プロローグ2 「ある骨董店にて」
それは四月二十七日、いつもと変わらない放課後の出来事だった。
今年十五歳になる少年、古泉友紀はその日もいつものように家までの帰路を歩いていた。だがその日の友紀は放課後に特に予定もなく時間に余裕があったため、ただ帰宅するのではなくどこかに寄り道をしていこうと思った。
「あれ? こんなところにこんな店あったけかな? ま、いいや。入ってみるとするか」
そして友紀はそう言いながらたまたま目に付いた怪しげな骨董店に入っていった。
後になって思い返してみると、昨日までここは何もないただの空き地であった。普通たった一日たらずで建物を建設することは不可能だ。そもそもこんな怪しい感じの骨董店になんか入らなければよかったと思う。
しかしこのときの友紀は、知らぬ間にできていたこの店のことが気になって入ってしまった。これから自分の身に降りかかることになる運命を知らずに………
中に入り、友紀は店内を見渡した。
店内は、外から見た以上に広く様々な種類の骨董品が並べられていた。
「いろいろな商品があるな。置物、壺、掛け軸、皿、……なんだこれ。化石って書いてあるけど明らかにこれプラスチック製だよな。つか、いったい何を基準にして並べたんだこれ」
どんな基準を持って並べたのかわからない商品の配置だった。高級そうなティーセットの横にどうして三葉虫の化石が置かれているのか。そのような並びで棚に所狭しと並べられている。また、棚同士の間隔も狭く、全体的に窮屈な印象を醸し出している。
しかし、人が歩くスペースも狭いのかというとそういうわけでもなく、人が二人並んでも十分にすれ違える分の空間はあった。
もっとも人が他に居ないために広く感じている可能性もあるのだが。
しかし客はともかく、店員の姿が見えないことに友紀は不用心だと感じつつもどこか不安を覚えた。
だが、どことなく好奇心を刺激された友紀は気にせずに店の中にある品々を見て回った。
隣のコーナーでも、秩序ある混沌が繰り広げられている。
商品の価値は友紀には分らなかった。そもそも価値のある商品があるのかどうかすらわからなかった。
しかし友紀は、ある少し古ぼけた小さな箱が何か自分に語りかけてくるような気がした。
だから彼は、その箱を手にとりその表面を眺めた。
それは友紀の手の中に納まる程度の大きさで、文庫本くらいの重さだった。
「持ってみると意外と古びた感じがしないもんだな。いったい何が入ってるんだ」
箱のふたを開け、中を覗く。
中には今度こそ古そうなペンダントが入っていた。手前には茶色く変色した紙が折りたたまれて入っている。
「ペンダント? なんかずいぶん古そうだな。それと、なんだこれ? あちこち破れてて読みづらいけど紙だよな。なんでこんなのが一緒に入ってるんだ」
中に入っていた紙を広げてみるとそれは所々破れ失われていた。残っている部分にも何が書いてあるのかわからなかった。見覚えのあるアルファベットが使われていないため少なくとも英語でないことしかわからなかった。
その言語自体には多少興味が湧いたが、友紀はペンダントといったアクセサリー類に興味はない。なので、それを箱に入れもともとあった場所に戻そうとした。
とその時後ろから声がかかる。
「お探し物ですか、お嬢ちゃん」
友紀は男なので自分のことではないだろうと思い、自分以外にも客がいたのかと驚きながら顔を上げて辺りを見渡した。
しかしどこを見てもお嬢ちゃんどころか、他に誰もいなかった。
なにかの聞き間違いだろう。そう思い、友紀はもう一度ペンダントを戻そうとした。
しかし、今度はすぐ後ろから先ほどと全く同じ声が聞こえてきた。
「今この店には、お嬢ちゃんとわし以外誰も居ませんよ。それで、それがほしいのかい? お嬢ちゃんによく似合うと思うよ」
この店の中に他に誰もいないということは、お嬢ちゃんとは友紀ということになるのであろう。後ろを向くといかにも趣味で骨董屋開きましたという感じの、五十代ぐらいの男性がそこにいた。彼は先ほどまで誰も居なかったはずの空間に立っている。友紀は自分でも意識していないほどの長い間ペンダントを見ており男性の接近に気付かなかっただけなのか。それともこの男性が何もない虚空から現れたのか。
常識的に考えれば前者であることは分かるのだが、どこか後者と言われても納得できそうな雰囲気がその男性からは漂っていた。
「いえ、少し気になったもので。それと一応俺は男ですので」
友紀はその男性に買わないという意思を告げた。ついでに、性別についての誤解を説くのも忘れない。
とはいえ今は関係ないが友紀という名前、百五十二センチの身長、変声期前の声、色白な肌、女顔という容姿のため学校ではクラスメイトから常に友紀ちゃんと呼ばれており、女子連中は俺のことを羨み、なにかと女装させようとしてくる。
そのような外見のため、少女と勘違いされてもおかしくはないのだが。
「そうかいそうかい、それは失礼したねお嬢ちゃん。ところでその品は…」
男性は笑顔でそう言う。間違いは訂正されていない。学校帰りのために学生服を着ているのでそれで判別できる気もするのだが。
それよりも男性は先ほど客は友紀しかいないと話していた。ということはこの男性がこの店の店長なのであろう。彼は友紀の持つペンダントの説明を始めた。
このような人間は一度語りだすと止まらないと思われる。
「で、この品はいったい何なんです?」
だから延々とその説明を聞きたくなかった友紀は、いきなり結論に持っていく質問をした。
その瞬間男性の目の色が変わった。
「こんなおじさんの話を聞いてくれるのかい?お譲ちゃんは優しいね。この品はね………」
結局彼は長々とこのペンダントについて語り始めた。どうやら、先ほどの言葉は逆効果だったようだ。
集会のときの校長の話というものは大概聞き流すだろう。それと同じようにその話を聞き流していた友紀だったがある言葉だけは聞き逃さなかった。
「で、このペンダントには、魔法の力が宿っていて、持ち主の願い事を一度だけ叶えてくれるんだ。ただ………」
しかし、突然そんな魅力的な言葉が聞こえてきた。どう考えてもおかしい。非科学的だと思う。
「買います!!いくらですか?」
だが実際友紀はこう口走っていた。
今月の小遣いの残金が底を尽きかけている。だが、あと数日で五月になり小遣いをもらうことができる。今使い切っても問題はないだろう。そう思い友紀は購入を決意した。
女子扱いされるこの現状を変えられるなら、そう思った。
「え?だけどこれは………」
ここにきてなぜか男性は渋る様子を見せた。この品を売りたくないのか? それとも単に話足りないだけなのか?
後者であったのだろう。けれど友紀がもう一度強く買いますと言うと男性はすんなりとそれを売ってくれた。
幸いなことに、提示された金額は友紀の財布に入っている金額でも足りる価格である。
よし、これで、今までの自分とおさらばできるぞ。
そう思いながら帰路についた。
あとがき
友人がTSを書くといっていたのでじゃあ俺も、という感じで書き始めた作品です。
TSは好きなのですが、書くのは初めてなので読みづらいと思いますが、どうか、見捨てないでもらえると、幸いです。
では、第1話でお会いしましょう。
16/8/29 4:05修正