第14話「阿部の無駄知識」
阿倍家の玄関前に友紀、成実、アイリスの3人はいた。
「一応アイリスは、隠れとけ。何があってもいいようにな」
「別に何も起こらないと思うのだが、まあ、友紀の頼みとあらば」
阿倍に聞かれたときに説明がめんどくさいのでいったん消えてもらう。
そうして、チャイムを押す。すぐにドタドタと足音が聞こえてきた。そしてすぐにドアが開き、中から阿倍が出てくる。
「よう、やっと来たな。あがれよ」
俺と成実は、阿倍に招かれるまま中に上がった。
「ところで、風音さんは?」
さっきから風音さんの姿が見えない。まだ来ていないのだろうか。
「上にいるよ。ほら、お前らは先に行ってろ。俺は飲み物とか持ってくからさ」
もう来ているらしい。ま、あの電話からもう50分近くもたっているので来てない方がおかしいだろ。
「わかった。成実、いくぞ」
「待ってよ、お姉ちゃん」
階段に足を乗せたところで成実が俺を引きとめた。
「どうした」
「え、あ、いや。これ何かなって」
「どれ、かしてみろ」
成実から何かを受け取る。
それは見たところ、金色に輝く円形状の物体だった。
「何だこれ? 金貨みたいだけど」
「おいお前たち、そんなとこにいないで、さっさと上に行けよ」
阿倍がやってきて、俺たちをせかす。どうやら、結構な時間がたっていたらしい。それにしても早かった気がするが……
「なあ、阿倍。これなんだ」
阿倍に金貨を渡してみる。
「ん? ああ、金貨だよ。見りゃわかんだろ」
阿倍は一瞬ぽかんとして顔になったがすぐに、うんざりしたように答えてくれた。確かにそのとおりなのだが、
「そうだけど、これどこの?」
知りたいのはそこじゃない。
「アッシュフォード。その表に書かれてるのが初代国王の肖像で、裏面のは国旗」
嫌そうにしながらも、阿倍は説明してくれた。
アッシュフォード。あの国の金貨が何故こんなところに?
「なんでこんなものが、ここにあるんだ?」
「封装から出せるから。たぶんお前のところにも、5枚ぐらい入ってるはずだぞ」
へー、そんな機能が封装にはあったのか。
「ん? あっちで見たときには、そんなものは入ってなかったよ」
あっちで中を確認した時には、ギルドカードと丘で採取した花しか入っていなかった。
「そりゃそうだろ、金だけは入ってるところが違うからな」
なんだそのめんどくさい仕様は。完全にRPGじゃねえかよ。
「そうか。じゃ、どこにあるんだ」
「まず、封装に意識を集中しろ」
「わかった」
「そしたらRPG風なアイテムウインドウが出てきたろ」
目の前に、今朝見たのと同じウインドウが出てきた。中にはアイコンが二つある。
「ああ。つかこれ、あっちの世界だけじゃなくてこっちの世界でも使えるのか」
ま、あくまでも脳内になので場所を選ばずに使えるのだろう。今思ったんだが、これ何かと便利だな。これで堂々と学校に不要物を持ち運べる。
「みたいだな。で、次行くぞ。そしたら、右上の方に数字が書いてあってその後ろにAsってないか」
「ああ、500Asって書いてある。このAsってなんだ? やっぱ通貨の単位なのか?」
「そうだ。アッシュという単位だ。正直、国名を略しただけのように聞こえるだろ」
普通に考えても、結果も通貨単位だった。通貨単位以外だったら、是非とも教えてほしいものだ。そして、適当につけたような、単位だ。
「ああ、だが実際は違うのか?」
現地語で、財産とか意味があるのだろうか。少し興味と期待を抱いて阿倍を見る。隣では、成実も同じようにしている。
「いや、違くない。ただ、初代国王の名がアッシュだったから敬意をこめて通貨の単位にしたという説もあるが」
「だったら期待させんなよ」
ほんとにただ略しただけだったらしい。期待させるような言い方するなよ。
「ちなみに、同盟国である南の国「歴史と学問の国」ハクルヒャミンの単位はHlでハクルだ」
「なんかめんどくさい国名だな。その、ハルクなんたらは。しかもまた国名略しただけじゃねえかよ」
隣国も、似たような通貨単位だな。
「ハクルヒャミンだ。そして今度は違うぞ。もともとハクルヒャミンは、ハクルという小さな都市国家だったんだ。それが、長い時間と姑息な手段を用いて一つの大国となったことを祝って国名を変えた。そしてその時に、今までの国名を通貨単位にして残そうと考え、今の通貨単位になったんだ」
なるほど、せこい手を使って大国まで成長したのか。そして、単位の由来あまり替わってねえじゃねえかよ。
「とりあえずいろいろといいたいことはあるが、まずは、何故お前はそんなに異世界史に詳しい」
こいつの異世界に対する知識は、異常な気がする。今朝召喚されたばかりなのに、なんでこんなに詳しいんだ?
「ああ、こいつに聞いたんだよ。でてこいよ、メサビュート」
阿倍が奥に向かって誰かを呼ぶ。
すると奥から、「りょーかい」と気だるさそうな声とともに180はあろうかという青年が現れた。
「お、今はその姿か。さっきジュース取りに行ったときは爺さんのかっこだったのに、なんで変えたんだ?」
阿倍が、青年メサビュートに話しかけている。おそらく、アイリスと同じで、めんどくさい性格をしているのだろう。
――――誰がめんどくさい性格をしているだって?
脳内にそう声が響くと、アイリスが実体化した。
「おい、おま。ここで実体化するなよ」
「いつ実体化しようとも、私の勝手だ。成実もそう思うよな」
「え、私?」
阿倍の家に入ってから、一言も話さなかった成実にアイリスは話を振った。宝言えば、成実阿倍の家に上がるのは初めてだったな。
「んっと、まあ、アイリスちゃんの自由なんじゃないかな?」
成実よ、自分の意見を主張するのに、なんで疑問形になる?
「まあとりあえず、上に行こうぜ」
阿倍がそう言って、階段を昇り始めたので、会話はそこで打ち切りになった。
そして、一同は階段をのぼり始めた。
「アイリス、どこかで聞いたことがある気が……」
だからこのとき誰も、メサビュートのつぶやきに気づいていなかった。
どうもマチャピンです。
久々に後書きを書く気がしますが、この数話で、アイリスとかメサビュートとかが出てきました。
他にも友人から、8話でギルドカードを出すときにどういう風に出しているのかがわからないという意見をいただいていたこと思いだしたので一応この回で書きました。今後、加筆修正が8話までいけば、たぶん同じく描写されると思いますのでどうか見捨てないでください。
最後は普段どうり締めたいと思います。
誤字脱字がありましたら、ご報告いいただけると幸いです。