第21話「依頼遂行のための依頼」
翌朝、俺たちは昨日その商人――グレアムさん――に昨日もしそこに行くならばここにきてくれませんかと教えられた酒場に指定された時間より早く俺たちはやってきた。
それからしばらくして、グレアムさんが数人の護衛とともに現れた。
グレアムさんは辺りを数度見渡し俺たちを見つけると笑みを浮かべながらこちらによってきた。
「いやーみなさん。来ていただいてありがとうございます」
俺たちのもとへ来るなり、グレアムさんは椅子に腰をおろし、挨拶をした。
「いえ、こちらこそ。それで、本当にいいんですか?」
阿倍が挨拶を返しながら、グレアムさんに訊く。訊いてる内容は、依頼についてだ。
「もちろんですとも。これからそっち方面へ荷物を届けないといけないのでね」
グレアムさんは、ためらいなくそう言った。
「わかりました。それで、依頼のほうは」
「ああ、君たちにはそうだな、ヴェイルドまで護衛してもらおう。昨日も言ったけど遭遇したのはこことヴェイルドの間だからね」
グレアムさんの口から、依頼の内容が告げられる。
「そちらの方たち的にはどうなんですか?」
風音さんが護衛の三人組に話しかける。彼らは、まさか自分たちに話がとんでくるとは思ってもいなかったのかやや答えるのに時間を要した。
「あ、ああ、僕たちの依頼は、この人がこの町から出るまでの契約だからね。別にこの人が誰にどこまでの護衛を頼もうが僕達には全く持って関係ないのさ」
「おい、それはさすがに言い過ぎだろ。とはいっても、若干ニュアンスが違うだけでほぼ同じなんだけどな」
「まあ、とりあえず、俺たちは報酬金さえもらえればどうだっていいからな。それにこの人は先に報酬を支払うから追加報酬さえくれるんだったらその分だけは働くがな」
口々に護衛の三人が言う。
「なるほど、ではお引受けしましょう。それが、お互いのためになりそうですから」
阿倍はそういうなり立ち上った。
「ありがとうございます。これで断られたら今から新しい護衛を探さなくてはならないところでした」
それに応じてグレアムさんも立ち上がる。そして二人はお互いの手を握り、依頼の成立を確認した。
「では、細かいお話を」
二人は席に座りなおして、いらいの細かい部分について話し合った。
その間俺たちは暇なので、同じく暇そうにしているグレアムさんの元護衛の三人組と話し始めた。
軽く自己紹介が終ったあと、身の程もある大剣を背負った大柄の男――ポール――が、そういえばといって、ここ最近流れている噂話についてきかせてくれた。
「お前らしってるか? 現国王のアズベルト・アッシュフォード7世が暗殺されたらしい」
よくある類の噂話だった。
「どうせあれだろ。最近体調を崩して寝込んでるからってだれかが毒をもったって言う根も葉もない……」
噂なんだろ。そう続けるつもりだった。
「いや、今回のは違うんだ」
確認の意味を込めて行った俺の言葉をさえぎり、ポールは言った。
「なんでも、レムイック平原のど真ん中に、焼けた馬車の残骸があったらしい。やげこげててあまりよくわからないんだが、焼け残った装飾品から王家の使用していた馬車と推測できたんだと」
ポールはどこか楽しげだ。その雰囲気が気に食わなかったのか、フラーモは対照的に不機嫌になった。
「なんであなたは、そんなに楽しそうなんですの」
「なんでって、そりゃあ、ねえ。即位式は大々的におこなうんだろ。だったらそこでかわいい娘と……」
「いや、お前彼女いたろ」
「いいんだよ別に、どうせめったに会えないんだから」
「それでもかわいそうとか思わねえのかよ」
「コホン」
「おっと、わりい」
「あなたたち、そんなことで偉大なる父上様がなくなったことを喜んでいるのですか」
フラーモの怒りは、頂点に達したようだった。さすがのこれには、いくつもの死線を潜り抜けてきたポールたちも恐怖を感じたようだった。
ちょうどその時、
「はい、ではこの条件でお引き受けしましょう」
「わかりました。では、明日の同じ時間にここに集合ということで」
グレアムさんと阿倍の交渉が完了したようだった。
「それではみなさん、明日からの依頼、期待していますよ」
にこやかな顔で、グレアムさんがそう言った。
「出来れば、期待されているような腕を見せることがないように祈っています」
同じく笑顔で、阿倍が答える。
お互いに笑った後、今日のところはお開きとなった。
昨日活動報告に本日は21話と22話を更新すると書きましたが、確認してみたところ22話と23話が前後編だったために、本日は21話だけの公開となりました。なにとぞご理解のほどをお願いします。
最後に、誤字脱字などございましたら、速やかにご報告ください。