第37話「醜悪と信頼と」
辺りには、静寂な雰囲気が漂い始めた。
この画に存在しているのは、五つの人影。
そのうちの一人は、鳥かごに囚われたまま微動だにしない。それを他の四人が取り囲んでいる。
「……いくら呼びかけても、返事がないな…………」
重苦しい雰囲気の中、まず初めに口を開いたのは阿倍だった。
「やっぱり、それだけショックが大きかったんだろ、きっと。依頼しに来た時のあのあわてようだけでも、相当家族を助けたいと思う気持ちが伝わってきたからな」
それに成実が続ける。
「うん。自分の名前を名乗りことさえ忘れてたもんね……」
そこからさらに何度か呼びかけてみる。
しかし、その壊れてしまったかのような人物――フラーモはやはり、それ自体が生きているのかどうか疑問に思うほど動かなかった。
空に、鳥籠が開かないせいで、直接揺さぶることなども出来ずに、ただ時間ばかりが過ぎて行った。
そんなとき、ふと、何者かの気配を感じた。
あわてて振り返る。
「おやおや、気配を殺しながら入ってきたつもりだったんですが、気付かれてしまったようですね」
そこには、一人の男性がいた。
その男のいで立ちは、明らかにこの場の雰囲気に似合っていないようなものだった。中世ヨーロッパの軍人なんかが着ていてもおかしくはないようなデザインな服だと、俺は思った。
帽子の横からは銀色の髪がのぞいていて、脇にはレイピアが数本差してある。
そして、まったくそんなものに興味のない俺でもわかるくらいにそれらは一級品の輝きをまとっていた。
それにしても、この顔どこかで見たことのあるような気がする。
そう思ったが、一体どこで見たのかが思い出せない。この世界に来てからだと思うから、こんなわかりやすそうな人物なんかすぐに思い出せそうなものなのに……。
「それにしても、皆さんはこんなところで一体何をしているんですかね」
と、そのとき。その男が言葉を発した。
「いえ、ちょっと道に迷ってしまいまして」
阿倍が白々しい言い訳を発動する。
そんなんで解決できるような問題ではない気もするが、意外にも、その一言でその人物は納得してくれたようだった。
「なるほどな……。だったら今私が来た方向に向かって進むといい。そうスレが、この城から出ることができるだろう」
そう言って、男性は俺たちの横を通り過ぎて行った。
「なんだったんだ、あの人?」
阿倍が、俺たちにだけ聞こえる声でそう訊いてきた。
「わからない。ただ、こんなところにいるってことは、無関係な人でない可能性が高くないか?」
俺もそれにならって、声をひそめてそう言った。
「ええ。私もそう思うんだけど……だったらなんで、フラーモのことを無視して進んでいったんだろう? 普通あれだけ大きな鳥籠なら、じっくりとは、見なくとも、ちらっとは見ると思うんだけど……」
そう風音さんは言った。
風音さんの言うとおり、さきほどの男性には、不審な点が多い。
しかし、さきほど男の進んでいった方向を見ると、一切の陣営はなく、もうすでに男がどこかへ行ったことを示していた。
「さてと、今度は、鳥籠はどうやって開けるか考えるとするか」
阿倍は、フラーモをとらえているその物体に目を向けた。
「見た感じだと、解錠するために必要な鍵はないようだな。というか、そもそも鍵なんて初めから使うことを想定されていないように見えるな」
阿倍は冷静に分析している。それからしばらくして、一つの結論に至ったのか、阿倍は自身の得物を鳥籠へ向けた。
「一つ一つの金属部分の強度も、思ったほど強くはなさそうだ。これなら俺の高できでも……」
「いけそうだ、そう言いたいんですか?」
が、実際に向けた物を使うことはなかった。突如後ろから、そういう声が聞こえたからだ。
「まったく、人が折角見逃してあげようと思ったのに、助けようなんてするから……。無駄に命を失うことになるんですよ?」
「っ!?」
振り向く。
今度は、さきほど以上の衝撃が走った。
