第11話「変わり始めた日常」
第2章はじまりました。
「『……の名誉にかけ、全力をあげてこの崇高な理想と目的を達成することを誓ふ』えー、以上が日本国憲法の……」
社会科担当のニヤケの声が教室に響いている。
今は、六時限目。社会の授業中。まったく、何が特別時間割だ。今日一日だけで五教科全てやるのはきついだろ。しかも、英語が二時間ぶっ続きとか、もう嫌がらせとしか言いようがないだろ。まあ、他のクラスは知らんけど。
それにしても、今朝は変な夢を見た。
俺が異世界に召喚される夢だ。しかも、魔法がどうだとか、国がどうだとか、なんかよくわからないことをひたすら説明される夢だ。
その夢の中では、成実が男になってたり、まあ、その、あれだ。ああなったりしてたんだ。
少なくとも、俺にそういう趣味はない。夢とは、心の奥の妄想を見せるものと聞いたことがある気がするが、これは、変なペンダントに期待していた俺が無意識のうちに逃避した結果だと思う。そうに違いないんだ。うん、きっとそうだ。
あのおっさん、でたらめ言いやがって。放課後、もう一度あの店に行って文句の一つや二つ言ってやろう。
そう決意し、放課後まであと何分か確認するために時計を見る。この席だと、斜め前の席に座る男が邪魔になり見づらいので、見る時計は腕時計だ。
文字盤を見ると、現在時刻およそ二時五十分。今日はというか、いつもどうりに部活はさぼるので今日は三時半ごろ帰宅になる。俺は、そこから普段ならあまり使用しない計算能力を駆使し放課後までの残り時間を導き出した。
「よし、あと四十分か」
短いようで長い。
最初から授業など聞く気がないので、今朝見てから何度もやっている夢について考えてみる。
夢にしては、やたらとリアルな夢だった。
そんなことを考えて、授業を聞き流していると、気がついたときにはもう本日の授業はすべて終了していた。
「ああー、やっと終わった。さてと、帰りの用意をして、さっさとあそこに行きますか」
「おい、友紀。呼ばれてっぞ。早く行ってやれ」
俺が、今日一日の疲れを解きほぐすために背伸びをしていると、後ろから聞き覚えのある奴の声が聞こえてきた。実際は疲れるようなことは何もしていないような気もするが、ただ単に椅子に座らされ続けるのも精神的にかなり疲れるものなのだ。
そんな状態なので、出来れば誰ともかかわりたくなかった。なので俺は、いつも使っている手段を利用させてもらうとしよう。
「わかった。生徒と教師と人間に対してなら、俺は行方不明になったか死んだか世界は滅びたとでも伝えといてくれ」
「……いや、まあ、普通の奴だったらそれでもいいんだけどさ、妹ちゃんなんだよな。お前呼んでるの。あと、それいつきいてもおかしい気がす……」
「仕方ない。行くか」
その言葉を聞くなり、俺はすぐさま立ち上った。え?何か聞こえるって?たぶんそれは空耳だ。
「うわー、相変わらず重症だな、こりゃ。こいつのシスコンは一生治らねえんじゃねえか」
「うっさい黙れ。俺はそんな変態的趣向じゃねえ。行かないと、あとが怖いんだよ」
実際、拒否して後悔したことがある。あのころはまだお互いに幼かったから、加減とかがわからなかった。もう二度と、あんなことにはなりたくない。
にやけながら俺に手を振り、「いくら実の妹だからって、浮気するなよ」と言ってくる阿部を無視し、俺は廊下へ向かった。
「おねえちゃん、一緒に帰ろう」
廊下に出るなり、成実が抱き着いてきた。
ほのかな甘い香りが鼻腔をつき、胸の鼓動が高ま……。おっと、これじゃほんとに阿倍に言われた存在になってしまう。
「俺、これから行くところがあるから先に帰ってく……」
「お姉ちゃん、どこ行くの? 家に帰ってもどうせ暇だから、一緒に行ってもいい?」
どうやら、妹を連れて行かないといけないようだ。
「……お姉ちゃんはさ、今朝のあれ、現実だと思う?」
校門を過ぎ心臓破りの坂を下り終えたころ、成実がそうきいてきた。
「今朝のあれって?」
「……異世界に行って、魔術がどうのこうのとか言ってたあれ」
たぶんそうだろうなと思いながらも、一応確認のために聞いてみると、案の定、予想どおりの答えが返ってきた。
なので俺は、
「ん?何のことだ?心当たりがないな。で、それは一体なんだ?」
とぼけてみた。
「え?あ、いや、なんでもないの。忘れて」
「気になる言い方だな」
「何でもないから、気にしないで」
「そんな言い方されたら、余計に気になるじゃないか」
「だから何でもないの!!お願いだから忘れて」
おっと、ここでやめておこう。かわいそうだから。後が怖いとか全然そんなんじゃないんだからな。絶対に、絶対に、ぜぇったいにぃ、違うからな!!……たぶん。
そんな会話を繰り広げながら、骨董店に向かう。
「……骨董店、どこにもないね」
「……ああ」
そこにあるものは、何もない空間。
一昨日は、存在していたはずの骨董店はあとかたもない。また、確かにそこにあったという決定的なものもない。あるいは、それ自体が偽りの記憶の中だけに存在していたのかもしれない。もちろん、あのおっさんもいない。
ただ、だとしたら、このぺンダントや成実のチョーカーは一体何なのか。ここで買ったのではないとすると、いったいどこで手に入れたのか。購入したこともまた、偽りの記憶なのか。
そう考えてると、ズボンのすそが、誰かに引っ張られている感じがした
振り向くとそこには、7、8歳程度の銀髪少女が、無言でこちらを見ていた。
「えっと、お兄さんになにか用かな?」
しゃがみこみ、嫌な予感がしながらも、俺は、その少女に話しかけた。
「……」
「えっと、君は誰?」
「……」
「お母さんかお父さんとはぐれたの?」
「……」
「もう、お姉ちゃん。ここは私に任せて」
埒が明かない俺と少女のやり取りに業を煮やしたのか、成実はそう言って、俺の返事を待たずに、少女に話しかけた」
「えっと、私たちに何か用?」
「……………………んの様子を………………」
「「え?今なんていった(いったの)?」」
「お兄ちゃんの様子を見にきた」
………………どうやら、午後も午後で、一悶着ありそうです。
どうも、二か月ぶりのマチャピンです。更新が遅れて、いろいろとご迷惑をおかけしました。
諸事情が解決したので、再び投稿させていただきます。
今回の話は、どうなるのでしょうか?少しでもまともな章になればと思うマチャピンでした。
PS.現在プロローグ2と第1章を加筆修正中。現在、プロローグ2の投稿が終了しています。そちらも楽しんでいただけたら、幸いです。