども、その表情は本気で、怒りの、あるいは悲しい…切実に、そうではない、そうじゃないことが残念だと思っている、その感情が裏付けの……ものだったから、そのことに、アリアは、ひいた。
「たでくうむしもすきずき、なんですねぇ」
「なによそれ、東洋のことわざぁ? あなた、博識なのね。おねえさんがほめてあげる! さて今日のストレス発散もカズマがさせてくれたし、さぁ、たちなさい」
「イェス、タカス、」
「マイロード、だとかレディ、だとか! …あぁもう、よっ、と、、」
「あふん」「えっ」
なおのこと、理解できないじょうきょうがアリアの目前で進行された。
リーリンは、それに腰掛けた状態が、まるでこの世で最高の高級な、ひとをだめにさせるいす、なのかのように…屈託の無い、笑顔を。
少年はというと、己の膝の上にたった今腰掛けたリーリンに空気イスの体勢で必死の形相となり、おおぉぉぉ…とかと唸りながら堪えている。
「どう? 人間椅子の気分は? そういえばあんたがあたしに読み聞かせしてくれたんだっけ…アクタガワリュウノスケだかの。ねぇ、しもべ! じゃなくて、箱の中のひとのきもちになれる?」
「ず…ずごぐ、ずごっぐ、ぎもぢい゛ぃ゛! フンガフンガすーはー」
「ゴラァ!」
「あびば!」
わざとらしくイヤっぽく、ちょうど顔の前にきていたリーリンの背中…背骨腰骨肩胛骨あたりをふがふがしたカズマへ、リーリンは…
足の甲をおもいっきり! 踏みつけた!
アゥ! っと膝のリーリンごと跳ねたカズマであったが、しかしカズマさんは人間椅子の姿勢を維持し続けていて、リーリン先輩もなおも座るのを継続しているのは、なぜだろう。
「くへぃ」
「ふへぇ…」
「リーリンちゃん、エルドアーズ女史、…今日どうだった?」
「たのしかった! …カズマは?」
「おれも、いちおう、」
「「………、」」
「「よし、」」
「あ、ぁのぉ…」
もはや、この二人は同カテゴリだ。
同根源同一同等品で共通のそれが、共通コンポーネントとしてファミリー化された家族兵器のそれなのだ。…ーアリアの確信だった。中身がおなじ、なのではない。夫婦の、所帯のにおいがする。おそらくこのふたり、うんこのにおいもおなじなのだろう…ひっついてる、もしくはひっつけ、ってことだよ!もぅ! ぷんすか!
“「…おじょぉさまぁぁあああ…ーどこにぃいいいい…」”
「あ、そういえば。エメリア、こっちーっ!」
“「ぁあぁ。はいはい…って、きゃ! 人間椅子! あこがれます!」
「後で存分にのるといいわ! …はともこく、みてこのこ」
「あらぁ、かわいい初年度生だことぉ…たべちゃいたい!」
「でしょぉ? あたしちゃんのかわいい後輩よ。ねっ、アリアちゃん?」
てめーら、どっかいけ! というまえに、小さなアリアを取り巻く状況は新たなステージへと移行した。
ええ、はぁ、ああ、…はともかく、なんだろう、この、メイド。
エメラルドの緑色の瞳とそのショートボブなのだが、あたまにはゴシックなボンネットがのっかっているし、首から下はメイド・ドレスなのだ。白と黒色、ヴァイスシュバルツ、ブシロード。いわゆるメイド服。つまり、ダークグレーと純白のツートンと所々に朱の差し色の…学校の制服ですらない!
どーにもふわふわとしていて、おそろしいほどに頼りがい、というのを感じない、あるいみふつうじゃないがふつうのおんなのこにもみえる。これは?
「紹介するわ? こちらがエメリア。あたしのメイドで、同級生もしてくれてるの」
「はじめましてです、おじょうさま!」
「えぇ、はぁ、ああああああ…」
「こちらのおじょうさまをよろしくおねがいいたします。そちらのおじょうさま。ふつつかなものですが…」
「「「ふつつかなものですが…」」」
「あぁああああああああああああ………!」
新キャラの登場に、韜晦を述べる間もなく、スムーズに滑っていく、状況。ついーっ、と、
唸りとも絶叫の断末魔の絶後ともつかない、悪霊悪魔の退散される声であえぎをあげながら、アリアはようやく思った。
なんだ、これ。
「「「あーーーっはつはっはっはっは!!!!!!!!!!!!!!」」」
「わらうな!」
らぶりーちゃあみぃなカタキヤク、か、いたずらが成功した悪童のように…たからかにわらいはじめたそれどもらを、アリアは叱咤もしていた。
なんだ、この、ぼけどもは!
