第13話「電話と俺と」
「はい、もしもし」
『あ、やっとつながった。そっちは友紀ちゃんであってる?』
電話から聞こえてきたのは、同年代の少女の声だった。
落ち着いた感じのするその声の主は何度もかけてきたのだろう。若干安堵の色がうかがえる。ただし、こちらが誰かを確認するときの声音には、少々の疲労感と祈りを漂わせている。
推測だが、これで違かったら、もう一度同じ作業をするのかと思っているのだろう。ここで違いますというのもそれはそれで楽しそうがだ、その少女にすこし同情したので、止めておく。それに、この電話は、そんなことをしない方がいいと、今までの生活の中で培われてきた俺のせ生存本能がそう訴えかけている。
「合ってますけど、えっと、どちら様ですか?」
少女は名前を名乗ってはいない。しかしながら、さきほどの声には、少し聞き覚えがある。名前は確か……
『あ、ごめんごめん。如月風音です』
そうだ、風音さんだ。でもなんで、風音さんが? あれは夢じゃなかったて言うのか。アイリスといい、風音さんといい、俺の妄想の産物じゃなかったのか? でもこれが現実だとしたら? あれは本当にあったことなのか? じゃあ、俺は……
『……友紀ちゃん? どうしたの?』
「え? あっ、はい、すみません。で、何でしょうか?」
軽く考え事をして黙っていたので、風音さんが少し心配そうにきいてくる。
『えっと、ちょっとこっちに来てくれない?成実ちゃんも一緒に』
「はい、今成実も一緒にいるので二人で向かいます。用事の方は?」
『こっちに来てから話すわ』
風音さんのところに行けば、要件がわかるらしい。ただ、たぶん異世界のことについてだろう。
骨董店が消えているので、これからの用事は何もない。なので、「すぐそちらに行きます」といいかけた。その時、俺は気付いた。
「はい、わかりました。で場所の方は?」
風音さん、名前の次は場所を言い忘れてた。
『阿倍くんの家なんだけど、場所は分かる?』
風音さんもそれに気付いたのか、少しばつの悪そうな声で場所を教えてくれた。
指定された場所は、俺もよく知っている場所だった。そして、もっともよく行く友人の家だった。
そこを指定するということは、俺たちのパーティメンバーの最後の一人が阿倍なのだろう。プレイヤーは一つの地域にまとめるとか説明されたし。
「はい、何度も行ったことがあるので」
『よかった。じゃ、友紀ちゃんも出来るだけ早く来て。私もすぐ行くから』
「わかりました」
今更知ったが、風音さんはまだ阿倍の家に行ってないようだ。しかし、学校から見て、俺の家の付近のこの空き地と阿倍の家はまるっきり逆方向なので、風音さんの方が先につくだろう。しかも、こっちから行くとなると、あの坂を登らないといけないし、また迂回しようとすると、坂を登るより五分ほど時間がかかるのであちらの方が、比較的時間にゆとりがあるだろう。だが、いい暇つぶしにはなると思う。
『あ、あとこれ、私の携帯からかけてるから登録しておいて』
一緒に、メールアドレスも教えてもらいメモ帳に走り書きをする。普段から持ち歩いていると、こういう時に便利だ。そういえば、あっちに行ったときにはばんそうこう堂宇用持ち物から消えていた気がする。
「はい。じゃ、俺のも登録しといてください」
こちらだけ聞いておくのも失礼なので、たぶん登録しているとは思うが、一応そう言っておく。
『阿倍君が、電話番号からアドレスから住所から生年月日から挙句の果てには四月現在の身体的情報まで何でもかんでも教えてくれたからばっちりだよ。成実ちゃんは番号とアドレスだけだから安心して。じゃ、きるよ』
そういうなり、風音さんは電話を切ってしまった。やはり、風音さんは、俺と成実のを登録していたか。
それと阿倍。どうなるか分かってるんだろうな。せいぜい俺が家に着くまでの時間で、懺悔しておくんだな。
「誰から?」
とりあえず、何の罪いもない風音さんの個人情報を登録し終えると、妹に話しかけられた。
「風音さんから。阿倍の家に来いって」
そう言ってから、俺はさっきからこっちを見ている目線の方を向いた。
「じー」
「何だ、アイリス?」
向いてもなお、射抜くような視線をアイリスはやめない。
正直、心の奥まで見透かされてるようで、居心地が悪いので、出来ればやめてもらいたい。少なくとも、何故そういう風に見られているのかが知りたい。
「いや、さきほどまであんなにこれは夢だと騒いでたのに、こんなにも早く開き直れるのかと」
どうやら、アイリスにとって、電話の言語での俺の態度の違いを不思議に思ったみたいだ。
「いや、普段からいろいろと理不尽な目に遭ってるんだぞ。これぐらいのことでいちいち驚いてたら体が持たないっての」
実際は、実はこれも夢であることを望んでいるが、そんな薄い希望にすがるよりは、開き直った方が、この世の中上手く行く。
……まあ、たかが14年しか生きてない奴がないを言う、って感じだけどな。
「なんだかよくわからんが、マスターも苦労しているのだな」
アイリスが、釈然としないようすながらも、同情してくれた。ありがとう、この世界で、俺の苦労をわかってくれるのは、アイリス、君だけだよ。
「まあな。さてと、嫌な予感しかしないが、阿倍の家にいってみっか。阿倍に、いろいろとききたいことがあるし」
早く奴をやりたいので、成実に旨を伝える。
「わかったよ、お姉ちゃん。それで、ききたいことって?」
「あの世界でどこにいたんだとか、お前はどこの国所属なんだとか、あれあほんとに現実なのかとかいろいろだ」
「ふーん。で、ほんとのところは?」
さすがはわが妹。ちゃんと、本当の目的もわかってるじゃないか。ここは隠してもしょうがないので、正直に伝える。
「お前には人の個人情報を守るという考えはなかったのかとかだな」
「なかったんじゃない。だって実際にこうして風音さんから電話がきてるんだし」
冷静に返された。しかし、成実の言ってることは、俺も考えた事なので何も反論できなかったし、そもそもする気もなかった。
「だよなー」
最後は適当に締めて、俺たち3人は、阿倍の家へと歩き出した。
ストックに比較的余裕ができたので、明日も投稿します