第6話 「異世界の村で」
「村長様からお達しだ。『貴族の娘以外だったら生贄にしろ』だそうだ」
後方から迫ってくる村人の数、約十。ただし先ほどまで、あと数人いた気もするので、途中で脱落したのか、それとも別働隊として動いているのか。
俺としては、圧倒的に後者である方がうれしいのだが。
そんなことを考えながら、かれこれ十分近く逃亡を続けている。
俺はもともと運動神経が悪い方ではない。かといっていい方でもないわけなのだが、なぜか、十分間全力疾走しても疲れる気配がない。
後ろからはいまだに、俺に向かって叫び続けている。
「まちやがれ」
「いいかげん止まりやがれ」
「今なら生贄だけで勘弁してやる」
もちろん俺はそんな言葉に説得されて止まるなんてことは、微塵もない。
それどころか叫ぶことによって、無駄に体力を消費してくれるのでありがたいことこの上ない。
・・・・・・あと、生贄になったら勘弁も何もなくなる気がしてならないのですが。
さてと、何人がついてこられるかな?と思い、後ろを振り向いた。
それが間違いだった。
場所は、少しなだらかな斜面。
地面は、少し湿っている。
足元は、少し濡れている雑草。
結果、俺は本日二度目の落下をする羽目になった。
「今の内に捕まえろ」
「足元には気をつけろよ。こいつの手足でも縛って、今日の内に生贄にするんだからな」
「女か、悪龍を鎮める条件にあってるな。しかしなんだこの服装は」
「王都の貴族たちの服とも違うな」
「今は、こいつの服は気にするな。とりあえず、村長のところに連れていくぞ」
もちろん、村人たちがこんな状況の俺に同情することなどなく、俺の元へと近づいてきた。
こんなところで捕まるわけにもいかないので、俺は二度の転落で傷ついた体を何とか動かして逃亡をはかった。
だが転んだ拍子に足をひねったのか、右の足首のあたりを痛めてしまった。
こんな状況じゃ逃げることもままならず、そこから一分もたたないうちに俺は村人に捕まった。
手足を縛られた状態で俺は、村長の家に連れてかれた。
村長の家は、あの一つだけ目立つ大きさの家だった。
「さて、おまえは何者だ?」
「・・・・・・」
村長が最初に聞いてきたのは、そんなことだった。
もちろんその質問に答えてもどうこうなる訳でもないので、俺は黙っていた。
「質問が悪かったな。おまえはいったい何しにこの村に来た」
「・・・・・・」
村長は俺が答えられないのをわかって聞いているのか、さっきの質問同様俺の答えられない質問をしてきた。
「まあ良い。この者を、『導きの湖』に連れて行け」
村長の命を受けた村人たちによって、俺は湖のほとりまで連れてこられた。
湖のほとりには、他のところよりも少し高い位置になっているところがあり、今俺たち保そこにいる。
目の前では、村長の娘が悪龍に対して舞を奉納している。
何でも最初の生贄が村長の娘だったらしいのだが、その時彼女が舞を踊ると姿部落続いていた悪天候がおさまったらしい。
・・・・・・つか、悪龍ってただの自然災害のことかよ。
そんなこんなで、俺が生贄にささげられる順番がやってきた。
来てほしかった訳ではないのだが。
待機場所に娘が帰ってくると村長が俺のところに来て俺に、この後の俺の動きを教えた。
「あそこに、ナイフを持った人がいるだろ。あそこまで行ってほどいてもらえ」
待機場所でほどかれることを期待していたので、そのまま行けと言われた時はどうしようかと悩んだ。
が、いざとなったら俺のロープをほどく人を突き落としてでも逃げるか、俺はそう考えていた。
しかし現実はそう甘くはなかった。
後ろから、万が一のことを考えて、もう一人村人がやってきたのだ。
崖のようになっているところについてから、俺を拘束していたロープが解かれ、そのままつき落とされた。
地面に落下する時間が引き延ばされる中で俺は、阿倍たちと過ごした学校生活を思い出していた。
せめてもう一度だけあいつらに会えたら、そう思った。
刹那、視界が急に変り、脳裏に聞いたことのない声が直接響いてきた。
「これより~、こんかいのげ~むの~せつめいを~はじめま~す~」
と。
今回は、召喚地点付近で野村での2回目です。
次回からやっと、章のタイトルとなっているルール説明を行いたいと思います。
ですがその前に、ある人物との再会が・・・・・・
いつものように、誤字脱字の報告お待ちしております。
・・・・・・実は今回と前回は急に書き足したお話。




