第34話「第二、三の刺客」
今度は周囲を警戒しながら通路を進んでゆく。
とくに何事も無く一同は進んでいき、しばらくすると、開けた場所に出た。
「ここは一体?」
阿倍がぽつりと言った。
周囲を見渡すと、なにかの競技場のような作りをしており、ギャラリー席などが見える。
しかし、そこには観客はいなかった。
……二人以外は。
「よくぞ我ら四元帥の一角ショワンウーを破りここまで来たな」
「しかし、やつは我らの中では一番の小物。ただ単にガードが堅いだけの男だからな」
観客席から飛び降り着地しながらその二人は口々に言った。
一方は赤。もう一方は白という格好のその二人の女性は、やはり敵のようだった。
「まずは此方から行くぞ<火炎魔弾>」
赤い女性の方から、炎の球がいくつも飛んでくる。それは、真正面から飛んでくるものもあれば、複雑な軌道を描きながらというものもある。
しかしそれらは、俺らをめがけて飛んでくるという共通の特徴を持っていた。
「待ってて、いま消火するから。<清水障壁>」
俺たちの周りを、向こうが透けるほどきれいな水が包む。そこに、無数の炎弾が衝突するが、いずれも障壁の一部を蒸発させながら消滅するだけだった。
「へえ。なかなか堅い魔力障壁じゃん。でもね、アタイらにはそれだけじゃ勝てないよ。それじゃあ、アレを使おうか」
白の女性が、赤の女性にそういう。すると、赤の女性は頷いた。
「「<火災旋風>」」
赤い女性が、大量の炎を起こす。
白い助祭が、強烈な風を起こす。
するとどうなるか? 答えは簡単。
ゴッ、と激しい音が鳴り、炎の渦が発生する。それは、こちらの方向へと移動している。
渦が衝突する。さきほどの攻撃とは打って変わって、全く弱まる気配の見えないそれは、成実の<清水障壁>を少しずつ。だが、確実に削って行く。
「どうしよう。このままじゃ……」
成実が、不安を現したかのような声で言った。
「魔法を使っている本人が、そんなことを言うな。魔法はイメージによって組み合わせたものだ。そんな負のイメージは魔法にいい結果はもたらさない」
阿倍の指摘通り、張った障壁の一瞬あたりの蒸発量はさっきより増加していた。おそらく、負のイメージによって、障壁の強度が下がっているのだろう。
「大丈夫。まだ勝機はある。成実ちゃん。この障壁って、内側から魔法は使える?」
風音さんがそう訊く。成実は、庫君とうなずいた。
「そう。だったら、草木をなびかす風の精霊よ。その力をここへ示せ。<フェアリーズ・バインド>」
さきほどの戦いでの使用した魔法が、城も女性に命中する。彼女は体勢を崩し、その場に片膝をついてなんとか倒れるのをこらえた。
その際に、発生していた風は弱まり、炎の渦はその力を保てなくなった。
「さてと、今のうちに」
成実がそう言って、魔法を発動しようとした。
そのとき。
「なかなかやるようじゃん。でもね、魔法耐性強化で軽減できるようじゃ、とてもじゃないけど実戦では使えないよ?」
片膝をついていた白い女性が立ち上る。
「そちらの力を我々は甘く見たいたようだな。ならば、本気で答えるしかあるまい」
そう言って、二人の女性は口々に詠唱を開始する。
「大地を焦がす灼熱の炎よ。その力でその者達に裁きを与えよ<クリムゾン……」
「世界を巡る一陣の風よ。その力でこの者らに天からの断罪を<スカイ……」
「「……ジャッジメント!>」」
炎と風。二つの巨大な剣が空中に現れ、俺たちめがけて振り下ろされる。
それを見ながら、俺はまたしても、聞いたことがない、されど不思議なことに知っている言葉が脳裏をよぎった。
「我が『統括者』の名において命ず。冷気を司りしものよ、ここに顕現しその武器をとれ。リッカっ!」
そう叫ぶと、何処からともなく「かしこまりました」という声が聞こえた気がした。
直後、冷やかな風が此方へと流れ込んだ。
そして……。
暫くしても剣は振り下ろされなかった。
目の前には、グングニルを横に持ち、剣を防いでいるリッカの姿。槍と剣の接触面は氷に包まれていて、そこから徐々に、術者の方に伸びている。
と言うよりも、すでに本人の手首辺りまでは凍っている。
「……此方の負けですね。どうせ、此方がなにか発動しようとした瞬間に、全身が氷で包まれるのは目に見えてますし」
赤の女性は言った。それに続き、白の女性が言葉を放つ。
「そうだな。どうせ私らはこの敗北が原因で、ここを追われるだろう。もし、お前たちの行く先でまたあったなら、そのときは……」
が、その言葉は、最後まで言うことはできなかった。
「さてと、役立たずには眠っていただいて、再会を分かち合おうじゃないですか?」
元依頼人で、ともに旅した仲間。そして倒すべき敵。グレアムさんがそこにいた。
どうも、マチャピンです。
ついに次回VSグレアム戦。
その前の戦いを楽しんでくれたら幸いです。
それではいつものを……
実は俺、故郷に誤字を約束した女がいてな……
なんだろう、この変な状況。




