竜王様と面の皮(イラスト付お礼小説)
城戸・ししゃも・一輝様よりリューさんのイラストを頂きました!
本当にありがとうございます!
掲載の許可が下りましたので、私の相変わらずな短編と一緒に投稿させて頂きました。
せっかくなので「絵」にあわせてた小説を……と思ったらナミちゃんがまたしても下品なこと言い出してリューさんと一緒に頭を抱えましたが、「多少下品でも問題ない!」と言う方は読んで頂けると幸いです!
「リューさんは、面の皮が厚いな!」
ある日突然、娘が私の顔を見るなりそんなことを言い出した。
「厚くてわるかったな……」
思わずすねた声を出すと、娘が「あれっ」と小首をかしげた。
その仕草をうっかり可愛いと思い込む自分の頭を壁に叩き付けたい衝動にかられていると、娘はもう一度、「あれ?」と言って私を見た。
「なんで落ち込むがっかり顔?」
「なぜもなにも、ツラの皮が厚いという言い回しはあまり良い意味で使わぬだろう!」
「違った? わたしリューさん褒めそやしたよ!」
どこかだとツッコむと、娘は突然私を腕を引いた。
「凄くツラの皮が厚いの拝見しました!」
腕を引かれ、連れて来られたのは城の西ホールに飾ってある私の姿見の前だった。
「これ見て思ったよ!リューさんツラの皮厚いね!」
これはたぶん、自分の顔を美化して飾るなと言っているのだろう。
だが、別にこれは私が飾らせているわけではない。
「この絵は家臣達が余の知らぬところで描かせたものだ! それに、美化されている自覚もある……」
「美化じゃない! リューさんはこんな顔だ!」
褒められているのにそんな気がしないのは何故だろうか……。やはりいい方だろうか……。
「このリューさんすごく面の皮が厚いぞ! 観察してるとにやけてうふふっておもう! 近頃は、これを見るのが気に入っている!」
「にやける……うふふ……?」
そこで私は、面の皮が厚いの本当の意味に薄々気付いた。
「もしや、面構えがよいといいたいのか?」
「それだね!面構えが厚くて、私この絵に惚れてます!」
近頃失いがちな自制心が、今の言葉でまたしても消えかかった。
けれどそれは何とか踏みとどまる。この後いらぬ言葉を発して、後悔するのは目に見えている。
「このリューさんの顔、とてつもなく好ましいよ! 一番好ましいのは寝顔だけど、この絵もいいねっ!」
「この国一の絵師が書いたものだからな」
「絵師凄いね! でもリューさんの面も凄いよ! 凄まじいよ!」
先ほどは全く褒められた気がしなかったのに、こうも重ねられると段々と頬が熱くなる。
「褒めても何も出ぬぞ……」
「欲しい物無いよ! 褒めたい欲求が増加傾向で溢れたから褒めただけ!」
それから娘は、私の顔をじっと見つめる。
「まあ、好みの面構えじゃないけどな!」
なぜそこで、上げて落とす……。
「あれ、なんでがっかり?」
「自覚せよ」
「なんで? 面構え褒めたよ」
「でも、好みではないのだろう」
「うん」
そこで何故か、こんどは娘ががっかりした顔をした。
「だってねたましくて嫉妬まみれで泥沼よ。わたしは面構えが平均点でありきたりだから」
「嫉妬?」
「綺麗な面構え、女性の最大欲求よ! なのに雄のリューさんが何故所有!?」
どうやら、この娘はあろう事か私の顔に嫉妬しているらしい。
あまり女々しいところのない娘だと思っていたが、意外と可愛らしい一面もあるものだ。
「お前はお前のままでおればよい」
「やだ。この顔平均で、むしろ下がり気味で不快なの」
「そんなことを言うな。余から見れば、美しく好感の持てる顔だ」
「褒めても何も献上しないよ」
「余も、褒めたい欲求が増加傾向で溢れただけだ」
「溢れたか」
「ああ」
「でも、美人に言われても嬉しいこと皆無だな」
言い切られ、正直ちょっと凹んだ。
「褒めるくらい許せ」
「不許可!」
「嘘ならともかく、事実を否定されるのはいやだ」
「不許可!」
そう言う娘の顔が少しだけ赤くなっているのに気付く。
途端に溢れた胸の内の喜びは、筆舌に尽くしがたい。この感情は、何と心地が良いものか。
「お前でも、余の言葉に動揺することがあるのか」
「動揺いりません」
「いる。少なくとも余にはいる」
だから、私は小娘の頬を指で撫でた。
「些細なことでいじけるでない。美しさを否定していては、お前がなりたい綺麗な面構えを失ってしまうぞ」
「……リューさん、それは女たらしの台詞だ」
「その敬称はひどい」
「たらし! うんこたらし!」
いきなり子供のような事を言われ、私はがっくりと肩を落とす。
「そんなことを言われたのははじめてだ」
「もっというか?」
「やめろ。余の威厳が失われたまま帰ってこなくなる」
「なら、褒めるのとうんこたらし禁止だ!」
「わかったからそれ以上言うな!」
「もう言うしない?」
「しない」
「今度一切?」
「ああ」
ただし、心の内では口にしてしまうかもしれないが……。
「じゃあ、許す」
ニッコリ笑うと、娘は私の顔を見上げた。
「褒めてよろしいのは私だけだからな! リューさんは不許可だぞ!」
娘の笑顔にまたしても自制心が飛び、私はうっかり「可愛い」と呟いてしまう。
「約束早急にやぶりすぎ!」
そして勿論、娘には怒られた。
おかげで機嫌を取るのにたいそう苦労したが、拗ねた娘の横顔を見るのは、なんだかとても心地よかった。