第9話 「はじめてのけーやく」
――――心地いい。
俺が最初に思ったことは、そんなことだった。
俺の目の前には、青白い光。いや、徐々にその色の白さを増していく光。
視界を白く塗りあげ、体を包み込んだ光の中に、妹と同じくらいの年齢に見える色白で裸の美少女現れ、俺の脳に直接語りかけてくるような声で、こう聞いてきた。
――――汝、何を求めて我を望んだ?
そんなこと聞く前にとりあえず、服を着てください。
その姿は健全なる男子中学生に見せるものではないと思います。
するとどこから出てきたのか彼女の周りにはうちの学校の女子制服が現れ、それを彼女は身にまとった。
――――これでよいのだな。さて、本題に戻るとしよう。
えっと、何だっけ。
あ、何を望んだか、だっけか?
特に何も願った覚えはないので、俺は何望んでない、と答えた。
すると、目の前の精霊なのかよくわからないものが、一度キョトンとした表情になり、・・・・・・盛大に噴き出した。
おいおい、そんなんで笑うことないだろ。
――――しかし、我を望む者など、たいていは世界がほしかったりだとか、不老不死になろうとしたりだとか、よくて権力を掌握したいといった、そんなやからばかりだったからな。何の目的も持たずに我に魔力を流す者など、汝が初めてだからな。
はい、きたこれ。魔力。どこまでファンタジーな世界なんですか。それにしたら送還の理由とかに、人間臭い何かを感じるけど。
――――そういう世界なのだからしょうがないだろ。それとも何か。お前の世界には、魔力がなかったのか?
一応俺たちの世界にも魔法はあった。俺たちの地域だと七校が有名だった。
ま、素質のない人は、入学できなかったけどな。
つか、なんで人の思考が読めるんだよ。
――――さっきから会話は、声に出さずに成立していたろ。
たしかに。・・・・・・ってさっきから口調が変わってますよ。
――――これが普通だ。気にしないほうがいい。それとも、妾に自分を押し殺せと申しているのか?
めんどくせー性格してるな、この人。あれか。こいつ若手芸人にでもなろうとしているのか。
――――わかてげいにんとは何だ。
この世界に、若手芸人はいないのか。見た限り、この世界には吟遊詩人ぐらいしか娯楽がないのだろうな。
えっと、それは・・・・・・。
――――・・・・・・っは。お前のせいで、本題からずれてしまったではないか。どう責任とってくれるのだ?
俺のせい。俺のせいなの。
って、せ、責任?責任って何の話?
そんな動揺した俺を見て、目の前の精霊(仮)は、笑った。
――――ほんとにおもしろい奴だな、お前は。気に入った。さて、本題だ。私は精霊だ。人間に力を授けることができる。そこで、お前に力を授けよう。お前なら、悪用することもなさそうだからな。
そう言っている時の目は、俺の内面でも見ているかのようだった。
本当にいいのか?俺がそんな善人じゃないかもしれないんだぞ。
断られるかもしれないので、すこし不安になって、そう聞いてみた。
――――お前はそんなことしない。今までの奴とは違う。そんな気がする。
今までの奴とは違う、か。ちなみに今までの奴はどうなったんだ?
――――たいていの奴は、精神崩壊させて自由にさせた。それは、どうでもいい。契約するのか?しないのか?
どちらかというなら、契約はしたい。
力が手に入れば、勝利する可能性が上がる。
なので俺は、この精霊と契約をした。
体に魔力が流れてくる。
元の世界にいた時には、あまり感じなかった力だけに、違和感がある。
というか、違和感しかない。
・・・・・・って。おまえの名前聞いてなかった。俺は、古泉友紀。お前は?
――――うむ、名前か。そういえば名乗ってなかったな。そうだな、アイリス。そう呼んでくれ。
わかったよ、アイリス。
――――では、ここでお別れだ。また会おうではないか、我が主。
どういうことだ。契約したばかりなのにお別れなんて。
――――なに、これからは、お主のそばにずっといる。必要とあらば、封装から出て、実体化もする。だから心配するな。すぐにまた会える。
なるほど。じゃあな、アイリス。
そういうと、俺の周りを包んでいた光が薄くなった。
目の前には、驚いた表情の二人の顔があった。
「お姉ちゃん、今の何?なんか、光ってたけど」
「いま、高密度の精霊力が。いったい何がおこったの」
・・・・・・二人の驚きかたが違う。
妹は、純粋に俺を心配しているようだ。
対してもう一人は、精霊力がどうのこうの言っている。ところで、精霊力って何?
そう思ったので聞いてみると、どうやら精霊力とは魔力と同じもので、他にも霊力とか神力とかいうらしい。
なぜ、そんなめんどくさいことを、と思わなくもないが、そうなってるなら気にしない方がいいだろうと結論付けた。
そのあとは、俺、妹の順に自己紹介をした
俺のカードと妹のカードにも、所属しているパーティが書いてあった。
ユキ・コイズミ:女:14:Lv1:精霊契約者
中央王国「光と正義の国アッシュフォード」第1パーティ所属。
そんなことが、カードには書いてあった。
・・・・・・もちろん性別のところは気にしない方針で行くと決めた。妹のところに、「男」と書いてあったのは、盛大に笑ってやった。
妹も、俺たちと同じパーティだった。
妹の自己紹介が終り、ひとしきり質問した後、目の前の少女が自己紹介を始めた。
「如月風音。第7魔法高等学校2年生です。先天的属性は、風属性ですが水属性も少し得意です。あと、一応これでも副会長やってます」
・・・・・・この人、かなり強くね?
属性うんぬんのところは、よくわからなかったが、七校の副会長は、2年と3年の中でそれぞれ一番強い人が選ばれるらしい。会長は、生徒の投票だが、学力と能力がどちらとも一定以上じゃないと、立候補すらできないらしく、まれに条件に合う候補者がいなく、その年の会長が不在になることもあるらしい。
ということは、俺たちの中には魔法に関する知識を持つ者がいることになる。
さらに、俺は精霊と契約している。
ならば、俺の願いをかなえられる確率が上がる。
この時の俺は、そう思っていた。
しかし現実はそう甘くなかった。
・・・・・・おかしいな。
はじめはアイリスいなかったのに、いつの間にか登場してきた。
作者は、数話先の内容を考えながら書いている(と自分は思っている)はずなのに、彼女は、書いているときにいきなり出てきました。
最後に、誤字脱字がありましたら、ご報告お願いします。