第18話「旅にて」
少々苦笑いを浮かべながらもカトラエルさんは、俺たちを常連客用の大部屋に通してくれた。
その後俺たちは荷物を部屋の中に置き、いったん宿を出た。この町で4は、町内の屋台で夕食をとるのが基本だと教わったからだ。
夕食後、阿倍たちが戻ってくるのを跳躍していった場所で待った。しかし、しばらくしても阿倍たちが帰ってこなかった。
仕方がないので、その日は宿に戻って寝ることにした。
翌日
「んー、久しぶりにちゃんとしたところで寝た気がする」
俺は背伸びをしながら、ついそう呟いてしまった。
気持ちのいい朝の目覚め。ここのところ、馬車の荷台で雑魚寝していたので思いのほか疲れがたまっていたのだろう。その疲れが取れたので、いつになく気分が軽くなっている。
そこでふと、隣のベッドを見てみる。
昨日の夜とは違う服に身を包んだフラーモがそこにいた。
ちなみに、この部屋にはベッドがあと一つ。だがそこに成実はいない。何でも、「この世界では一応男なわけだから、女子の部屋には入らない」とか行ってたから、たぶん別の部屋で一人で寝ているはずだ。幸い、もう二つほど寝室がこの部屋にはあったし。
「二人ともまだ戻ってきませんね」
フラーモが、そう言った。それは、強引に話題を作ろうとして結果、特に思い浮かばなかったから言ったのかも知れないし、それとも本当に気にしているのかも知れなかった。
前者ならこちらからも提示すれば何とかなるが、これはおそらく後者だ。
「いったいいつまであっちにいる気なんだか。後々の用事が長引くからさっさと来いよ」
後々の用事といったらあれしかない。変更されてはいるが、俺たちとフラーモの間にある重要なつながりの内の一つだ。
「まあまあ、如月さんたちだってわざとゆっくりしているわけではないんですから、そう焦らないでください」
「だけど、フラーモはいいのかよ」
「何がですか」
「こうしてグダグダしている間にも、お前の家族を殺した輩が遠くに逃げているかもしれないんだぞ」
それが一番心配だ。いや、それよりもここの場所を割り出してここに襲撃に来る方が心配か。とにかく、事は一刻を争うのだ。本当ならば、あっちの世界になんて戻る暇なんてない。さっさと敵を殲滅し、依頼を達しせねばならない。
「それに関しては、おそらく大丈夫だと思います」
だがフラーモは、そのことに関しては今はまだ心配しなくていいと言った口調でそう言った。
「何を根拠にしてそう言えるんだ」
「えっと、わたしの家系は……そこそこ上流な部類です。なので、見せしめのために殺される可能性が高いと思います」
フラーモは、少しためらいがちにそう言った。そこで隠そうとしなくとも、あれだけ大きな別荘を持っているのなら隠す必要なんてないと思う
だがまあ、なるほど。それならば、ひとまずは心配いらないな。
「それに、仮に見せしめのために殺すとなると、それなりの準備が必要なはずです。ならば、それまでに救出すればいいんです」
「そんな簡単に言うけどな。いったいどこで処刑するんだ。この国の国土、結構広いんだろ」
馬車で移動中に教えてもらったのだが、この大陸は現実世界でいうところのユーラシア大陸ほどの大きさがあるという。この国は他の国と比べてもやや小さいらしいのでだいたい六分の一ほどの面積だと思われる。そんな莫大な面積の中で、あらかたの目星なしにはたして見つかるのだろうか。
「だいたいの見当は付いています」
見当は付いていたらしい。
「どこで執行するんだ」
「王都に、公開処刑するための処刑場があります。たぶんそこで……」
「そうか。今からだと10日ほどはかかるか。って、なんで見せしめに処刑するって決まってんだ? あそこにたくさんの遺体があったろ。あの中に居なかったのか」
あそこに遭ったおびただしい数の死体は、今でも記憶にこびりついている。その中に、フラーモの家族はいなかったのか?
「はい、確認はしました。けど、あの遺体は皆、護衛用の武具など付けていましたから……」
フラーモの表情は、徐々に暗くなっていく。
微妙な心境なのだろう。今は殺されている可能性は低いが、だからと言ってこれが、10日、20日となってくると、徐々に可能性は高くなっていく。本当は、今にも助けに行きたいのだろう。その証拠にいつの間にかフラーモの手は強く握られている。
「そうか。なんか、失礼なこときいたな」
「いえ。こちらこそ、こんなことになるとは知らず依頼してすいません」
そう言いながら、フラーモは笑った。それは、散る寸前の桜の花のようだった。
「気にすんな。初めからこうなることはうすうす感づいてたんだ。だったら、あらかじめ予想していた通りに行動すればいいんだから」
全て俺ではなく、阿倍の予想していたことだがな。これは言わない方がどちらにとっても得だろう。
「そうですね。今はまだ、後手後手に回ってますけど、いつか必ず……」
その後は、とくに何事もなく過ぎて行った。
やがて日が傾いてきたころ、俺たちは夕飯をとるために本日もまた町へと繰り出した。
色とりどりの食材や料理、あちこちから聞こえてくる笑い声などの中、俺たちはこの地方でよく食べられているらしい米によく似たものと不死鳥の卵という名の鳥の卵と茹でて、赤いソース状のものをぬり串に刺さってる料理を一つずつ買った。
それを、阿倍たちが跳躍した場所の近くのベンチに並んで腰掛けながらそれらを食べた。
不死鳥の卵はその見た目どうりに辛く、また不死鳥ごとく何度でも辛さがよみがえってきた。
そして、ちょうど全員が食事を終え、どこかにゴミを捨てる場所がないかとあたりを見回している時に、背後からそれは聞こえてきた。
俺はとっさに振りかえった。そこには、
「よっと。さてと、友紀たちはどこにいるんだ」
それは4年半近く聞いてきた男の声だった。
「圭ちゃん、後ろ後ろ。友紀ちゃんたちいる」
「本当だ。そんじゃ、ただいま」
阿倍と風音さんが立っていた。
宿泊地一日目と二日目です。
この街も温泉街ですが、今回はそういうシーンはありません。
本当に申し訳ありません。
さて、今回もいつもどおりに
誤字の報告、お待ちしております