第27話「裏通り」
「さてと、これからどうしましょうか?」
ポールさんたちの背中が見えなくなると途端にグレアムさんがそうつぶやいた。
「どうするも何も、こちらはそちらの依頼に従って行動するわけですので、そちらが依頼を変更するのであればこちらのそれに応じますよ」
相変わらず阿倍がグレアムさんと契約についての会話を始める。毎度のことながら、こいつは将来楽に生活していけるんじゃないかと思う。主に、その勧誘とか章段とかで怪しい壺をかわせたりして……。
まあ、こいつがそんなことするわけないよな。うん。きっとそうに決まってる。
「あはははははは」
「? お姉ちゃんどうしたの、いきなり笑いだして?」
「え? ああ、ちょっとな」
どうやらいつの間にか声に出ていたらしいい。
「別に何でもない。気にしないでくれ」
「なんか、今絶対に変なこと考えてたろ。主に、こいつ将来詐欺師になりそうだとか」
「いや、か、考えてるわけないだろ」
なんでこいつ、俺の思考がわかりやがったんだ。
「まあ、そんなことはどうだっていい。で、グレアムさん。これからどうするんですか?」
とりあえず、阿倍からの追撃の危機は去ったので、良しとしよう。
で、なんだって?
「はい、とりあえず即位式が終わってしばらくするまでは、王都に滞在しようかと思います。この機を逃すわけにもいきませんしね」
「でもいいんですか? 確か、精霊石の鉱脈がどうのこうのって?」
成実の疑問ももっともだ。そもそも俺たちはそこに行くために護衛として雇われているんだからな。
「それなら心配はいりません。6日かかるところを2日に短縮すればいいだけの話ですから。もっともそれでも1日ほどの遅れが生じるんですけどね」
はい? この人今なんて言いました?
「え? 今なんと?」
「もう一度お願いします」
「嘘ですよね?」
「おかしいな。今不可能なことが聞こえた気が」
「冗談はよしてくださいよ」
みな口々にグレアムさんに聞き返している。
ちなみに上から風音さん、サフランさん、阿倍、フラーモ、成実の順に言った。
それらを一瞥し、もう一度グレアムさんは言い放った。
「冗談でもなんでもありませんよ。実際にそうやってこれまで生きてきましたから」
「ちなみに、報酬のほうは?」
この中で一番メンタルが強いのか、はたまた商魂たくましいのかは定かではないが、一番早く復活した阿倍がグレアムさんにそう訊いた。
「もちろん、はずませてもらいますよ。そうですね、一人当たり100As金貨14枚でいかがでしょうか?」
「もうひとこえ」
「15」
そこで阿倍が指を立てた。右手を5本と左手を3本。
「18ですか。17では、ダメですかね」
「わかりました。それでいいです」
阿倍とグレアムさんがほぼ同時に右手を前に差し出す。ここ最近のこの二人のやり取りってこれ以外に記憶にないんだが。
「では、ここに滞在するに当たって、今日からの宿をとりましょうか」
グレアムさんのその発言をきっかけに王都を歩くこと早2時間。一向に宿が見つからない。
いや、厳密に言うとないわけではないのだ。ただ、いかにも急遽用意しましたと言わんばかりの雑魚寝スペースが一泊30Asという高価格(阿倍曰く1As=100円と思えばいいとのこと)なため断念せざるを負えなかった。
そのまま当てもなくぞろぞろと裏通りを歩いていると怪しい佇まいの店が目見とまった。
現地の言葉で書かれているため俺には読めないので、看板を指さしフラーモに読んでもらった。
「えっと、何て読むんだろう、あれ?」
「フラーモでも読めないのか?」
「ええ。少なくともアッシュフォードの言葉ではないようですね」
よめないものは仕方がない。まあ、大陸をかけずり回ってるグレアムさんならさすがに読めるだろうと、思って、グレアムさんの元に駆け寄った。
「グレアムさん。失礼ですが、あの看板に書かれている意味を教えていただけないでしょうか?」
しかし、グレアムさんの返事はない。じっと視線をあの店に固定したままピクリとも動かない。
「あの、グレアムさん?」
「え? あ、あああ、す、すいませんね。す、少し、か、考え事をしていまして。そ、そっそれで、な、なんですか?」
不自然極まりないほどにグレアムさんはあわてた。その様子に俺は若干の違和感をおぼえた。
「えっと、あの看板に書かれてることって、どんな意味なんですか?」
改めてみてみると、別に不審なところのないいつものグレアムさんだったので、俺は本来の目的通りにさっきした質問を再度した。
「ああ、ちょっと私にも読めませんね。ただ、何度か商品としては見たことがありますね。主に建国以前の時代の文献とかで」
「ということは、解読はできないと?」
「いえ、そういうわけではなくてですね。確か友紀殿は契約精霊をお持ちでしたよね?」
「えっと、確かに契約はしてますけど……」
「でしたら、その精霊に翻訳していただくのがベストかと思います」
そうかその手があったか。
心の中で念じる。頭の中にアイリスが浮かび上がる。
――――なあ、一つ聞いていいか?
――――話は聞いておる。あれは旧レドケムラクス語だな。
――――そのレドケなんたら語ってなんだよ?
――――まあ、かつて東の国を中心に使われていた言語の一種だ。
――――なるほど。で、あれにはなんて書いてあるんだ?
――――わかりやすく言うと、追憶の館といったところかの
――――なんだよ、それ?
――――さあな。しかし、ずいぶんと懐かしいにおいを感じる。
――――どういう意味だよ?
――――そのまんまの意味だ。まあ、少なくとも悪い店ではないだろう。
――――わかったよ。アイリスがそういうんなら、安全だろうしな。
――――たぶんな。ではしばしの別れだ。おねえちゃ――――我が主よ。
そこで会話が終了する。徐々にその輪郭をあいまいにさせるアイリスが完全に消えるのを見届けると、俺は他の6人に言った。
「とりあえず俺の契約精霊が安全だろうと判断したことだし、とりあえず中には行ってみませんか?」
と。
どうも、マチャピンです。
考えてみると昨日で中学生ということでした。高校生になるという実感がなかなかわいてきませんが、とりあえず高1の間はちまちまと執筆をしていくつもりですので、どうか今までどおりに見てやってください。
最後は誤字募集の挨拶に代えさせていただきます。




