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「いやぁぁっ!」


 静枝は勢いよく体を起こした。

 そして、気付いた。


「…え?」


 そこは寝室だった。


「な、なに?」


 時計を見るとまだ夫と娘が家を出てすぐぐらいの時刻。


「ゆ、夢?」


 ふと気付く。

 自分が外出着である事を。

 気味が悪くなって、部屋を出る。

 リビングに出る。

 小ぎれいなテーブル。染み一つないキッチン。

 とても清潔だったが何か違うような気がする。


「ここで暮らしていたのよね?」


 まるで誰かに問いかけるように静枝は呟く。

 まるで生活臭がない。

 カタログの写真を見ているように人が暮らしている匂いがしない。

 胸が悪くなった。

 改めてリビングを見る。

 家族で見る為に買った大きなTV。ソファに囲まれた背の低いテーブルには雑誌とリモコンがキチンと行儀良く並んでいる。

 棚には数本のビデオテープと分厚い本が並んでる。

 静枝の息は少しずつあがっていった。

 あのビデオテープって何を撮ったっけ?

 あの本っていつ何のために買ったの?

 一歩後ずさった。


「なんで?」


 怖かった。

 自分が立っている場所が分からなかった。


「いやっ」


 階段を駆け上がる。

 二階へ。

 そして、上がってから気付いた。

 廊下にはドアが三つある。


「え?」


 静枝は絶望的な思いで迷ってしまった。

 どれが娘の部屋?


「そんな…」


 頭の中が痺れて真っ白になって、それでも彼女は一つ一つ部屋を空けていく。

 一つ目の部屋には何もなかった。

 ただ、四角いだけの部屋に窓があるだけ。


「ここじゃない…」


 なぜ何もおいていない部屋があるのか?

 そんな事を疑問に思う事すら今の静枝には出来なかった。

 二つ目の部屋も一つ目の部屋と同じだった。


「じゃ、こっちね…」


 掠れた声でそう言って三つ目の部屋のドアを開ける。

 何もなかった。

 一つ目も二つ目も、そして三つ目も何もない部屋だった。


「そう…」


 静枝はゆっくりと部屋を閉めた。

 娘の部屋はどこにもなかった。では娘の部屋は?

 今にも崩れそうになりながらも引き返す。

 リビングを通り抜け、寝室へ。

 開けたドアをそのままにベッドに体を投げ出す。


「それでも、ここにいるのが幸せだったのよ」


 静枝は言った。

 毎朝起きて、朝食の準備をする。

 本当ならその前にする事があったはずだ。

 まだ隣で寝ている夫にキスをする。

 それが日課だった。

 あの日までの。


「でも、今は出来ないの。だって目覚めたらあの人…いないもの」


 そして、部屋のすみに視線をやる。


「そうでしょ?」


 そこには少年が立っていた。今までがそうであったように目深に帽子

を被って。

 ただ、少年がその手に何かを持っている。

 それはまるで鞘に収まった日本刀のように見えた。

 だが、静枝はそれにもなんの感情もしめさない。

 …もうどうでもいい事だから。


「…これ以上、私から何を奪うの?」

「奪う訳じゃないよ。戻ってもらうだけだよ」

「同じよ。あそこには何も残ってないじゃない」


 そう、ただ悲しみだけしか残っていないから。

 だから、夢の中に閉じこもった。


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