虚数空間におちていくお母さんの気分というか、四次元空間の奈落におちていく感覚を、このときたしかにアリアは感じていた。
「むー!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
なので、かんにんあきまへんわぁ、というか、しんぼうたまりませんわぁ、つか、もはやリーサル・ウェポンをくりだすしかない、とアリアは判断して、
「むーぅ! むむむ〜っ!! いいつけちゃう!!! せんせー!」
「あぁ!? ごごご、ごるご13、ごるどらっく、ごるでぃおんはんまー、ひっさぁつ!はともかく…ごめんごめん、あたしたちもつい、地がでた、というか、ねえ?」
「うん、やっぱりこの娘、かわぃ…」
「そぉい!?」
「ぴくんっ?!」
「ぁあぁ、いまのはなにもきかなかったわ……だってだってだってだってさだってぇ、あたしも去年の入学の時、びっくらこいたのよ!!? この天と地の偉業と罪業深いエルドワーズのリーリンをさぁ! このカズマがさぁ!!? “求婚しているのではない、かわいい、ともうしとるだけだ”だとかっつう畜生道どっぷりの枢密院の生臭坊主どものせいによって“かわいい”の言葉の意味とブランドが曲屈して暴落しているこの国においてェ? まさかそんな、初対面のオンナノコに?! いきなりかわいい、っていうのは、いいいいいぃいいいいいくらカズマでも、ああああったしだけなのよっ!/////// このリーリンちゃん、に、だけ!!!!!!!! な、ん…?」
「このひと! さっき! わたしに! かわいい!って!」「ハァイ、(カービイ)」
「 」
ー…ほーほーほー、あたしいがいのおんなにも、いった、んだ、ふーん…は、は、は、は、…
…と、なんだかしゃれになっていない声色で、瞳孔もひらききって、目からは光もきえていて…効果覿面、だった。つか、そんなに、カズマを、なの?
んで次の瞬間、
「絶望した。エメリアとちゅーしよう。」
「あぁあお嬢様、いけません!? ででで、大王ででで、空母そそそ、龍ヶ嬢ななな、センパイはねね、でもでもぉ、おじょうさまがだいすきな“げぇむ”でよくある、おんなのこどうしの禁断のあいも…ぉぉぉおおおおおおおお!!!!!!!!! うぇへうぇへてぃひひ、はなぢが!でて! がくっ」
「あの、リーリンさん。たおれたのですけど、」
「いつものことよ、」
「はぁ」
今のはためいきであった。
「あぁ、ぜつぼうはふかいわ。もうあたしだめだ。とけてきえちゃおう…マーメイドのでんしょうみたいに」
「あきらめるのはまだはやいですよぅ! もっとくるしめ」
「はぅん! アリアちゃぁんは、ナイフのように! するどくて!! 失われた夢を求めて、か、ソルジャー・ブルーか、はともかく、きらいじゃないわ」
「えっ」
「いもうとにならない?」
「えっ…えっ?」
「身請け、するから! 御稚児さん! きゃあきゃあ!」
「えっ、…えぇーっ……」
だめだこのひと、というのはともかく、よきしないてんかい、っていうのは、あるものだね。
「あああぁなんかきぼうがでてきたわ。あたしってたんじゅんー。そういやカズマはなにして…ー」
“「指がきれいですね、レディ、」”
「あらぁ、カズマさんったら言葉がじょうず…! はぅん」
「ザッケンナ!」
「ぎゃんぎゃぎゃん!?」「ひゃぁん!?」
シテヤンヨ、かはともかく、こんどこそ本気のけたぐりをカズマの足に浴びせたのであった。
「う、ぅえぇええぇっ゛っ、なんであたしの親とか、かぞくとか、ともだちだとおもっていたたにんのひとたちとか、とか、カズマまでこーなんのよぅー……あたしってそんなにカモネギなのぉ……?……
うぅっ、…あっ、でも、騎士と聖剣、って関係になれば、どうにか!? なんとか、なっちゃうか!?
だ、だめよ、まだはやすぎて! はやすぎる!し! それはそれはつまりつまりぃ!! ええーっとそれはそのぉ、きゃー!
だけれど、エルドアーズ、だけど、……、、、…………、だ、だけど、…うん、だからっ! よしっ!
あ、あのね!? カズマ!」
「あはん?」
「あたし、聖剣として、どう思う!?」
「…んー」
「“絶対の勝利を約束する。絶対の勇気を約束する。絶対の栄光を約束する。絶対の希望を約束する。絶対の明日を、約束する”だから………あ、ああの、あのおののおのおのおの、ムリ、かも、だったら、だけど、だ、だけど、もしあんたに剣がいっしょー出来なかったりしたんなら、あたしが、…あ、ぁああんたの物になってやらくても「いいよ」…え」
「いいんだ」
「…ぇ」
…リーリン・エルドワーズが、その言葉の意味を理解するまで………
ー…問題を起こした生徒がいるのはどこだね!?…ー
「こっちですー」
「ぇ…げぇっ!? マジでせんせいたち押っ取り刀でかけつけてきてるわ!! ずらかるわよ、カズマ!」
「ふが!? リーマン! 紅い肩め、ええぃその手をはな…」
「誰が放すかこのカテゴリー性犯罪者ァ! …あっ、失礼しましたー」
カズマがリーリンに引っ張られていった事で、結局…その二人は今学期はじめも伴侶を得れる事がなかった。
「ちょうちょひらひらー、」
アリアはおててをふって、みおくった。
まあ、ともあれ、だった。
* * * * *
「………」
…少女の手に、入部希望票、というのが握られている。
入部希望、の四角、チェック・ボックス。
勇者部
「…」
部長、カズマ・スドウ。
その項目に、“〆”をした。