第20話「動き出す……」
はい、今日はフラーモです
「確かに、あれは怪しいな。とりあえず、目撃情報のあった場所に行ってみるか」
ギルドを出て、宿の部屋に戻るなり、阿倍がそう提案した。
「ああ。今は他に有力な情報も無い訳だしな」
「うん、それでいいよ」
俺と成実も、その意見に賛同する。今は、ほんの些細な情報でも貴重だからな。
「だ、そうだが? フラーモ、お前はいいのか」
阿倍がフラーモに確認する。
ときどき忘れそうになることだが、俺たちはフラーモに傭兵として雇われているのだ。なので、依頼人の意向はきちんと確認しないといけない。もっとも、フラーモのほうもときどきそのことを忘れているようだが……
「はい。とくに問題はありません」
一瞬の迷いもなくフラーモは即答した。いつものことだけど……。
「ちょっと待って。わたしはそれに反対するけど」
みんなの意見がまとまりつつあったところで、唯一この話し合い(?)で一言もはっしていなかった風音さんが異論を唱えた。
「風音先輩、どうしてですか?」
成実の疑問ももっともだ。
今は非常に情報が少ない。確証のない情報だって藁にもすがる思いでなければならない。
それは風音さんだってわかってるはず……。
「みんなは気付いてないと思うけど、わたしが一人であの商人に対応していた時、彼は何度か体が不自然に震えていたんだ。まるで、笑いをこらえているかのように……。もしかしたらこれはわ…………」
「それはきっと、風音さんの見間違えかなんかでしょう。仮に実際に震えてたとします。恐らくそれは恐怖か何かから来るものだったんじゃないですか?」
阿倍は風音さんの意見を片手で制しながら言った。
「それに、仮に罠だったとしてもこっちにとっては好都合です。なんせったって、結果的に俺たちにヒントを与えることになるんですから。いいですよね? 風音さん」
阿倍は、何やら自信に満ちあふれている。その自信はいったいどこから来るのだろう。
「わかった、なら早くした方がいいんじゃない? 罠がしかけられる前につぶすんでしょ?全く、けーちゃんそういうとこ、昔っから変わってないね。」
「そういう風音さんこそ、今も昔も考えすぎなんですよ」
そういうなり、阿倍と風音さんが笑い始めた。
苦しそうな笑い声が連鎖的に響く。昔からの知り合いだから、昔の出来事を思い出しているのだろう。
そんな二人を置いて、俺たちは屋台のほうに向かった。
その夜、カトラエルさんに明日宿を出ることを告げ明日のための英気を養うため俺たちは早めに就寝した。
今回の話は、第20話となっていますが第19.5話と第21話をつなぐ接着剤のようなものなのでこの短さです。
次回の第21話はそろそろアレをやりたいんですが……
最後に、誤字等の報告どしどしご報告ください