第16話「アットホーム」
一瞬の浮遊感とともに、俺たちは見慣れない場所へとたどり着いた。
十畳くらいはあるだろうか? 木によって仕切られた空間だ。
右側には、いくつもの棚。
左側には2階へと続く階段。
正面には、4脚の椅子と大きなテーブル。
後方には、木製の扉。
これってもしかして、
「……家?」
阿倍がぽつりとつぶやいた。
「うん、どう見たって家だよね」
阿倍の一言に、またしてもなぜか男になっている成実が同意する。
自分のことは? 気にしない方針で行く。
それよりも、そう、家だ。本当にどう見ても。
その後俺たちは、とりあえず家の中をくまなく見て回った。誰の家ともわからない家をあさるのには、多少良心が痛んだが、その結果一つのことが考えられた。それは、
たぶん、この家には現在誰も住んでいない。
初めは、ただ出かけているのかと思った。しかし、それにしては奇妙な点が多すぎる。
まずこの家は、きれいすぎるのだ。
仮に、これが掃除した後だとする。だとしても、掃除をすると、箒や雑巾が汚れるはず。しかし、押し入れの中のぞうきんなども、一切汚れてはいなかった。
次に、この家の中には、生活するのに必要なはずのものが、ほとんど何も存在しないことだ。
家具類や、食器などだけはきちんと存在する。しかし、クローゼットはあっても、その中には衣服が一着も無かった。また、食料庫の中にも、一切の食料が入っていなかった。
他にも、その家具類にも傷が全くついていないとか、木本来の香りが漂ってる気がするとかいろいろあったが、主にその二点で判断した。
「で、これからどうするよ」
唐突も無く阿倍が言った言葉に、俺たちはなかなか答えられなかった。
普通なら、この家は俺たちのために用意された家なんだと思う。
しかし、たまたま今日がここに引っ越してきた当日で、ちょうど今服か何かを買いに行ってる最中で、そこに偶然俺たちが時限跳躍してきたのかもしれないという、気がしてならなかった。
とりあえずここはいったん出て行って、また数日後にここを訪ねてみて、一切の変化がなければここが俺たちの拠点になると判断して、荷物などをおこう。
そう結論に達した時、唐突にドアがノックされた。
「すみませーん、だれかいませんかー?」
少女の声とともに。
「おい、誰か行けよ」
阿倍が小腹をつつきながら言ってくる。
「じゃあ、お前が行けよ」
俺は自分から怪しい罠にかかりたくたないので、いやいやここをお前が行くべきだろ的空気を作りながら、阿倍を促す。
すると阿倍にしては珍しく、引き下がろうとしたがその時、
「待って、ここは最年長である私がいく」
風音さんが、自ら行くと宣言した。
そして風音さんは立ち上がり、ドアへと向かおうとする。
「いや、ここは私が行く」
風音さんを成実が引き留める。
正直、成実に行かせてもいいと思うんだが、確実にこの展開はまずい。素直に阿倍が成実を行かせることも考えられるが、ここで某漫才みたく俺が行くと言って、期待した目でこっちを向かないとも限らない。
ならば、答えは一つ。
「いや、ここは俺に行かせてくれ」
高らかに俺はそう宣言した。
答えはそう、先に名乗りを上げること。
さあ、阿倍よ。逃げ道はなくなった。後はこの自分も手をあげないといけないような空気の中で手をあげて、自分が行くと宣言すればいいのだ。
阿倍は、最初から自分が行くつもりだったのか、はたまた諦めがついたのか、口を開くのはすぐだった。
「だ、そうですよ。ここは友紀ちゃんが行ってくれるそうですよ」
そうそう、潔くお前が行けば……って、は? 俺に行けと。
「そうね、ここは友紀ちゃんの希望を優先してあげましょう」
「うん、お姉ちゃんあれだけ行きたそうに言ってたしね」
風音さんも、成実も俺が行くことに許可をくれた。よし、じゃあ行ってみなすか……って、そうじゃねえだろー。
「なんで? なんで俺が行くことになってるの? ねえ、教えて」
「いや、だってお前が行きたいって言うし」
「いやいや、そこは空気を呼んでお前が行くべきだろ」
「なんで? 俺や風音さんたちはかわいいかわいいお前の意思を尊重してやってだけだけど?」
「あのー」
「誰がかわいいだって?」
「お前に決まってるだろ? この文脈でそれ以外にだれがいるってんだ?」
「すみませーん」
「成実とか」
「普通なら姉に似ててかわいいけど、この世界方向性が違うからな。後やっぱりお前はシスコンか」
「だれでもいいんで」
「シスコンじゃねえよ。じゃあ、風音さんとか」
「さっきまでの会話の中に、いつ風音さんの名前が出てきたんだ?」
「きてくれませんか?」
「俺や風音さんたちはってちゃんと行っていたはずだが」
「風音さんの名は、そこで一度出ただけじゃねえかよ」
「あのー」
「出たもんは出ただろうが」
「そういうことじゃねえっての」
「すみませーん」
「じゃあ、どういうことなんだよ」
「それは……」
「だれかー」
「何か言いたいことがあるなら、はっきり言えよ」
「……」
「ほんとにだれでもいいんできてください」
「「部外者は黙ってろ」」
「ひっ」
「二人とも、いい加減にしたら?」
俺たち二人は、その言葉で我に返った。
ガキの喧嘩のようなやり取りをしていた俺たちは、訪ねてきた少女をする―してしまったのだ。それも、中にも入れずに。顔すら出さずに。
「まあいいわ。ほら、入りなさい」
ドアを開けて、家の中へと少女を招いた。
12か13歳ぐらいの金髪の少女は、びくびくと震えながら中に入ってきた。
よほどさっきのが怖かったのだろう。なんだか、申し訳のない事をした。
「それで、私たちに何か用なの?」
風音さんが、その少女に問いかけた。
「えっと、その。頼みたいことがあるんですけど」
「何かな。俺たちにできることなら、なんでも引き受けるよ」
阿倍が、そう言った。こいつ、ハードルをあげやがって。
「実は……」
異世界2回目です。
友紀は疑ってますが、この家もちろん彼(彼女?)達のためのものです。
一応新築です。
そして、少女の登場です。
この少女にはもう少し活躍してもらう予定です。
さて、なんだか最近書くのも面倒になって来ましたが、いつもどうりに終わりたいと思います。
誤字脱字を見つけました方は、感想のところにでも報告していただけると幸いです。