第31話「残された物と暴かれたもの」
すがすがしいほど晴れ渡った次の日の朝、俺たちはとある事実に直面した。
俺たちの泊まっている宿から、サフランさんとフラーモの姿が消えていた。
第一発見者は俺と風音さん。なかなか起きてこないから不審に思ったグレアムさんに言われて行ってみると、ドアにかぎは掛かってなく、中はもぬけの殻となっていた。
そこには、二人の荷物が整理された状態で片付けられていたが、唯一、一枚のメモがテーブルの上に乗せられていた。
『やることができました。迷惑はあまりかけたくはないので私だけで行きます。すぐに帰ってくるので、みんなは即位式を楽しんでてください』
そう書かれた、一枚の紙が。
それを見て俺たちは、昨晩の出来事を思い出した。
精霊たちが出て行って、早三十分の時が経過していた。
俺たちは特にやることも無かったので、適当に何の意味も無い些細な会話を楽しんでいた。といっても、風音さんと成実の会話にたまに相槌を打つ程度ではあったが。
暫くそんな時間を過ごしていると、不意に部屋の扉がノックされた。
ドアに一番近いという理由の元、俺がノックした人物の確認と、対応をすることになった。
「へいへい、今開けますから」
そう言って、ドアを開けると、そこには阿倍が立っていた。
いつものふざけたというか、バカっぽいとか、そんな感じの雰囲気ではなくて、いつになく真剣な雰囲気を身にまとって。
「よう、友紀か。ちょうど良かった。ちょっとこれを見てくれないか」
そう言って、阿倍は一冊の薄っぺらい冊子をこちらへと差し出してくる。
そのときの阿倍の口調は普段と何ら変わりなかった。しかしそこに立っているのは、俺の知らない、しかし、よく知っている阿倍圭一だった。
阿倍が差し出したそれに視線を落とす。
まず間にとまったのは『月刊:アッシュフォード』といったタイトルと、そのわきに書かれた号外という文字だった。
「何だ、これ?」
俺は思わず、そうつぶやいた。
「これは、さっき俺が町に繰り出したときに40Asで購入してきたものだ」
そんな価格情報がほしかったわけではないのだが、考えてみると、これは40Asといった金額を消費してまで俺に読ませようとしたものだということだ。
阿倍からこれを受けとる。
そして、改めて中を開く。
そこに書いてあったのは、即位式の日程と大まかな式の流れ、その他のイベント情報など、多岐にわたっていた。
暫く読んでいても特にこれといって、ここまで阿倍を真剣にさせている何かが見当たらない。
ページをめくる。
そこに書いて会ったのは、多少簡略されたアッシュフォードの地図と、王都周辺マップだった。
各地からのアクセスなど、細かな情報が記載されていて、これからのたびに少しは役に立ちそうだった。しかし、はたして阿倍がこんな情報だけでここまで真剣になるだろうか?