「まったく、この私の城で何をしているかと思えば、窃盗ですか? 『それ』を盗まれるとこちらが困るんですよ。即位式のときに結構重要な働きをしてくれますからね?」
さきほど通り過ぎて行ったはずの男が、そこに立っていたからだ。
そして、俺はその男の言葉で、あることを思い出した。
「そうか、どこかで見たことあると思ったら、『月刊:アッシュフォード』の即位式関連の号外で見たんだ」
そう、その顔は件のフェンギルト・フランクリン・アッシュフォード新国王とまったく同一のものだった。
「それにしても、いやはや。強引にあの置手紙を残させたのにまさか皆さんお揃いで救出に黒とは思ってもいませんでしたよ。まあそのおかげで、あのめんどくさいサフランを始末することができたからまあ、良しとでもしますか」
そう言いながら、フェンギルドはこちらに一丁の拳銃を突き出してくる。
否、それの銃身はふさがっていて、独特の紋が記されている、おそらくは、封装の類だろう。
「さてと、私はとても優しいんで死ぬ順番はあなた方に自由に決めさせてあげますよ。仲間の死にざまを見たくないんだったら、早めに死ぬことをお勧めしておきますよ?」
フェンギルドは、まるでおもちゃで遊んでいるかのようにその銃をくる黒と回している。その途中、おそらくわざとだろうが、壁に向かって暴発させた。
「おっと、危ない危ない。折角自由に死に順を選ばせてあげてるのに間違って殺していまうところでしたね」
発生した魔法が衝突し、溶解したけベに目を向けながら、フェンギルドはそう言った。
「お? そろそろいい頃合いですかね? 誰が初めに命を失うか決めましたか?」
笑顔で銃をこちらに向けながら、フェンギルドは楽しそうに言う。
まるで、人を殺すのが趣味みたいな感じがする。
「ん? まだ決まってなかったんですか? 仕方ないですね……3分あげましょう。その間に素晴らしいお話でも聴かせてあげるので、さっさと決めてくださいね?」
そう言ってフェンギルドは話し始めた。
「さっきそこの道具の家族を殺したときはほんとに醜いものでしたね? 『自分はまだ死にたくない』『私が最後まで生き残るべきなのよ』『俺は次の王になるべき存在だぞ』……。そんなふざけたことを抜かしながら、生き残ろうとしていた。あれが壊れたのには、自分の家族が死んだところを見せられたってこともあるんでしょうが、それよりも自分の家族に失望している部分も多いんでしょうね? さてと……」
フェンギルドのそんな言葉を聞いているうちに、俺は自分の心の中に一つの感情が芽生えたのを自覚することができた。
「誰から死ぬか、決まりましたか?」
フェンギルドが言った。
「ああ、決まったとも」
阿倍、成実、風音さんの息を飲む音が聞こえる。
当然だ。何も言わずに勝手に言葉を発したからだ。
「おやおや、他の皆さんは突然の出来事についていけてないようですが、本当に話し合いましたか? 私には、さきほどの連中と同じく、自分が生き残りたいがために他の3人を生贄にささげようとしているように見えるんですがね?」
こいつの話していることは、俺を誘導しようとしている罠だ。
そう自分に言い聞かせて、さらに言葉を紡ぐ。
「俺たちに話し合いなんか必要ない。俺はみんなを信じているし、みんなは俺を信じていてくれる。そんな俺たちだからこそ、今俺が抱いていることは、そんな醜悪なものじゃない。もっと、別の…………強い、想いだ」
どうも、期末考査が手ぐすねを引いてすぐそこまで迫ってきている、マチャピンです。
さて、今回のお話は本来ここで終わる予定ではありませんでした。
が、書いてるうちに量が増え、今この後書きを書いている時間が23:56という事態なので、ここで区切らせていただく事にしました。
次週で第3章終了。その後一本別視点で書いたら、本格的にあっちを書き始める予定です。
それでは、このあたりで筆を置かせていただきます。
最後に、もはやわけのわからないものを
世界の金銀誤字はこの私。怪盗Foolがいただく事にしよう。
できればそのまま正しい字に直していってください。