声を聞かせて
棺に入った宝物。遠く遠くにさようなら。今日から私はひとりだけ。
手と手を繋いだ温もりも、今日から遠くにさようなら。冷たい季節はまだ痛い。
お部屋に私はひとりだけ。静かで広いお部屋がひとつ。ふたりで遊んだあのおもちゃ。今日からひとり、私だけ。
おかたづけはだれがする?
からからからからテレビが笑う。隣できっと、声が聞こえる。
遠くで聞こえたあの声で、ぽろぽろぽろぽろ涙が落ちる。私は上手に笑えたよ。
窓から伸びる陽の光。眩しくって目を伏せた。いつものように手を伸ばす。きっとそこにはおねぼうさん。
夜が明けても夢を見て、私の夢は、消えてはくれない。
今日はひとりで街に出て、あてなく道をずんずん歩く。みんなは同じ顔をして、あてなく道を歩いてる。私の知らない方向へ、あてなく道を歩いてる。
疲れた脚は向きを変え、私はお家に帰りだす。まだまだ駄目だと目を伏せて、思い出詰まったあの家へ。
きっと今日からまたふたり。そんな言葉に惑わされ、今日もひとりで目をさます。虚ろに伸ばした手の先は、冷たいままで痛かった。
きっときっと、明日はふたり。そんな風にはもう思えない。
繋がる銀の鎖には、滴る水音露揺られ。零れ伝うその色は、暗く淀んだ海の底。潮騒聞こえる森の中。最期に聞こえた、君の声。