第32話「城へ」
王都の北側は切り立った崖になっている。
そのため防衛の観点からか、王城は王都の最も北に位置する。
そこまでに至る道のりの中で、俺たちはとある噂を耳にした。
曰く、「フェンギルド新国王の即位式は予定を前倒しして今日行われるらしい」と。
どうやらそれは事実らしく、町中の至る所で、露店などの活気が前日にも増して高まっている。
「まずい展開になったな。今更即位式が中止になった場合、国民は不信に抱くだろう。しかし、そうしないとフラーモが……」
阿倍がそうつぶやいた。やはり、暫く共に行動してきた人物に裏切られ、同じく苦楽を共にした仲間をさらわれたのが堪えたのだろうか。
「大丈夫、なんてあいまいな言葉でごまかさないけど、きっとその場で殺さなカットことにはきっと重大な意味があると思う。だから……」
風音さんがそう返す。
目の前に城の正門が見えてくる。
「私たちはやれることをやる!」
風音さんのその言葉とほぼ同時、即位式のためか一般に開放されたその城の中に俺たちは入った。
長い伝統を持つ王城の古く狭い廊下にはただロウソクの炎だけが、薄く闇を照らしている。
ゆらゆらと揺れるそれや、少しずつ減ってゆく蝋。
それらは、ここに囚われているのであろう、フラーモの家族の命が不安定な状況であることを暗に示しているのかもしれない。
そんな闇の中、俺、男の姿になっている成実、阿倍、風音さんの四人は、何処にいるかわからないフラーモを探すために走る。
「しっかし、所詮俺たちは手のひらで踊ってただけということかよ」
ここに来ると、改めて内面から悔しさ等の感情がこみあげてくる。
「君の言いたいこともわかる。だが残念ながら、そういう現実なんだよ、この世界は。安心しろ、俺は俺の彼女の命は、俺の命に代えてでも守ってみせる」
阿倍は、「追憶の館」で受け取ったその装備品を装備しながら答えた。それはまるで某勇者の装備みたいな恰好だが、以外にもこの場の雰囲気にマッチしていた。どこかで見たことのある形をした剣のような形をした剣を握り歩いていく様は、さながら魔王との決戦へと向かうように見えなくもない。
ただ、その装備に付加された数々のスキルが、それを木っ端みじんに破壊していた。
「確かに、そうなんだよな。ん? 今俺のこと彼女って言ったのか? 誰がお前の彼女だ。だれが!」
「誰も君のことだとは、一言も言っていないんだけどね。それとも、ついに俺のこと彼氏だと認めてくれたのかな?」
「ち、違う。俺はそんなこと一度も・・・・・・思ってなんか・・・・・・ない・・・・・・はず」
本当にそんな感情を抱いたことはこれまで一切ない。
だた単に、阿倍の装備が辺りに(と言うか主に俺だけに)『魅了魔法』を撒き散らしているのが原因なのだ。
「おやおや、そんなに顔を赤くしちゃって。そんなに恥ずかしがらなくてもいいんだよ。ま、そういう君もかわいいけどね」
そしてさらに、様々なステータスをアップさせる性質の成果、自身に対する自信などが上昇しあの秋津に匹敵するほどのナルシストになっている。
「っ!?」
「・・・・・・二人とも。夫婦漫才ならよそでやって。ここは仮にも敵地だよ。気を抜いたら死ぬかもしれないんだよ。わかってる? ちゃんと考えて行動してね」
流石に、緊張感の欠片も無いこのやり取りを風音さんはやめるように言った。
いくら阿倍の暴走だからと言って、その当事者の一人としては形式上謝っておいたほうがいいと判断し、素直に謝罪したのだが、
「すみませんでした」
「いやぁ~、そう言われてもマイハ二―が素直になれないのが悪いんですよ」
いまだに阿倍は止まらなかった。
「誰がマイハ二―だ。誰が」
「おや、嫉妬しているのかい。安心してくれよ、僕のハニーはいつも君だけだからね」
「・・・・・・だから、それをやめてって言っているのがわからないのかな?」
それが癇に障ったのだろう。阿倍の前を歩いていた風音さんは振り向きざまに、近距離から軽く風を起こした。その一撃で、勇者は壁際まで吹き飛んで行き、そこで止まった。
風音さんは、乱れた髪を直しながら、俺に阿倍の装備をはずすように指示をした。
「とりあえず、変態は気絶させといたよ。あと、その装備早く外した方がいいと思うよ」
「わかった」
俺は、ここに来てまだ一度も話していない成実に協力を要請する。
「この装備、はずすから手伝って」
「はいはい、わかったよ。姉貴に逆らうと・・・・・・いえ、なんでもありません」
慣れてきて、更に楽しみ始めている成実はそういうと、握っていた双剣の内、右手の剣をもう一方に打ち付けた。
その一見意味のない行動によって、双剣は1つのコインになった。
成実は動きやすそうな黒のジャージからのぞく首にかかった、先に一切の彫刻がほどこされていないチョーカーにそこにコインをあてた。するつ、コインは手品のようにすり抜け、何もなかったチョーカーは本来の姿に戻った。
成実が、俺に言われた通り気絶している阿倍に近づいたその時、
「いいけげんにしてくれませんか? こちらは忙しいのですよ。こんなところで暴れてもらっては困ります」
先ほどまで誰もいなかった空間から突如、男の声がした。
初めから交渉する気がないのか、その男はいきなり成実に斬りかかろうとする。
俺はとっさに自身にかけて魔法を発動した。
「さぁ、お仕事と行きますか。<加速魔法>っ」
対象の移動速度を増強させるだけの魔法。しかし、その効果は単純ゆえに強力だ。
そう言って、俺は男に殴りかかった。
どうも、ご無沙汰しているマチャピンです。
今回の話、実はかなり前から大まかなことだけは決まっていました。
なので、ほら、ずっと前から公開していたじゃないですか……
さて、今回も恒例のあれで……
この中に誤字があるかもしれないのに一緒の部屋なんかに居られるか! 俺は自分の部屋に戻るぞ!
----今回は方向性を変えて……