第19話「情報収集」
俺と成実が異世界に戻ってくると、辺りはもう暗くなっていた。
宿屋に戻ると、阿倍はまだ起きていた。こっちの世界では2時間ほど経っているらしい。
阿倍と風音さんが戻ってからは、宿泊人数を三人から五人に変更しているので、俺たちも一緒に休むことにした。
それから二日。襲撃から十日。
いまひとつ襲撃者についての情報が入らずに宿に泊まっていた。
「全く情報が来ないな。下手したら、もうどこかに移動しているんじゃないのか」
俺は剣が七本書いてあるカードを捨てながら誰にともなくそう言った。
「かもしれないね。でも、かなりの大人数なんでしょ?」
盾が八つ書いてあるカードを捨てた成実が、隣のフラーモに聞く。
「はい、確か二十いや、三十人くらいはいたと思います」
杖が九つ書かれたを出しながらフラーモが答える。
「だったら、かなり目立つよね」
「いや、そうとも限らないと思うぞ。……パスだな」
「なんで、おねえちゃん?」
俺のパスを受けて、成実は『邪神殺し(ゴッド・キラー)』という異名を持つかなり有名らしい男の書かれたカードを捨てながら、今度は俺に聞いてきた。
「そりゃ、例えば夜に移動すれば、あまり人目につかないだろ」
「確かにその通りですね。しかしそれでも、完全に人目につかないわけではないでしょう」
どこの貴族か全くわからないおっさんの書かれたカードをフラーモは捨てた。初代国王らしいが、俺には全く関係ない。……いや、金貨に書かれている顔がこれだから、少しは関係あるのか。
「確かにな。あ、俺パス」
「わたしも」
「では、また私からですね。これでわたしはあと一枚です」
今度は四枚の羽根の書かれたカードを、フラーモは場に出した。
「では、まだどこかに潜伏しているのでしょうか」
「さあな、今は阿倍たちが情報を集めに言ってるから一度戻ってくる昼まで待とう」
六個の杖のカードを、俺は捨てた。良し、これで俺もあと一枚。しかもその一枚が『月明かりの魔女』と来た。これで今度こそ……。
さっきから何をやっているかというと、元の世界で言うところのトランプだ。ただし本来の用途は占いだそうだ。ただなんとなく、剣、盾、杖、羽の四種類各十枚とこの国の歴史に深くかかわっている人が書かれているのが、十二枚ほどあったから代用しているだけだ。
それで、昨日からちょくちょく、俺たちの知っているゲームをしている。今やっているのは大富豪。
「わかった」
成実は、貴族のおっさんを捨てた。トランプに直すと、ミツバの十一。月明かりの魔女が、ハートの十二だから、勝てる。……ここでフラーモが出せなかったら。そして、さっきまでの勝負の結果から行くと……。
「よし、これでわたしの上がり」
フラーモは、『白銀の癒し手』――ダイヤの十二を捨てた。
また負けた。これで、本日二十五連敗。通算五十三敗一勝。圧倒的結果にも、ほどがある。
「じゃあ、もう一度勝負しよう」
成実が、フラーモにまたしても勝負を仕掛けた。
「では、わたしか切ります
そう言って、フラーモがトランプもどきに手を出した瞬間、部屋のドアが勢いよく開け放たれた。
「みんな、よく聞いてくれ。さっきこの町のギルドにひとつ情報が入ったそうだ。いま、風音さんが情報を聞いている。俺たちも早く行くぞ」
阿倍の手によって。そして、その阿倍は新たな情報を持ってきた。俺たちの依頼を達成するための、そして、フラーモの家族を助けるための、新たな情報を。
さっそく俺たちは、トランプもどきを片付け、外出の用意をした。とはいっても、元からこのような事態を想定し、いつでも出かけられる用意をしていた俺たちは特に準備を必要としなかった。
「こっちで、早く来い」
この数日で、異様に町の地理に詳しくなった阿倍を先頭にしてギルドまでの道を行く。俺と成実は、本来フラーモの護衛のため食事のときにしか町に出ないためだ。
カトラエルさんの宿を出て、正面の通りを西に進みいつも夕食のときお世話になっているエスティさんの店の角を右に曲がってその次の角をまた右、そのまま進み二つ目の角をまた右に、そしたあ、すぐ左に曲がる。そうしてようやく大通りに出ることができた。
この町に来てから、初めて――来たときは、別の通りからこの町に入った――の大通は、かなり賑やかだった。クレライト以上に。
ダメだ。仮に俺が護衛じゃなくても、この道を覚えるのには少々苦労しそうだ。複雑に入り組んだ路地にたくさんの人々。普通に歩くだけで、迷うそうだからな。
「ギルドは、この通りを右に曲がってすぐだ。早く行くぞ」
そう言って阿倍は歩きだした。あわてて俺たちもあとに続く。
「ここだ」
阿倍の言った通り、いや、それ以上にすぐだった。なんとすぐ右側にある壁、それがギルドの壁だった。
中に入ると、まるで別世界のようだった。いや、ここは別世界なんだが、そうじゃない。辺りの喧騒がまるで遠くから聞こえてくる気がする。ここだけが、隔離されたように。
そんな場所に、机を挟んで会話する二人組。
一人は四〇代くらいの商人。もう一人は、風音さん。
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