第15話「嵐の前の日常」
阿倍が先導して、阿倍の部屋に入る。
6人も入るとさすがに息苦しいのでアイリスとメサビュートは、部屋に入らずもう一度階段を下りていく。アイリスは、一緒に居たがっていたが……。
中には当然のごとく風音さんがいた。
「えっと、友紀ちゃんと成実ちゃんだよね。一応、はじめましてなのかな、如月風音です」
中に入るなり、風音さんが自己紹介してきた。
前回もしたが、やはり、あれは別世界でのこと。もう一度きちんと挨拶をしておこうということなのだろう。
「はじめまして、古泉成実です。あっちでは、なんかよくわからないけど男の子になっていたけど、こっちが本当の姿です。そしてこっちがお姉ちゃんの……」
「成実、お前いつもいつも人の性別を……。まあいい、それは置いといて、いや、よくないんだが、とりあえず、古泉友紀です。前回はスルーされた気がしますが、男です」
俺と成実も自己紹介をした。もちろん、きちんと性別についての訂正もしておく。後々、取り返しのつかないことになりそうだからな。
風音さんは、少し驚いた様子をしていたが、やがて阿倍の方を向くなり、
「あれ? でも圭ちゃんいつも友紀ちゃんたちのこと、姉妹って言ってなかったけ?」
おかしなことを言った。どうやら、風音さんは阿倍からの情報によって俺のことを女子として判断したようだ。その証拠に、今の発言と、俺のことを友紀ちゃんと呼んだことの二点があげられる。
「ん? ああ。友紀ちゃんは、ちょっとそういう趣向の持ち主だから、自分のこと男の子と勘違いしてるんだよ」
プチン。何かの切れる音が頭の中でした。おそらくは、堪忍袋の緒。
「な、友紀ちゃん」
そう言って、阿倍は同意を求めるように、俺の方を向く。
最後に阿倍の見たもの。それは、
「元凶は、お前かー」
そう叫びながら、殴りかかってくる阿修羅の姿だった。
「……えっと、私はこれからどう呼べばいいの?」
暫くして、少し戸惑いながら、風音さんがそう言ってきた。
戸惑いの理由は何だろうか。俺が男ということに対してだろうか。それとも、もう5分以上経っているのに、ピクリとも動かない阿倍に対してだろうか。なんだか、そのどちらでもない気がする。
ちなみに成実は、さっきまで阿倍のことを部屋に置いてあった木刀(小学生のころ、修学旅行で買ったもの)の先で、突っついてたが、飽きたのか、本棚から漫画を勝手に抜き取って読んでいる。
「今までと同じでいいですよ。あっちに行くと、甚だ不愉快ですが、女子になっているので」
「じゃあ、普通に友紀ちゃんと呼ばせてもらうね。でも、友紀ちゃんはそれでいいの?」
「いいか悪いかで言ったら、やっぱ悪いですけど。でも、妥協するのも必要かと思いまして。まあそれでも、性別とか譲れない物もありますけど」
ただの確認だったのだろう。風音さんは、それで納得してくれた。
「あと、クラスメイトには、古泉と呼ばせてます。こうやって、性別をぼかすのがせめてもの妥協です。それでもさん付けとかで、女子扱いされますけど、もしそんなことしたら……」
「そんなことしたらどうなるの?」
風音さんが、興味ありげに繰り返す。
「男子なら、今のあれのようになります。先生や女子なら、まあ、諦めます」
俺は、阿倍を指さす。
「えっと、ちなみに阿倍君は、あれで何回目?」
「もう、いい加減諦めたので、よっぽどのことがない限り殴ってませんね。ただ、正確な数は分かりませんが、100回は軽く超えてますよ」
嘘偽りなく答える。声は事実だ。少5で同じクラスになって、その年に50回以上殴って、学校にお互いの親が呼ばれて、阿倍の親に、いい教育になるからもっと殴ってくれとお墨付きをもらって先生にあきれられたから、たぶん300回近いと思う。
「おい、阿倍。どうせ起きているんだろ。これで何回目だ?」
「しらねえし、一々数えてねえよ。だいたいなんだよ、今日は2回目だぜ。もう少し加減してくれよ。こっちの身が持たない」
「ところで、お前どこの所属だっけ?」
「スルーしやがって。つか、言ってなかったけか?」
「ああ。たぶん言われてない。あっちの世界では、お前に会ってないからな」
記憶の上では、阿倍には会っていない。
「そうか」
阿倍は何か納得したようにポンと手を打った。
「そうだそうだ、お前と風音さんと知らない男もとい成実ちゃんの3人に声をかけようとしたところで送還されたんだった」
「なるほど、お前のあそこにいたというなら、アッシュフォードの所属か」
あの宙に浮いてた少女も、パーティは近くに固まるとか言ってたらしいしな。ん? ということは、こいつも……
「アッシュフォード所属も何も、ここにいる4人で一つのパーティじゃないか。あっちの世界でも仲良くやろうか、友紀ちゃごふ…………」
本日3度目の気絶状態に阿倍は陥った。もう完全に常連だ。
その後、意識を取り戻した阿倍を含めた4人で、明日以降の相談をしてから帰宅した。
帰宅してからは、なんか面倒なので手抜きの夕食を作り、風呂に入り、リビングでくつろぐ。そんないつもと変わらない日常の風景。
しかし、そのマンネリ化した生活の中にアイリスが加わり、いつもと違った日常へと変貌した。
昔買ったきりで、あまり使われなかったボードゲームやテーブルゲームを押し入れと化している部屋から引っ張り出して遊んだ。
暫くして、成実とアイリスが遊び疲れたのか、そのまま寝てしまった。それから、どれぐらいの時が経っただろうか。
突然、リビングの扉が開いた。
そして、
「ごはんちょーだーい」
母が帰ってきた。
もう一度繰り返す。
アイリスがいる状態で、母が帰ってきた。
アイリスも寝ます。
どうも、マチャピンです。
阿部の所属について書いた記憶がなかったので、その辺についても触れました。ただ、記憶があいまいなので、下手したらどこが出書いているかもしれませんが……。
最後に、誤字脱字等がありましたらご報告ください。