第17話「依頼」
「ひどい。こんなことするなんて……」
風音さんが、ぽつりとつぶやいた。
目の前には、まるで空襲にでもあったのかといわんばかりの焼け野原と、馬車の一部であっただろう黒くなった木片。そして、いくつもの炭化した人。
「なあ、なんで俺たちはこんなところにいるんだ?」
もっともな阿倍の疑問。しかし俺たちも、初めからこんなことだとは予想していなかった。
ことの始まりは、六日ほど前にさかのぼる。
「実は、わたしたちの馬車が襲われてしまって……」
さきほど室内に入ってきた少女は、どこか悔しげな声でそう言った。
「だから、父上たちを助けてください」
そして彼女は、俺たちに依頼してきた。
その依頼し対して、阿倍はこう言った。
「助けてやりたいのは山々なんだが、それは難しいな」
「報酬ならちゃんと出しますし、準備や食料、宿泊代だって出します。だから……」
「それでもだ。出来れば他を当たってくれ」
「もうこの街には、あなた方以外に頼める人がいないんです」
「そうか、なら仕方ない。あきらめてくれ」
「なんでですか。なんで受けてくれないんですか」
ことごとく断る阿倍に対して、少女はいら立ちを隠せなり、懐からナイフを取り出した。そしてそれを阿倍の首筋に突きつける。
「俺を殺してどうするつもりだ?」
ナイフを突き付けられている当人は、平然としていた。
「もちろん他にあたります? あなたの遺言どうりに」
「やれるものならご自由に」
「死んでから後悔してもわたしは知りませんよ」
「ちょっと待てー」
俺と成実の二人掛かりで、少女を阿倍から引き剥がす。危うく少女を殺人者にしてしまうとこだった。
「放してください。わたしはその男を殺さないといけないんです」
「えっと、君は何しに来たの? 阿倍を殺しに来たんじゃないんでしょ」
拘束されたままの少女を、風音さんが説得する。
その言葉で、本来の目的を思い出したのか、少女はもう一度要件を伝えた。そして、またもや阿倍に断られた。
「どうして、助けてあげようとしないの?」
風音さんは、阿倍がなぜ依頼を断っているか疑問のようだった。
「いや、別に助けないとは言ってませんけど」
「あれ? さっきは無理だって言ってなかったけ?」
成実が言った通り、確かに言っていたはずだ。
「難しいとは言ったが、無理だとは言ってない」
「は? すまん。もう一度詳しく説明してくれ」
無理だから断っていたんじゃなかったのか?
「いいか。まず前提条件として、俺はこの依頼を内容を一切知らない」
「えっと、どういうこと?」
風音さんが、阿倍に続きを促す。
「とりあえず一番重要なことは、俺が依頼人の名前を知らないことだ」
「あれ? わたし名前名乗りませんでしたっけ?」
そういえば、俺の彼女の名前を聞いていない。成実や風音さんはどうかと二人を見たが、二人とも首を横に振った。
そこから、全員で簡単な自己紹介することになった。
「フラーモといいます。よろしくお願いします」
阿倍、俺、成実、風音さんの順に行い、最後に少女――――フラーモが自己紹介を済ませた。
「よし、これで前提条件は整ったわけだ。さて、次に依頼内容を確認しよう」
「わかりました」
先ほどの自己紹介とは違い、やや緊張した空気が場を包む。
「さて、まずは場所だな。襲撃された場所とここから何日かかるのかだな」
「レムイック平原付近です。ここからだと結構な距離になりますから早くても5日はかかりますね」
「となると、襲撃から十日ほど。別の場所に移動している可能性が高いな」
「いえ、ここまで来るのにかかった時間は半日ですので、ここからの日数だけです」
「どういうことだ。さっきは五日ほどかかると言ったはずだが」
この世界には移動時間を短縮する方法があるのかも知れない。
「わたしの隠れ家がこの近くの村にあるので、そこまで転移しましたから」
「そこから再び転移はできないのか?」
なるほど、転移魔法か。確かに、それができれば比較的依頼を遂行しやすくなるだろう
「出来ることにはできるんですが、転移対象が私だけなので皆さんは同行できなくなってしまいます。そして、それでは皆さんと契約する依頼が意味をなくしてしまいますから」
「やはりそうか」
「どうするのんだ?」
「どうするも何も、歩くか馬車しかないだろ」
「馬車なら、村に着いてからすぐ手配します」
「村によることは確定なのか」
「はい。ここからだと、やや方向は違いますけど確実に馬車が手配できるので、手に入るかどうかわからない町でひたすらさまようよりも効率的かと」
「そうだな、それともう一つ」
「なんですか?」
「依頼内容についてだ」
「圭ちゃん、それはさっきも説明されたんじゃ?」
確かに、フラーモはこの家に入るなり依頼内容の一部を言った。あの時阿倍もいたはずだから、きいていないなんてことはないと思うのだが……
「確か聞いたさ。だがな、はたして今から向かったところでその場所にいるとは限らない。いや、むしろ連れ去られるか殺されている可能性の方が極めて高い。ならば、連れ去られていることを前提にしてフラーモの父親たちの救出や、殺された時を考え襲ってきた奴らの殲滅なども視野に入れといた方がいいと思っただけだ」
阿倍が放った言葉は、最悪の可能性が起きた事を考えての発言だった。それゆえに、依頼人であるフラーモは想像してしまったのだろう、俯いてしまった。
しばらくして顔をあげたフラーモは、きちんと前を向いて、
「依頼内容は、父上たちの救出。それが不可能となった場合、もしくはその過程においての敵の殲滅。これでお願いできますか?」
依頼内容を告げた。
「わかった」
そう言って、阿倍とフラーモはがっちりと握手を交わした。
これからもなにかを依頼された時は、阿倍に対応してもらおう。実際俺と成実はあまり会話に参加していなかったし、風音さんは終始笑顔できいているだけだった。
そんなこんなで、町を出発し、フラーモの隠れ家のある村で馬車を入手(どうやらフラーモは貴族の令嬢のようなので馬車かあった)し、一同はレムイック平原へと向かった。
そして、旅すること六日。目前には、あまりにも悲惨な光景。
「依頼内容を変更します。襲撃者を殲滅してください」
この光景を目の当たりにした遺族フラーモの心には、静かに、でも激しく怒りという名の炎が燃え始めた。
マチャピンです。
どうもすいません。昨日は文化祭で忙しく更新しませんでした。
なので、一日遅れの投稿です。
さて、今回やっとフラーモの名前を出せました。
前回の後書きにも書いたとおり、まだまだ活躍してもらいます。
少なくも、あそこらへんまでは……
ではいつもどうりに、
誤字等の報告を心よりお待ちしております