考えるのがめんどくさくなったので、止めにして、阿倍にどのページの情報なのかときいてみた。阿倍は14ページと答えたので、すぐさまそのページを開く。
たった16ページしか存在しない冊子の後ろのほうに書かれた情報。案の定、そこには噂の掲示板と書かれていて、しょうもない情報から生活の知恵など様々な情報が綴られていた。
しかし、その中に、目的の情報もかかれていた。
曰く、
『先日国王らを拉致ないし殺害した事件についての速報。フラーモ・アッシュフォード第一王女は、奇跡的にその場からの離脱に成功した模様です。なお、この情報については信憑性の薄い情報でありましたが、昨日フェンギルト・フランクリン・アッシュフォード新国王がほぼ間違いない情報だと発表いたしました。なお、王女はこの即位式に親族として参加する可能性が高く、数人の護衛とともに王都に入られたそうです』
と。
「なあ、友紀。お前はどう思うよ」
こちらが読み終えるのを待ち、阿倍がそう問いかけて来た。
正直な感想は、こんな重大な情報をそうやすやすと載せてしまってよいのだろうかという、そんな疑問だった。
そう阿倍に伝えると、阿倍は深くうなずき、俺も同感だといった。
「とりあえず、これはお前に貸す。成実や、風音さんと対策とか相談しといてくれ。あ、あと、決まったら悪いが教えに来てくれ」
そう言って、阿倍は踵を返した。
二人の元に戻ると、話の内容が聞こえていたのだろうか、一体何の話だったの? といった質問が飛んできた。
二人にさっきの会話の詳細をありのままに伝え、阿倍から借りた冊子を見せると、風音さんは深く息を吐いてこう言った。
「とりあえずは、フラーモちゃんとサフランさんと呼んでこないと話が進まない気がするわね」
その後、いったん部屋を退室し、フラーモとサフランさんと交えての対策会議が始まった。
会議は、思いのほか時間がかかり、気がついたときにはもう日付が変わっていた。その頃にはあらかたの意見は出尽くし、フラーモとサフランさんは必要な時以外は部屋から出ず、また、なるべくなら、宿からも出ないといったことで意見がまとまっていたので、そのときはお開きとなったのだった。
あのときに、もっと考慮すべきだったのである。
なぜならあの時、フラーモはこう言っていたのだから。
「もし万が一、私じゃなきゃ解決できない事態が起こったら、そのとき私は何もかもを犠牲にしてそこに行くよ。だって、私聞いたから。『くれぐれも殺すなよ。あのお方の命令だ。それに、腐っても王族だ。新体制が成立した時のいい見せしめにもなるだろう』って。だったらまだ、みんな生きてるかも知れないんだから」
そう、力強く。
今から追いかけても遅いだろうと思いながらも、宿を跳び出す。
どっちだ? 人気のない裏通りで視線を左右に動かしていると、「こっちだ」と、阿倍の声が聞こえた。
殆ど反射的にそちらへと走りだす。
すぐさま阿倍に追い付き、何故こっちなのかを聞いてみると、阿倍は一瞬ためらったものの、一枚の紙をこちらへと押しつけていた。
それは、さきほどフラーモの部屋に置かれていたものと同じ紙だった。しかし、違うところが一点。この紙には、さきほどまで書かれていなかった文字が刻まれていた。
そこに書いてあったことを、俺は信じたくはなかった。
「この間俺とサフランさんで相談して決めておいたんだ。有事の際は特定のキーワードに反応して文字が浮かび上がってくる魔法をかけてメッセージを残そうって。必要な魔力も微々たるものだし、仮に気付かれたとしても、俺とサフランさんしか知らないんだから、解読は不可能さ。だから、そこに書かれている情報はほぼ真実だろうね」
しかし、阿倍の一言は俺のそんな些細な希望をあっさりと打ち砕いてくれた。
その紙には、こう書かれていた。
『お嬢様を連れ去った犯人はグレアムさんです。大方、お嬢様にこんなものを書かせて、あんな噂を振りまいておけば誰もこの失踪に疑問を抱かない。そういう魂胆だったのでしょう。私はこれから、お嬢様にお守り代わりに持たせていた精霊神石の魔力の途切れた場所である王城へと向かいます。もし、これに気がついたのなら、ご迷惑をおかけしますが皆さまも……』
どうも、新潟、長野方面へと旅をしてきたマチャピンです。
さて、このお話を持って物語が動き出したわけですが、次回以降はどうなるかわかりません。というのも、この物語自体結末で毛をイメージして作ったものなので、この章の終わりは考えていても、そこへ至るまでのプロセスがすかすかの状態なのです。
もっとも、こうすること自体は、彼が登場した時から決めていたことなのですがね。
さて、今回も恒例となった、あれで〆させていただきます。
俺、この戦いが終わったら誤字修正するんだ
----そういえば使ってなかったので…………